7.スーパーやコンビニのように整備

工場は何もしないと乱雑になってしまう

 

  工場内は毎日生産活動をしているので、多くの工程で常に材料や治工具類の移動や取り置きが発生しています。受入部門での開梱作業に始まり、棚や置き場への材料の運搬や取り置き作業が続きます。そして各工程への材料や金型や治工具の投入・片付けなどの段取り作業、加工による廃材の排出や治工具の取り置き作業など、製品出荷まで1つの素材でも何度も移動や取り置きが発生しています。その都度決められた場所に、決められた方向に、決められた数だけ、決められた方法で取り置きしなければなりません。その経路を追っていくと、まるでスパゲッティーのようにぐるぐるとトグロを巻く状態になるでしょう。それを毎日繰り返していますが、思えば大変な労力です。

 

 それを1つでも放置しておくと、自然に周囲が段々と乱れてきます。この現象をエントロピー増大の法則というようですが、きちんとした状態はいつまでも続くことはなく、その秩序は次第に無秩序に向かうというのです。乱れた工具箱や材料置き場をそのまま放置すれば、自然に綺麗に片付くことはありえないことです。そのため人が定期的にあるべき姿に戻す作業をしなければなりません。しかもその作業は出来るだけ短いサイクルでやった方が楽に出来ます。まとめてやればやるほど労力が掛かってしまい、元に戻しにくくなるものです。しかもモノ探しのムダな時間が多くなってしまいます。

 

 ある心理学者が人間の一生の時間割を観察したら、6から7割が睡眠と仕事と食事、トイレなどで、なんと1分前のことをも思い出せず探している時間が3割もあったというのです。驚きですが、考えてみると最近物忘れがひどくなってきたことを感じます。その対策にポケットにはいつも小さなメモと3色ボールペンを入れています。メモすることで思い切って忘れることができ、ストレスをなくし、モノ探しの時間を節約しています。

 

 ある工場の視察で訪問した時に、毎日の掃除時間が決められていませんでしたが、非常に綺麗な職場になっていました。従業員に訊ねると、汚れたと思ったらすぐにやるので特に工場でも決めていないというのです。かなり自律化された職場だと感心しましたが、それだけではないと思って「本当はどうなんですか?」とさらに突っ込んで聞いてみると、頭を掻きながら「実は工場長がえらく5Sに厳しいのですわ。しかも抜き打ちのようにいつも巡回しているのです。」と返ってきました。どの職場も見事に整備されていたので、汚れたり乱れたりしたらすぐに元に戻すことが習慣化されていたことに感心しました。やはり自然の法則に逆らうエネルギーが絶対に必要なのです。小まめに都度整理整頓して片付けて、賞味期限のある人生という時間を有効に使いたいものです。

 

改善のヒントは身近にあるものを利用しよう

 

  よい事例を挙げるのに他社の事例を紹介するよりも、街の中の様子を示した方が皆さんは納得するようです。ある会社の事例は確かになるほどと思われますが、あの会社とうちの工場は違うのでと言い訳が始まります。街の商店のショーウインドーは、いつも見知らぬお客様に売りたい商品をガラス窓越しに見せてくれています。「見せて」は、「魅せて」の方が表現がよいかもしれません。お客様がこの商品を買いたいという衝動に駆られる力が、ガラス窓を通して働いています。ショーウインドーの展示は売上げに直結しているので、売り手も必死にディスプレーに頭を悩ましているでしょう。

 

 コンサルをしていて、「工場はショールーム」という考え方を、各工場にスローガンとして提案しています。お客様が工場を訪問された時に生産現場をご覧になって、その印象で取引の成功確率が相当違ってくるものです。人は見た目の第一印象で、その人の9割を判断するというメラビアンの法則が大きく影響してきます。

 

 もう一つの事例がスーパーマーケットやコンビニです。これは誰でも気軽に商品を買うことが出来ます。しかも商品とその表示(工場にはない値札が必ずあります)はいつも整備されており、しかも欠品もほとんどなく、すぐに補充もされます。これらの店の特徴は、明るく綺麗で清潔なことが挙げられます。店に入ってから探してみて、いちいち店員に訊ねることがあるようなわずらわしさがあれば、その店にはもう足を運ばないでしょう。パッと見れば、ワッと感じるくらいの良い環境をつくりたいものです。

 

 蛇足ですが、女性は見られる環境があればより美しくなるようです。キャビンアテンダント(これって和製英語)通称スッチーの方は、見られることで身だしなみをさらに良くし姿勢もシャキッとしています。そして何よりもいつも笑顔を絶やさないことがより好感度を上げています。皆さんの奥様にも髪型が変わった時など是非一言「素敵になったねえ」とおっしゃってあげて下さい。「あらまあいやだ」といいながらも笑顔がこぼれて、自然に料理が一品増えますよ。これも褒める訓練であり、習慣化したいものです。家庭内でできれば、必ず職場でもできるようになります。まずは身内からどうぞ。

 

 

店のように誰が見てもわかる現場にしよう

 

  さて生産現場ではどうでしょうか。使った治工具を綺麗にして元の位置にきちんと戻されているでしょうか。汚れたまま設備や機械が放置されていませんか。それらは材料に付加価値をつけてくれる大切な道具であり、財産でもあります。飛行機の整備工場では、工具一つ一つの管理が当たり前になっており、ポカヨケも取り入れてあります。工具が一つでも機内に残っていると大惨事になりかねないので確実に実施されています。でも毎日作業していると脳も緊張感をなくし、その乱雑さが見えなくなってしまうのです。やがて加工不良だけでなく、災害にもつながってしまうものです。

 

 スーパーやコンビニはいつでも整備されていますが、それはいつ誰が店に来ても気持ちのよい買い物ができるように、店員の方が心を込めて整備しているからです。それは売上げに直結しているからで、悪ければ隣の店にお客様は去ってしまいます。工場には毎日訪問者があるとは限りませんが、整備されていつも材料、治工具、設備や機械がすぐに使える状態にしておくことで、原価を簡単に低減させることができます。しかもそれは皆さんの給料に反映します。モノ探しがなくなれば、生産に時間を投資できて売上げを上げることができます。よい手本は身近にあるもので、工場の現場といつも比較しながら、良い点はすぐに見習い、即実施していくことを習慣化したいものです。