5.できる改善と必要な改善

まずは全員でできる5S活動から

 

   さあ改善をしようとトップから声を掛けられても、すぐにやりましょうというわけには行かないと思います。何をどこから着手して良いかの見当も付かない場合が多くあります。相撲も同じかと思いますが、いきなり呼び出しがあってすぐに土俵中央にお互いが向かい合います。そこからいきなり「ハッケヨイッ!」の行事の掛け声と共に、両者が立合うことはないはずです。両者が土俵に上がり、そんきょをして拍手を打ち両手を広げ、さらに塩を取って土俵に払い、四股を踏みながら準備運動(いわば儀式のようなもの)を約4分間も行なって、立合って相撲を取り合うのです。たった数秒間(時には1分以上の大相撲になる場合もあり)で勝負がつくことがありますが、それに至る準備は相当やっているはずです。相撲の場合には「心技体」を鍛えるといった地道な普段の稽古が必要になります。改善にも「やる気・やる腕・やる場」という条件整備が大切だと思います。

 

  まず大切なのは「やる気」です。いくら目の前に人参をぶら下げても、お腹一杯なら馬でも食べる気は起こりません。トップが改善しなさいという指示を従業員に説明し理解させるだけではダメです。理解だけでは頭や顔で分かったふりをして、首を縦に振ったりちょっと笑顔になったりする演技に騙されます。改善の必要性を徹底的に噛み砕いて相手が納得することであり、つまり説明ではなく説得することなのです。部下に心で納得させて腹に入れ込ませないと本当の行動に結びつきません。これは上司の部下に対する説得の格好の訓練にもなりますが、自ら実践しないことには身に付きません。トップ自らの真剣さ、意気込みを試されているのです。これが「やる腕」になります。

 

  その実施方法の最適な一つに、トップ自ら参加して従業員と一緒に5S活動を実施していくことがあります。これには特別な講義や技術は不要であり、しかも5Sのうち整理・清掃・整頓の3つをやれば良いのです。つまり清掃と表示標識の道具があれば十分なのですぐに実行できます。トップ自らが手を汚し、汗を流し、従業員と同じ視線で五感を使って工場の現場の現状把握を行なうのです。ここで単に不要物を捨てるとか、汚れていたものを綺麗にするだけでなく、実態がどのような状態にあるのか事実を確認し、その悪さ加減を体に染み込ませるイメージで捉えることです。実際に視点を変えて手に汚れを掴み拭き取ることで、見えなかったものが見え始めてきます。これは参加者全員が得られる共通財産になります。改善は一人でやってもちっとも面白くなく、できるだけ多くの仲間とやることが楽しくて勢いもつきます。これが「やる場」です。

 

 

 

次にできる改善で自信をつける

 

 

  5S活動を実施したことで色々な問題に気づき、顕在化もしてきます。その発見した問題を解決するために改善をしていきます。この時に、改善に対して簡単なことから非常に難しくコストや時間の掛かるものまで、対象が一気に広がってしまって当惑されるかと思います。そこで最初から全部はできないと割り切り、まず簡単にできる改善から始めることをお勧めします。最初から高いハードルを越えるのは、後の挫折やできなかったことの反発が負の財産にもなりやすいので、変な見栄は取り去りましょう。急がば回れとは良い諺で、回り道のようですが結局は確実にステップアップできます。

 

  ハードルを低くしてさらにお金を掛けないでできる改善をリストアップして、それに担当と期限を決めて責任を持たせるようにします。そのリストも皆さんが集まり見える場所に掲示します。一種の競争心も取り入れて活動の活性化に結びつけて行きます。できれば改善前と改善後の写真を一緒に掲示ができれば、出来映えの評価も皆さんでできます。そして次の改善のヒントやノウハウにもなり、さらに知的財産がこれらから蓄積されるようになります。「良い」「非常に良い」などのシールを貼ったり、スタンプを押したりして実施した改善に評価をしてあげると評価された方は非常に嬉しいものです。部下は上司やトップから評価してもらいたいものですので、このところから評価することや褒めることも積極的にやり続けましょう。最初は恥ずかしさもありますが、会社を良くすることにこれらは費用が掛からない効果的な投資なのです。使えば磨きも掛かって会社の雰囲気も俄然良くなってきます。いわゆる継続する改善の“仕掛け”ですね。

 

  従業員は給料だけで会社に来ているわけではなく、もっと重要なことは上司に認めてもらうことを欲しているのです。実は本人たちは余り気づいていませんが、潜在的には大いに待ち望んでいるのです。上司はそれをくすぐってあげればよいのです。ですからできる改善をまず繰り返し、評価を受けてやる気に拍車が掛かってくれば良いのです。それは本人たちにはやればできるという自信が知らない間に身についてくるのです。これらは財産になり、多くの人が持ち始めると組織力となり、やがて強い競争力になっていきます。 

 

 

その後は必要な改善に着手して儲ける

 

  この自信を持たせるまでの過程が非常に重要になります。でも自信を持ち始めますと、次にはレベルの高いことに挑戦してみようと思うのが人間です。できる簡単な改善を実施していくうちに、本当でやらなければならないという必要な改善に気づき始めるのはごく自然なことです。しかしまだやるべき課題が明確に見えてこない場合は、あるべき姿を明らかにすれば現状との隔たり(ギャップ)が見えてきます。あるべき姿が理想に近ければ、現状との差が大きくなって問題も見えるようになり、課題が分かってきます。その後にやるべきことが多くなりますので、まず優先順位を部下と一緒に会社方針に照らし合わせます。それから上司やトップの意向を交えて合意を取るようにすればスムースに調整できてまとまります。優先順位が誰でもわかるように、費用、技術、品質、難易度などの項目を簡単に数値化したマトリクス図にすることもヒントになるでしょう。

 

  ここで従来の指示命令型のことをやってしまうと、今までの積み重ねたお互いの信頼関係にヒビが入ることもありますので、慎重に相手を尊重するように石橋を叩いて一緒に向こう岸に渡りたいものです。改善のための改善ではなく、改善はあくまでも安全確保、品質向上、そして原価低減を狙います。そして結果として儲ける体質にしていきます。この活動を継続していきますと、次第に儲かる会社になっていきます。