9.定点観察で変化の違いを発見する

毎日見ている職場の変化は見つけることが難しい

 

 

  毎日見ているものほど見えなくなることは、普段の日常生活でも誰でも経験があると思います。奥様の今朝はどんな服だった?履いていたスリッパはどんな色?家のリビングのレイアウトで右から左の順番に何がありますか?まったく思い出せませんね。ご自分のお子さんのこともあまり知らないというのは困りますが、私たちの記憶とはそんなものです。ましてや毎日8時間以上も過ごしている職場も同じだと思います。

 

 人間の脳は余りにも処理することが多いので、余り問題のないことはすぐに忘れるようにして、新しい刺激を処理するようにできているようです。朝起きてから起きる時は右にひねるか、それとも左にひねって起き上がるか?その時の手はどう置くか?など判断して処理している動作への判断処理は何万回もあるそうです。でもほとんど無意識でやっています。毎日プログラムしているようなことは、意識しなくても体が自然に動いているのです。改めて自律神経に感謝したいものです。

 

 工場ではこのような判断処理がないように、通路の区分や置き場の表示標識、モノにカンバンの取り付け、治工具置き場のシャドーボード、手順書や注意事項の貼り付け、呼び掛けにはポスターの掲示、台車やハンドリフターにもナンバープレートの取り付けなどを行い、見たらすぐに思い出せて、元の良い状態に戻す仕掛けが整備されています。いつの間にか通路のテープやペンキがはがれてしまい、これも毎日見ていると段々見えなくなって、区分を無視して歩いたり台車を移動させたりしています。また取り付けていたものが壊れてしまい、そのまま放置していたらそれが当たり前になってしまうこともしばしばです。そのような状態は、エントロピーの法則でもご存じのように自然に乱雑になっていくものです。また以前はどうなっていたかとか、どこにあったのかは、思い出し探すしかありません。でも記憶はあいまいになってしまっていますので、どこをどのようにしたかをすぐに思い出すことは非常に難しいものです。このためにも写真という便利なツールを使うことで、以前のことをはっきり思い出すことができます。

 

 あるべき姿をいつでも確認ができるように、きちんと整備した時の状態を写真に撮り、それをラミネートで保護してその場所に貼り付けます。これはその時を記録したものですが、ライン引きをしたり表示をしたりしても、はがれたり汚れたりすることが多く、一度乱れると一気に規律は低下してしまいます。そのためにもあるべき姿の写真が目の前に貼ってあると、異常がすぐに分かり対応や処置が的確にできます。

 

   

 

便利な定点観察で時間的変化を見つけやすくする

 

 

 この状態表示だけでなく、定期的に工場内の様子を記録することで色々な気づきが生まれます。工場内のレイアウト図を取り出して、色々な方向から工場の今の姿を記録していきます。最初はどこを撮っていいのかわかりませんので、四隅から中央に向かって放射線状に撮影をしてみてください。そしてレイアウト図に丸印をつけて撮影した方向に矢印をつけておきます。最初は気になった個所も含め撮影をしてください。デジカメや携帯電話で気楽に撮って記録してみましょう。

 

 大切なことは、撮影した個所の目印と方向をレイアウト図にきちんと記録することです。まず撮影と観察地点の写真を皆さんで鑑賞してみて、問題点がどの辺に多いのかレイアウト図に赤丸などをつけてみてください。撮影したはずのところが上手く撮影してなかったり、漏れがあったりするものですので、もう一度撮影し直すこともお勧めします。最初と二回目は随分と見る眼が違って、必要な個所の撮影が自分自身で分かってきます。できれば複数の人と一緒に撮影をしてみてください。視点の違いも分かり、良い方の写真がどっちかもわかります。一回目は試しに失敗するつもりで最初から二回撮影するようにすれば、かなりレベルが上がっていき狙い通りになっていきます。

 

 写真を撮影することが目的ではありません。あくまでも不具合点や変化点、またまったく何カ月も変化していない個所も発見していき、改善のネタにすることが目的ですので、できるだけ継続していく仕組みを作ることが肝心です。

 

 

 

これからの改善の進化や経過も定点観察でつくれます

 

 多くの工場で過去の改善前の記録がほとんどないことが多いようです。なぜないのかと訊ねますと、「見せたくないものは、写真に撮っていない。いいところだけを意識していた。」という返事が多くありました。またそういう記録をきちんと残す習慣がなかったこともありました。いいところだけを記録に残すことは誰でもやりますが、逆に見たくない、見せたくない場面も大切な記録として残すことが、改善のヒントになってきます。

 

 今までどれだけ、どこをどのように改善してきたかを誰でも知ることができる貴重な自社の資料になります。毎月記録に残すことで、改善の進捗やノウハウ集にもなってきます。2か月や3カ月に一度となるとついつい忘れてしまい、元の木阿弥になってしまった工場がいくつもありましたので、やはり毎月定期的に決まった日に観察していった方が良いでしょう。メンバーはある程度固定して、時にはトップも交えて実際の現場をしっかり把握してもらいましょう。それまでの経過も改善の変遷として紹介できます。

 

 写真はパソコンのフォルダーに入れて毎月関係者でチェックして、工場のどの場所かある程度区分や整理を行い、変化した点や変化していない点を発見することで改善の必要性を確認していきます。あとで過去からの比較も容易になります。文章ではなく写真の比較ですから一目でわかります。何カ月も変わっていない個所があれば、何もしていないことが分かりますので、管理監督者やリーダーに指摘をしていきます。改善の進んだ職場もありますので、良い点はすぐに横展開を図り、どの職場でも同じことができるようにして、訪問者に「こことあそこは違うぞ!」と指摘されないようにしたいものです。

 

 また職場の5Sの変化の状況が客観的に見てとれますので、その職場の管理監督者の評価にも使えます。10年以上前は写真を印画紙に記録することがほとんどで、写真を多用することは難しい時代でしたが、この数年で一気に活用が可能になりました。文明の利器はもっと活用して、自社の改善ツールにして頂ければと思います。