6.作業姿勢を見直そう

作業姿勢は作業安全や品質に大きく影響している

 

  作業改善をする時に、作業時間や移動時間の観察には時計という素晴らしい測定器具があり、誰でも簡単に正確に測定できます。そして作業時間や移動時間を短くする改善に取り組むことができます。でもここでよく見落とされるのが人間工学とかエリゴノミーとも呼ばれる作業姿勢の問題です。残念ながらこの測定器はありません。

 

 これに気づいたのは随分前のことですが、U字ラインでの電子部品の組立作業の改善をした時です。16点の部品の組立で40秒掛かっていましたが、5点の小さな部品がわずか6cm低い場所でそれらの部品が配列してあったのです。そこでオペレーターに訊ねたところ、少し低いと思っていたが気にはしていなかったという答えが返ってきました。でも6cmほどかさ上げしてみてどうなるか試してみましょうと、すぐにかさ上げに取り掛かりました。するとサイクルタイムが37秒に短縮し、さらにばらつきもなくなったのです。オペレーターに結果を説明したら、作業が非常にやりやすくなり、リズムも楽に取れるようになったというのです。わずかのことですが、3秒(8%)も短縮できたのです。

 

 最初はなぜこれだけのことで時間短縮ができたか理解できなかったのですが、この低い場所になると少しですが前かがみになり姿勢が悪くなり、辛い作業になっていたのです。オペレーターは潜在的にこの作業はいやだと思い、それまでの作業スピードがこの工程でガクンと落ちたことがわかりました。その段差の障害がなくなったことで、次の作業への移動が楽になったことで時間短縮ができたのです。工程から工程の移動は並行にすればよいことがわかりました。立ち作業で部品を落下させた時にそれを拾おうとして、しゃがんでそれを取って再び次の作業に移ろうとした時の時間は、なんと3秒以上も掛かるのです。そのしゃがむ行為がいかに辛いかがわかります。

 

 また180度の振り向き作業は約0.8秒ですが、また振り向きますので合計では1.6秒も掛かります。頭を振ることにより疲れるのはなんと眼なのです。振り向きざまに視線を作業する部品に焦点を合わせなければならないので眼の筋肉が非常に疲れるのです。そのために作業ミスが連発していた事例を何度も経験しました。これがわかってからは振り向き作業をなくし、部品は前から、できない時には横から取るようにレイアウトや梱包方法を変更したりして、オペレーターへの負担を軽減していきました。

 

 毎回重いものを持ち上げる重筋作業も避けるべきことです。せいぜい12kgまでしか持たないような作業方法を考えていくことが必要になります。疲れるから安全や品質への注意力がなくなるのです。毎日やっている作業はどうしてもマンネリ化して気づかなくなります。今一度この作業姿勢に注力して見直しましょう。

 

作業姿勢を数値化して評価をしてみよう

 

  この作業姿勢の改善に用いたのは作業を数値化する方法です。大雑把に作業を4つに区分して、3点満点は手首の動く範囲で作業ができる、2点はひじの動く範囲、1点は肩の動く範囲、0点は頭が移動してしまう範囲としました。振り向きは0点です。3点は満点であり、いわばあるべき姿です。2点以下は改善の余地があることを示します。各工程で部品ごとに評価をして、3点満点×部品点数もしくは工程数を分母とします。評価した点を合計し、分子にして割るのです。例えば8工程(3×8=24)のうち、手首の3点が1ヶ所、ひじの2点が1ヶ所、肩の1点が4ヶ所、頭の0点が2ヶ所であれば、合計3×1+2×1+1×4+0×2=9になります。9÷24=37.5(%)となります。

 

 同様に次の工程に部品を移動する時に、その段差が小さい:3点、やや小さい:2点、やや大きい:1点、大きい:0点の4段階に区分して評価をします。4段階に区分することが重要です。5段階だとどちらともしない3点にして、考えようとしなくなるのです。また当たり前ですが人間の手を動かして一番楽なのは、ひじの高さで左右に並行に振ることです。それが肩の高さを超えたり、腰より低くなったりすると辛くなります。野球でいえば、ストライクゾーンに部分や治工具をそのゾーンに持っていけばよいのです。

 

 一応の目安ですが、何も配慮していなければ20%以下の数値になります。改善をしていけば、50%から80%にもなり、時間短縮の結果も出てきます。しかも楽な作業になってきます。また歩行距離も測定しにくい場合は、歩いた歩数で簡単に評価もできます。1歩はおよそ80cmで、約0.8秒になります。面倒なら1秒にしてもかまいません。ようはおよそでよいから数値化することで、今まで気にしていなかった動作の部分が見えるようになって、改善が簡単にできるようになります。その時のオペレーターと一緒の合言葉は、“ベストポイント化”です。一方的にならないように、双方向で合意を取りながら改善をやるようにしましょう。

 

 

作業が楽になると大きな効果が出せる

 

  体のトレーニングで、ひざを曲げてしゃがみ込むスクワット体操があります。これを毎日やっている有名女優は、90歳でも舞台に立っておられますが、トレーニングの力は絶大です。でもこのような姿勢で作業したら、とても辛くてまるで拷問です。これらの作業を発見して改善して、安全で楽な姿勢で、毎日の作業ができる環境にしたていけばよいのです。これができると自然に品質さらに生産性も向上してきます。

 

 まず良く使う部品や治工具からベストポイントに持ってきます。部品が多ければ小分けにして配置します。イメージとして扇子のように取り出すところだけを狭くして、投入は後ろから行うなど工夫することはいくらでもあります。座れば80cmしか届きませんが、立つと120cmまで手が楽な姿勢でも届きます。工程間の移動も高低の差がないように、作業台や設備の高さを調整していきます。足かせは簡単な方法です。

 

 また作業の順番も流れるように順序立てることは、リズミカルな作業ができます。重いものはコロコンや台車を改造して、積み下ろしを簡単にしたり、落下防止をつけたりして安全に移動できるようにします。また移動距離を短くするには、設備が簡単に移動できるようにキャスターをつけておくと、レイアウト変更に便利です。1トン未満の設備や機械は、キャスターをつけてみましょう。考えたことをすぐに実行するとストレスは発生しません。これで心すっきり、体楽々となり、おのずと効果もドンドン出てきます。