9.見えるムダと見えないムダ

見えるムダもだが、見えないムダはさらに気づきにくい

 

  ムダとは、付加価値を生まないすべてのものを指します。よく言われる7つのムダがありますが、さらに一つ追加したい重要なムダがありますので、それも合わせて紹介したいと思います。もっとも大きなムダが、良く皆さんがご存知の①つくり過ぎのムダ、そして②在庫と仕掛のムダがあり、これらは経営のリソースの先喰いや浪費となってしまうものです。在庫や仕掛は実際にはモノとして見えますので、資産のように見えますが、実はこれらを購入するために銀行から資金を借りて購入していますので、結局は経費=コストになるのです。誰も“モノ=お金”とは気づかないものです。ですから毎日目にしていると気にならなくなってしまい、在庫や仕掛があれば設備故障しても仕掛で対応でき、段取り替え時間が長くなっても問題が見えなくなってしまう始末の悪いものなのです。このためにリードタイムの短縮は重要な取り組みになります。

 

 次に③手待ちのムダ、④運搬のムダ、⑤動作のムダがあり、これらの3つは人に関するもので、動きから働き(人偏がついています)に変えていくものです。これらのムダが一番発見しやすく、誰でも簡単にリストアップできます。観察する時のヒントを紹介します。安全、エリゴノミー(作業姿勢)、品質、5S、組織的なこと(標準がない、ルールがない、順番がわからないなど)、技術的なこと(加工が難しい、組立しづらいなど)を意識するようにノートに書いてから観察すると、一気に発見しあぶりだすことができます。

 

 そして⑥不良・手直しのムダがあります。不良を作るとそれまでの時間や労力がすべてムダになります。手直しも同様に多くの工数や材料が失われます。⑦加工そのもののムダは、設計上や生産技術上の不備に起因するもので、具体的には加工で残ったバリ取り作業、ガイドがないために手で保持しているもの、プレスでできるのにフライス盤で加工しているもの、さらには簡単な方法があるが手間の掛かる方法を行っているなどがあります。そして8番目のムダに気づくことが重要です。それは社員の持っている才能や潜在能力を活かさないことが、最も大きな経営資源のムダになります。

 

 

見えないムダや気づかないムダの実例とヒント

 

 ①情報に関しては、受注、伝票、メモ、コピー、メール、カンバン、指図書、標準類、ワンポイントレッスン、手順書、生産計画、管理板、ルール、掲示板、シフト交替のやり取りなどがあります。伝えたい情報は読みやすいか?伝えたいことが伝わりやすいか?伝わっているか?確認しているか?再確認しているか?多くの企業の問題がこの情報伝達方法にあり、多くは伝えるだけになっていて、伝わったかどうかが曖昧になっています。

 

 

 コミュニケーションとは、①相手がどう解釈したかが大事、②解釈したことを相手に確認すること、③伝えたいことがお互いに伝わったかが重要です。これは手間が掛かるものであり、しかしこれをしないと正しい仕事ができなくなりムダになってしまいますので、相手の立場になって考えることが大切です。ちなみに工場の問題の約9割が、人間関係とコミュニケーションにあります。まずは声を掛け挨拶することです。

 

 ②スペースに関しては、仕掛置き場、受入出荷場所およびルート、モノの置き方、棚の有効利用、MINMAX管理、表示標識、不要品、搬入しすぎ、欠品、台車、フォークリフト、ハンドリフター、マーシャリングカー、作業台、パレット、空パレット、梱包材、設備、工具、治工具、借りている倉庫や駐車場などがあります。1平米の1年間の費用はいくらか?誰が誰に払っているのか?それらは見えますか?レンタル料はいくらか? 本当にいるものばかりですか?よく使う、時々使う、たまに使う、滅多に使わないとか何時使ったかわからない、使わないとか要らないなどきちんと区分されていますか?スペースも費用です。管理するにも見えない費用が掛かっており、ムダが隠れています。

 

 ③経営資源は、人、モノ、金、情報、時間などがありますが、これらの内で唯一成長し発展することができる資源が「人」です。「人」を活かすことで、改善活動による無限の知恵が生まれます。それを生産活動のみならず、「人」を取り巻く人間関係に活かすことが、企業が生き残っていく原動力になります。顧客からなくてはならない企業であり、支援してもらうことができると、受注をもらうことができます。また時間が最も高価な資源であり、時間のムダをなくし、素早く行動していく必要があります。そのためにも何をすべきかを社員全員が知っていることが企業間の大きな差になるので、考え方を共有化しておくことです。毎日の朝礼などを活用して、社員のベクトルを合わせていきます。

 

 ④エネルギー・環境関係では、電気、照明、圧搾空気、暖房、水、排水、廃棄物、洗剤、溶剤、清掃用具、制服、帽子、安全めがね、安全靴、ゴミ、動力室、廃棄置き場などがあります。今や環境も考慮した企業にならないと客先の評価対象になりません。しかもそれは社員の作業環境に大きく影響します。これらはムダや不具合があっても発見しにくい項目です。作業環境が良くなれば、おのずと生産性は向上します。でもコストとのバランスは必要であり、できるだけ少ない費用で最大の効果を狙いたいものです。

 

 ⑤あらゆることはマネジメント次第で、ムダの廃除に大きく影響します。目的、目標が共有化されていて、全員がその方向に向かって活動しているかが、マネジメントで大きく左右されます。約束ごとがすべて守られるか、納期どおりの仕事になっているか、不良は0%か、直行率は100%か。始業に間に合っているか?タクトタイムは守っているか?標準どおり守っているか?ムリしていないか?ムダはないか?ムラはないか?など自問自答しながらご自分の感性磨きをしてください。これは努力なしでは身につきませんし、お金でも買えません。自分でやり続けることで手に入れることができるものです。安全、安心、健康、仲間、雰囲気、やる気なども大切なマネジメントの項目です。

 

 

見えないムダとか気づかないムダを感じるには?

 

  精神論になるかと思いますが、これは訓練が必要です。でもきっかけは小さなことに感動することから始まります。人は一人では生きて行くことができません。すべてのことが奇跡のように関わり合って“生かされている”と思い、どんな小さなことにも感謝する気持ちを持つことです。朝目が覚めた、トイレに行けたなどに感謝することから気づきが始まります。些細なことでも関心を持って物事を観察するというように、常に意識することが大事です。