13.探さなくても探せる作業環境づくり

 職場においても人生においても探しのムダが多い

 

    工場内の作業を観察し分析してみますと、どの作業においても治工具、部品、帳票類、文房具などのモノ探しがあり、それに伴い歩行のムダも発生しています。これらは付加価値を生まない作業であり、結果として生産時間がなくなり、慌てて作業する派目になります。挙句の果てに不良を出したり、手直しまですることになり、踏んだり蹴ったりの状態に陥ってしまいます。これを著者は、「悪魔のサイクル」と呼んでいます。

 

  ムダを理解してもらうために、ちょっとしたデモンストレーションをやっていますので紹介しましょう。「目的は、「M」という文字を書くことです。」と宣言します。ここからホワイトボートのペン受けにあるペンを探します。歩いて行き、ペンを取ります。わざとペン先でない方を取り、そのままボードに「M」と書きます。「あれ?書けない。あっ、そっかっ!」とペンを持ち替えます。そして再び「M」と書きますが、書けません。「あっ、そっかっ!」と再び頭をかきながらペン先のキャップを取り外します。

 

  さらに「M」を書こうとしますが、ペン先が宙に浮いたままにします。紙に接触しないと書けません。「今、ペン先とボードの間の隙間を調整してま~す!」と言って、ようやく「M」の文字を書きます。そしてキャップを戻し、わざとボードのペン受けに投げつけます。ペンは当然跳ねて床に落ちます。そして、拾い上げて腰を叩きながら、ペンをペン受けにそっと置きます。そしてムーンウォークのように後ろ向きで元の位置に戻ります。

 

  この間は約10秒間ですが、「付加価値のある作業はどこですか?」と質問を投げ掛けます。参加者は不思議な顔をしながら、「書く」だけ?と頼りない回答をします。「本当に?」と訊ねると、さらに自信をなくすように小さな声になってしまいます。ムダを考えたことがない人はわからないのです。「そうです。書くだけです!」というとホッとされます。

 

  価値のある書く時間は、1秒にもなりません。全体の1割しか付加価値はないのです。改善の進んでいない職場では、どの作業においても付加価値のある作業は、5から10%しかありません。逆に付加価値のない作業が、90から95%もあるのです。経験上ですが、その内の3割がモノ探しに費やされています。実は職場だけでなく家庭においても、モノ探しは多く発生しています。良く考えてみると人生そのものも、意識をしていないとモノ探しの人生になってしまいかねません。探すから迷う、迷うから考え込む、考え込むから仕事の時間がなくなってしまう悪循環を断ち切りたいものです。

   

 

 

探さなくても良い作業環境づくりには、勇気を持ってやる

 

 モノ探しをなくすには、探さなくても探せる作業環境にすることです。そのためには余分なものは一切なくすことです。本当で要るものだけにして、欲しいモノが取り出しやすく、しかも仕舞いやすいように、表示標識とセットにして職場を変えてしまいます。

 

  やり方は、5Sの整理から始めます。不要なモノをなくして廃棄までやります。「排除」は横にずらすだけであり、また元に戻ります。徹底して廃棄してなくしてしまう「廃除」にします。いつか使うかもしれないという気持ちはあるかと思いますが、残しておくと何時まで経ってもモノは減りません。今の状態から決別する勇気を持つことです。キックオフ大会などの宣言をする機会を準備することもよいでしょう。

 

  どうしてよいかわからないものは、黄色のカードをつけて保留期間を明示して、別な場所に保管します。その間に使うことがなければ思い切って廃棄します。モノが減らないと気持ちの整理ができなくなりますので、ここで勇気を持って取組みたいものです。これは一人では難しいので、職場の仲間と一緒にしかも一気にやりあげます。

 

  まずは身の回りから取りかかります。作業台、机の上、引き出しから着手します。捨てる前に是非現状の証拠写真を記念撮影しておきましょう。これは貴重な過去の負の財産として、あとで「笑いのネタ」にしてください。そこで勢いがついたら周囲の棚やキャビネットに立ち向かいます。これらには扉が付き物ですから、普段は目隠しの役割をしていますので、中が乱雑になってしまいます。

 

  開けてびっくり玉手箱の状態がほとんどです。いつも見ている人は気づきませんが、第三者を巻き込むと「なんだ?これは!!?」とびっくりマークが出てきます。停滞は段々と状態を悪化させ、腐らせていきます。その次は倉庫や受入場、出荷場に進んでいきます。一通り進んでいくと、もう一度振り出しに戻ってレベルアップしていきます。 

 

 

 

作業の外段取りから、迷いを断ち切る

 

   段取り八部に仕事二部とよく言われますが、仕事は事前の準備がとても重要です。準備が事前にできていないから、本番になって不足していたものが明らかになり大慌てでモノ探しになるものです。その迷いから断ち切るためにも、この作業の外段取りをしっかり実施することです。要は基準を明確にすることです。

 

  著者の進め方は、簡単な方法はチェックリストを作成して消し込む方法です。漏れをなくして、モノ探しをなくします。次は治工具などの小物は、シャドーボード(影絵を描き、少し凹ませてモノを入れ込みます)にして必要なモノが一目で確認できるようにします。配置に迷ったら、ビニールシートの下に紙を敷いて治工具の絵を描いて、シミュレーションしてベストな位置を探します。写真をラミネートするとモノと位置が明確になり、戻す意識が随分養われます。

 

  棚やキャビネットの扉を外して、中が一目で見えるようにします。保管が必要な場合には、扉をくり抜きアクリル板をはめ込み中が見えるようにします。さらに保管するものは置き場を決めてシャドーボードに収納します。表示標識も合わせてセットします。

 

  さらにモノの保管状態が定着していくと、棚もキャビネットをなくして台車やオカモチに置き換えて手元化にします。いつでもできると思っていては、結局はできないものです。「やる!」と宣言し、着手し始める勇気を持ちたいものです。体験的にも、着手してしまうと半分はできたと言えますので、まずやってみることです。

 

  仕事が終われば、すべてを元に位置に戻します。棚やキャビネットなど、モノを置く場所を次々となくしていきます。パッと見て、パッとわかるようにします。モノを探さなくなるとストレスもなくなり、すぐに効率の良い仕事ができるようになっていきます。