5.品質は工程でつくり込む

そもそも「品質」とは何でしょうか?

 

 

  いきなり禅問答のようですが、「品質」とは何かを今一度確認してみましょう。「品質」とは、ものやサービスの「悪さ」のことであり、お客様が評価する価値のレベルをいいます。思い出してみてください。「品質」といっても良く聞くのが、不良率、不良数量、廃棄率、廃棄金額、手直し率、手直し件数、手直し金額、手直し工数、故障率、故障件数、歩留まり率、ロットアウト件数、クレーム件数などなど、日常的に使われている用語の数々ですが、何かいい言葉はありますか?ないですね。つまり「品質」とは、マイナスの表現ばかりのことだったのです。でも「品質」は良くないと工場もお客様も困りますね。

 

 品質の評価のモノサシは何でしょうか?実はコストなのです。ものやサービスの悪さによって生じる損失がコストになります。意外にも品質=損失だったのです。つまり、品質が良いことはコストが低いことになります。ですから品質改善といえば、成果としてはコストダウンになります。そして、必要以上の品質、つまり過剰品質になってしまうと逆にコストアップになります。高機能の携帯電話や複雑な電子レンジなども、高付加価値でありながら結局オジサマ族は何も使えない、高価で悲しいブラックボックスになっています。中国や東南アジア、さらにインドでは本当に必要な機能に絞り込んで、非常に低価格で市場に出回っています。余分なコストは掛けられないが、それで十分に市場で活用できればよいのです。結局品質は、市場(つまり後工程)が決めていることになります。本当に必要なものは、逆に後工程と一緒になって考えて、お互いの情報を擦り合わせていくことで、見出していく大切さを示唆しています。

 

 今の市場環境では、品質の評価が非常に厳しくなってきています。細心の注意を払いながら生産活動をしていく必要があります。品質の欠如があるから、仕掛や在庫を増やしたり、手直しをしたりして、コストつまり製造原価をどんどん上げているのです。そのことを社員の人たちは知っているのでしょうか?見えないから知らない、そしてわからないのだと思います。原価を高くしているから給料が上がらないのだと説明していけば、社員も納得すると思います。そして原価低減活動に行動をつなげていきます。

   

 

 

品質のつくり込みは、まずトップの決意表明が必要

 

  多くの企業で品質をつくり込む取組みをしていますが、本当に生産現場で実践している企業は余りないようです。実態は一部の人たちが従来手法やツールを使ってやっていても、結局“%”オーダーの不良を出したままになっている現状が多いのです。しっかり品質のつくり込みをやれば、不良率は“PPM”の領域になっていくはずです。

 

 何故できないのでしょうか?それは単に表面的なことを一部の人たちだけがやっているに過ぎないからだと思います。品質のつくり込みとは、目に見えるツールや手法だけではなく、新しいマネジメントやシステム、そして、しっかりとした思想が伴っていないとなかなか全社員には浸透しません。品質管理部門だけではなく、工場全体で取組むという組織的な活動が必要になります。ですからすぐに効果が出るというものではなく、コツコツとした地道な活動があって、色々な取組みの統合的な効果として現れるものだと考えます。しかし、品質をもっと良くしないことには、すぐにお客様から見放されてしまうほど緊急を要した取組みです。気づいた時がチャンスです。すぐに行動しましょう。

 

 ではまず考え方から取組みますが、QCD(品質、コスト、納期)ではなく、ましてやCDQ(実態はこの順番が本当に多い)ではなく、あくまでもQDCの順番なのです。目先の生産高確保ではなく、品質を追っていくことが、実は納期もコストも改善されます。品質が良くなると手直しや不良がなくなるので、仕掛や在庫が少なくて済み、リードタイムも短縮でき、モノの流れも良くなり、結果的に生産性も向上してきます。“風が吹けば、桶屋が儲かる”方式です。これは本当に勇気のいる考え方であり、経営者の確固たる信条や方針にして社員の皆さんに訴えなければなりません。品質第一と唱っていながらも、生産第一になっていては社員も知らん顔になります。トップの強い決意表明と行動で、ようやく社員も行動するようになるのです。

 

 

モデルから始めて、良品条件を確保して継続していく

 

  品質のつくり込みをやっていくには、まずモデルからやることです。一気にやりたい気持ちはありますが、まずは小さな成功体験をしてもらい、それから横展開を図っていく方法です。モデルは1品番でも1機種群でも良いので、できそうなものから着手します。そこには、「モデル実践中」などプラカードをつけて、品質をつくり込む取組みの決意表明を全員に知らせます。そして机上ではなく、現地現物で毎日関係者が顔と手と心を合わせて、一つひとつ実践していきます。そして、良品をつくるために、バラツキや偏りを減らすための条件を探して、維持していって、さらに良い条件を探っていきます。

 

 それと合わせて工場全体のモノと情報の流れがどのようになっているかを再確認します。お客様の一番近い出口から順番に、上流の部品や素材の入ってくる入り口までメモを取りながら全員で観察してみて下さい。何故こんなモノがあるのか、これだけも必要か、不良箱には何が入っているか、どれくらいあるかなど、予め品質に関係したことを記述してから見ていくと、色々な気づきがあります。何も情報なしで行くよりも、先に何々を観察しましょうと説明するだけで随分違ってきます。全体像を把握することで、自分の工程や作業の位置付けがわかってきます。これでかなり目が覚めてくるはずです。

 

 また全工程で自主検査、自工程保証の考え方を説明し、それらの実行をしていきます。自分で加工したものを良品かどうか見て、でき映えを確認することは義務だと考えます。お客様である次工程に良品をわたすのは、結果として最終のお客様に届けることになります。1個たりとも不良品を流してはダメだという強い意志を植えつけて行きます。全数検査には時間も手間も掛かりますが、時間と手間を掛けないでもできるやり方を全員で見出していきます。モデルで成功すれば、横展開は比較的容易に可能になります。加工したら“即その場で、全数検査する。”という自主検査方式の工夫を徹底してやっていけば、相当な成果が出てきます。人はミスをしやすいものですが、その良きサポートをしてくれるのが、ポカヨケや自働停止などです。大いに導入を図りましょう。