12.作業姿勢は安全・品質に大きく影響

作業姿勢が悪いと集中力に欠けてしまう

    

   ある組立工場のラインを観察した時に、各組立部品に多くのマジックインクのチェックマークがあり、数えてみると数十個所も発見しました。監督者に訊ねてみると、組立ミスが多くあり、そのたびにチェックマークをつけてオペレータ自身が確認していると回答がありました。最終のお客様からのクレーム対策として、そのような処置をしていることが分かりました。お気づきのようにこれはあくまでも処置だけであり、根本対策にはなっていませんので、モグラ叩き状態になっていたのです。

 

 そこでさらに生産現場を観察していくと、一つの工程で部品を取るためにワンタクトで数回の180度の振り向き作業を発見しました。これは完全に作業姿勢が悪いためにオペレータが相当疲れてしまい、集中力が欠けて色々なミスを発生させたと容易に想像できます。振り向き作業は時間にして約0.8秒で、往復だと約1.6秒になります。さらに振り向いた時に眼球は頭の中で浮いている状態なので、視点を合わせるために筋肉で固定しようとしています。つまり相当な筋肉疲労になっていると考えられます。

 

 そのために結果として1回で約2秒間も時間が掛かってしまい、1日に何百回も振り返るので疲れるのは当然です。この事例のように、作業姿勢が悪いと眼だけではなく体全体が疲れてしまいます。この疲労によって品質に注力する気力を失わせて作業ミスにつながっていきます。さらに作業安全にも波及し、注意緩慢に陥ってしまいます。

 

 この作業姿勢では、立ちっぱなしや動かない状態が続きますと、腰痛やヒザの痛みになります。腕の上下やしゃがみ作業、さらに背伸び作業、重筋作業も身体の疲れにすぐに結びついてきます。厚労省の統計によると製造業の分野だけでも、2万人以上の方が作業中に死傷の災害に合われています。たいへん残念なことで、本人の不注意もあるでしょうが、作業環境の不備や不十分な作業指導もその要因になっていると考えられ、これはトップや管理監督者の責任だと指摘したいくらいです。

 

 疲労の蓄積による集中力の欠如は、品質の問題はお客様との信用問題に発展し、作業安全面では労働災害に波及しかねません。労働災害によるケガや病欠があれば、生産ができなくなり、すぐに納期遅延や余分な残業の問題に響いてきます。特に労働災害は、本人にとっても会社にとっても大きな損失になります。早速現場に出向き、オペレータと一緒に作業姿勢を検証して、著者が提唱している「安全で、楽に、さらに楽しい職場づくり」の機会に捉えてもらえればと願っております。

 

  

  

 

 

すぐにできることはすぐにやってしまう

 

 作業姿勢の検証を行う場合は、しばらく一連の作業を観察することが大切です。その作業だけでは発見できない工程間の移動や運搬、段取り替え、作業準備なども観察します。むしろこれらの作業に多くの問題が潜んでいます。それらの問題の対策案として、お金が掛からないすぐにできる3つのヒントを紹介します。

 

 ①    高さを揃える:腕や腰やヒザを曲げたり伸ばしたりする作業をなくしていきます。その対策として、作業台の高さを上下できる昇降機能を付けます。これは机や椅子が上下できる機能がある、ガス式の昇降機がヒントです。車のジャッキは700kg以上も支えることができます。板などのブロックを挟んで、かさ上げすることも簡単です。移動する場合は、コロコンやキャスターを装着して台車化します。投入する材料を少なく小ロット化して、背伸び作業やしゃがみ作業を少なくしていきます。

 

 ②    振り向き作業をなくす:材料や治工具を横置きや作業する正面に揃えて、振り向き作業をなくしていきます。段取り替え台車や治工具がセットにして置くことができるオカモチ。自在アームの付いた台を用いて、180度の振り向きを90度以内にして、上下作業を平行移動にすることで疲れにくくしていきます。またオペレータの後ろに置いていた材料を小ロット化して、横置きにすることでも作業姿勢が楽になります。

 

 ③    リズムある動きにする:適度な歩行や体の移動を作業に組み込みます。立ちっぱなしの場合は、3分間も直立不動になっていると腰が痛くなり、次の動作がスムーズにできなくなります。体重を時々片足に移動することをオペレータに教えるだけでも楽になります。監視作業がある場合には、ちょっとしたサブアッシーや加工も取り入れてみても良いでしょう。作業の見直しをして、適時に他の工程に移動したり、設備や機械を多台持ちすることも作業のリズムができます。

 

 

設備中心から人との調和を考えた作業に変えていく

 

  多くの工場が高価な設備を使っているので、設備中心になる考え方がほとんどです。オペレータの作業まで考慮した作業環境になっていないことが多くの現場で見受けられます。往々にして設備に合わせた人の動きになってしまい、人の動きは二の次になっています。そのために作業姿勢のことまでは余り考えなく、あとはオペレータ任せです。結局オペレータ自身は強いられたやりにくい作業を黙々とこなすことになります。さらに市販の設備は加工の機能を重視しており、清掃や点検さらには段取り替えに時間が掛かるなど、使う側に立った考えが少ないことも改善の余地があります。

 

 すぐに人中心とはいきませんが、設備と調和した作業改善はすぐにできるものです。テコや滑車の原理を応用したからくりによる改善や少し自働化を組み込んだ簡易自働化は、現存する設備に付け加えることが簡単にできます。これにより作業姿勢が改善されて、疲れない楽で安全な作業になり、オペレータは品質向上に集中できます。このような小さな改善を繰り返すことで、ジャストフィットする作業姿勢が見つかるものです。

 

 この作業姿勢の改善は、デスク回りの文房具に多くのヒントがあります。例えば、握りやすいボールペンは、グリップ部分が手になじむ形になっていて「疲れない筆記具」となっています。手がすっぽり入る形のマウスもあります。キーボードの手前には、両手が楽に置ける棒状の座布団があります。手首をあまり動かさなくてもキー操作ができます。いずれもコロンブスの卵のように、実物を見ると「なるほどなあ」と思うモノばかりです。良く観察をすると、そこに人の動きや形状、姿勢のヒントが隠されています。自分たちが使いやすく工夫したり改造したりして、生産現場にも応用したいものです。