11.小さなことでも徹底的に形にしてみる

考えているだけでなく、まず形にしてみる

 

  形にして初めてわかり、納得することが実に多いものです。知っているからとか、わかっていると思っても、できることとはまったく次元が違います。また聞いただけや見ただけでなく, 実際にできることで体験となり、手を使って形をつくることで、体に浸み込むようにしていけば、相手は納得しやすくしかも忘れにくいものです。社内ですぐにできる整理、整頓、そして清掃の5S活動でも、やれることはすぐにやってみるべきです。これで綺麗に片付いてスッキリしたことも納得できますが、それはあくまでもあったものを整理して廃棄したり、片付けたりしているものであって、何かを形として作り上げるといったものではないので、達成感はあっても納得感はもう一つかと思います。

 

 形あるモノの事例として最近良く効果を上げているのが、「生産管理板」です。これは最低今日と明日の生産計画が見えるようにしたもので、付け加えるならば段取り替えがいつ発生するかどうか、またその時間がどれくらいなのかが一目で見えるようにしたものです。一つのことを徹底して活用し始めて、社員がいつもそれを見て作業を順番通り行うようになれば、仕掛は減ってしかもリードタイムは安定してきます。負荷状況を見えるようにして、段取り替え中、計画停止、故障、メンテ中、生産中などの稼働状況も見えるようになれば、それらに連動して管理監督者の動きに迷いがなくなり、異常が少しずつ減っていくのがわかってきます。

 

 形をつくりそこに魂と入れるという言葉がありますが、ルールを作成して毎日その場に関係者が集まり、短時間でも顔を合わせて合意を取り、さらに何か伝え合うことも顔と顔を合わせて目配せすることが肝心なのです。さらに「人員配置板」もできると、今日の欠勤者、誰がどの生産現場に配置されているか、応援は誰がいつどこに行けばよいかなどの組み合わせが良く見えるようになり、社員も関心を持って見るようになります。

 

 また「段取り替え台車」も効果がある形づくりです。これがあると外段取り時間を簡単に3割以上も削減できますので一気に効果が見えます。また内段取り時間の削減に「オカモチ」といって、工具類をお膳のように並べて設備内に持ち込んで、振り向き作業をなくして時間短縮するものを用います。またこの「オカモチ」を設備の上に取り付けて、2軸や3軸のアームに付けて自在に折り曲げることで、簡単に出し入れできるようにした改善も非常に安価でしかも効果の出る事例です。安価で簡単に製作できることが横展開を容易にしています。これらを上手く起爆剤にして活用するのが今回のヒントになります。形にして見えるようにして、それを使うことによってアイデアがさらに生まれ、アイデアがアイデアを呼ぶようになり、改善の意識が変わっていくのです。

 

 

職場から部門、フロア、そして工場に横展開していく

 

 簡単にできるもので、まず一つでよいので自ら手を汚して作り上げることです。それを職場において、本当に活用できるまで検証してみます。1から3週間もすれば良さがわかってくるものです。大切なことは後戻しをしないために、3日、3週間、3ヶ月というキーワード「3」を意識して、区切りを付けてチームや職場で検証して行きます。良く「三日坊主」という例えがありますが、その通りなのです。逆にその「3」の付く期間にビシッと決めると、皆さんの意識も継続していくものです。

 

 そして社員の意識を変えていくには、多くの人に知ってもらう必要があり、横展開が不可欠です。一部の職場だけにとどめていても、何が変わったかもわかりませんので、やはり一目で変わったというくらい変化が必要です。その職場でよかったと感じたら、その前後の行程から始めて、その部門さらにフロア全体に広げていけば、変わってきたことが認識できるようになってきます。そして狙った良さも少しずつ社員の間で納得できるようになって行きます。1つのことを徹底してやっていくと、レーザーのように一点集中することで突破口が開けてきます。自分の工場でこの中に効果がありそうなものを選んでもらい、その一点を工場全体に展開していくと見た目にも変わるので、意識も変わっていきます。これは既に何度も経験していますので、是非皆さんの工場でも実施して欲しいと思います。これらの製作は、いずれもお金を掛けないでもできることばかりです。

 

 

やがて改善の加速度がついてくる

 

  ある程度の横展開が進んできますと、どこからともなく賛成者が現れてくるものです。「実は私もこのようなことをやりたかったが、そのきっかけがなく悶々としていた。」という隠れ改善ファンが必ずいるものです。今までの経験ですが、100人に1人はいます。つまり1%の人は潜在的な存在がいるものです。50人の工場なら誰もいない勘定になりますが、逆にその中から該当者を探すことの方が容易だと思います。マイナス思考ではなく、プラス思考でやれば“この指とまれ式”で誰か出て来るものです。その仕掛けやきっかけづくりは、やはりトップの仕事だと考えます。

 

 世の中の出来事も事例があるように、テレビなどの家電製品をはじめ、世の中に流行りだした始めの頃は小さな変化であっても、ある程度大きく広がると一気に展開した例は、特に押しボタンのないガラス板の携帯電話(スマホといいますね)がそうです。この数年というより、3年で一気に広がったのは記憶に新しいことです。

 

 今度はそのやる気のある人を推進役にして、トップの直轄で工場全体の展開も任せるように仕向けると、改善の横展開も一気に加速度が増してきます。さらに兼任ではなく専任にすると、今までの業務は他の人に任せるので大変になると思いますが、市場の環境変化は今非常に変化していますので、これを機会に変えていく時期と考えます。特にリーマン・ショック後の市場変化が想像以上のものであることは、経営者の皆さんは肌で感じ取っておられるはずです。

 

 でもやるぞといって社員の前で宣言し行動を起こし、工場内に何らかの変化の起爆剤や組織変更などを実際にしたという経営者は少ないと思います。これらをやってもお金を掛けることは少ないのでリスクも少ないものです。ただ人材(この場合は人財でしょう)は、先行投資だと割り切って、思い切って専任化をして結果を出し、継続して出し続ける人財育成を図ってはどうでしょうか。早く実践した方が得策だと思います。