3.製造現場はあかちゃんと同じで手間がかかるもの

製造現場はいつも変化している

 

  市場環境が加速度を増して変わりつつあり、その影響を受けて多品種小ロット化が進み、生産ロットの段取り替えも、従来よりも数多く発生するようになって来ています。営業も設計も生産計画も、変更が多くなっていると思いますが、実際に物事が変わらざるを得ないのは、製造現場そのものです。顧客からの数量や納期などの変更依頼、コストダウンやVEなどによる設計変更、素材や購入品などの納期遅れによる対応、設備や治工具のトラブルなどによる工程変更など、問題が山積しています。悪いことに、前工程からの問題が、最終的に後工程である製造に降りかかってくるものです。従って、製造現場は実際に物を動かさなければならないのであり、てんやわんやの状態です。

 

  以前にある工場で、異常が発生した時にすぐにラインを止める仕組みをつくりました。しかしその対応が素早く出来なかったために、現場の従業員から逆に反発を買ってしまい、投げやりな雰囲気になってしまったことがありました。そこで今度こそ本当で異常対応が素早くできる仕組みを改善担当者と一緒に考え直すことにしました。

 

  異常があったときの報知は、火災報知器のベルを使用して職場内に誰でも分かるようにしました。これが作動した時の音は、本当に心臓が胸を突き破るくらいビックリさせられます。赤ランプもパトライト方式にして点滅が分かるようにしました。さらにそれだけでなく、工作室、生産技術、製造技術のメンバーを再編成してもらい、救急隊を配置しました。以前はこの救急隊の存在が不明確であったため、他責になってしまい結局機能しなくなってしまいました。これらの反省を踏まえて、新に取り組むことにしたのです。

 

  当初は1日に数十回も火災報知器が鳴り響き、従業員も作業が出来ないほど煩く、フロア全体から苦情が出たほどでした。それでも異常があれば異常ベルを鳴らしなさいと指示しました。救急隊には大変だろうけどしばらく我慢してもらいながら、素早い処置と再発防止を実施してもらいました。当初は救急隊や従業員の皆さんも四苦八苦していましたが、3週間も経つと何と異常は十分の一以下に減ってきました。

 

  今まで目先の処置ばかりやっていて、何も根本の対策をやっていなかったことが分かってきたのです。そのことに対してとやかく責めるつもりはありませんでした。責任は彼らにはなく、工場の体質がそうなっていたので仕組みがなかったことが問題だったからです。異常が再発しなくなると生産性は一気に向上してきます。やればできる、そしてそのことが良い方向に結びついたと自分自身の喜びとなり、それらが噛み合いながら回り始めてから雰囲気が俄然良くなりました。

 

 手間が掛かるからこそ、いつも見守っていることが必要

 

   製造現場は子育てのようなもので、しかも自分一人で何もできない赤ちゃんのようなものだとも考えられます。むしろ製造現場は赤ちゃんのように手間が掛かるものだと認識を替えた方が良いでしょう。「今まで本当に自分の子供を育てるように看てきたか?」と問質しますと、「はい!」とは抵抗があるかと思います。この「看る」は、看護の「看る」です。字を良く見ますと、「手」と「目」で構成されています。実際に自分が現場に出向いて物を直接触り、部下とは心を込めて話をしてきたかどうかということです。

 

  実際に子育てをしてきた人は、自分の赤ちゃんのオムツ交換をした時に、ウンチやシッコは汚いと思ったことはないでしょう。我が子の下の世話を、手袋をつけて交換することは絶対になかったはずです。それは当然のことであり、我が子は可愛くて仕方なかったからですね。製造現場も同じように考えてはどうでしょうか?工場内で唯一付加価値を生んで、工場全員の給料を稼ぎ出している源泉であると思い直すと、我が子のようになんとも可愛くていとおしくて堪らなくなってきませんか?

 

  実際にモノを加工し生産して付加価値を生む生産現場は、まるで赤ちゃんがすくすく育つような作業環境です。これを整備していくことは、工場全体がより良い方向に進んでいくことにもなります。赤ちゃんは自分で異常を知らせることができるのは、大きな声で鳴くことだけです。その泣き声で、お腹が減ったのか、おしっこがでたのか、どこが痛いのかなどを察知しなければなりません。お母さんは、その泣き声ですぐに赤ちゃんが何を訴えたいのかを察知し、素早く処置をします。それはいつも赤ちゃんと一緒にいるからこそ、素早くしかも的確に察知して対応ができるのです。

 

  現場で毎日発生する諸問題も同じことです。赤ちゃんが泣くことを全く止めてしまうと、病気なったのか逆に心配になってきますね。現場が何も言わなくなってくるのは、多くの場合が上司やトップの態度によるものです。赤ちゃんと同じで現場は手間が掛かるものであり、手間が掛かるからこそ育てる意味もちゃんと持っているということです。 

 

 

笊(ざる)の中に水を溜めるには?

 

  笊で水を掬うことは網になっている穴がたくさん空いているので到底無理ですね。掬い上げた途端に水は穴からスーッと抜け出てしまいます。それでは笊の中に水を一面に溜めることはできますか?それは、いつも笊を水の中に漬けておけばよいのです。頓智問題かと思われるかもしれませんが、これができるようでできない良い習慣なのです。勉強も仕事も趣味も同じことであり、いつもそのことをやり続けているからこそ上手になります。それが簡単にできるようになると、自信がついて、さらに向上しようと努力を自ら行動するようになっていきます。

 

  いつも製造現場に出て従業員の皆さんに声を掛けながら動機付けをし、見守って彼らを育成していくことは、なかなかできるものではありません。クレームや大きなトラブルがあった時だけ製造現場に出向いてすぐに対策を取るのは、余りにも虫が良すぎるというもので、従業員はそれに積極的に応えようしないものです。普段からの行動、態度、習慣が効いてくるものだと思います。まさに職場は上司の鏡だと思います。逆に誰もやらないことを確実にやっていくことが他社との差別化になります。思っている人、考えている人、やろうとしている人は多くいますが、実際にやっている人は非常に少ないもので、1%や10%とも言われています。実際にやった人が勝つのです。