6.不況時こそ人材育成に投資

不況になるとすぐに削減される経費・出張費・教育費

 

 

 

  不況になると社内でまず削減されるのが、経費・出張費そして教育費はどの企業も常套手段になっています。経費削減では、ムダの削減と称して休憩時間や使っていない照明を消す、コピーの裏を使いメモに再利用するなどが代表的なものです。出張費も飛行機や新幹線が夜行列車や夜行バスに切替えたり、テレビ電話で済ませたりします。さらに教育費もバッサリと切り捨てられるものですが、しかしながら教育費の削減には問題があると考えます。

 

 不況になったから、削減しやすいものからいとも簡単に削減することは安直な考えだと思います。目の前に迫ったことに目を奪われやすいものですが、見えないものを見ていくトップやそれに近い人は考え直す必要があります。景気は必ず好不況の波が必ずありますので、今までやろうとして出来なかったことをやったり鍛え直したり、次の上向きの波にいち早く乗るためにも、事前準備をしっかりやっておく必要があります。

 

 ここで視点を変えて、今やっておくべきことは何かを未来から現在を見るようにします。考えてみると当たり前のことですが、人材教育はすぐに効果が見出せるものではないはずです。教育とは即効性がなく、漢方薬のようにジワジワと効いてくるものです。しかも教育費は従業員にではなく、マネージャーやトップに偏っていることが多くあります。今本当に必要なのは、実際にモノをつくっている現場の人達と思います。

 

 教育投資の考え方を変えて、彼らにもっと教育と時間を投資して鍛え上げ、会社の風土、文化、雰囲気まで替えていき、健全な企業体質にしていく絶好の機会として捉えることです。不況時こそ、今までの常識を疑ってみて、ご自分の頭で考え抜いてみる良い機会です。そして、全社員を自ら考え行動し、改善ができる人材に育成していく仕組みをつくることです。まだまだ彼らの潜在能力やチームワークの力、モチベーションなどは眠ったままが多いはずです。

 

 

 

やるべきことはいくらでもある

 

 

 不況時には、投資するお金がないからといって言い訳が先に出る人がほとんどです。まずその考え方を根本から変えていくべきです。まずマイナス思考になりかけたら、頭の中で「ダメ、ダメ、マイナスになりかけている。今のはなかったことにしよう。プラス、プラス思考、ヨシッ!」と唱えるようにして、マイナス思考を払拭しましょう。これを何度もやり始めていくと次第にプラス思考になっていきます。そうすると、不思議にもアイデアが出てくるようになってきます。普段は気付くことがなかったことですが、社内に目を凝らして見渡しますと色々と能力やスキルを持った人がいます。以前はモノをつくることに精一杯で、しかし現在は教育に時間が取れる余裕が生まれています。社内の人材活用として、スキルのある人からノウハウを公開して、さらに多くの人に伝承させて横展開を図っていきます。そして、彼らを指導者に育成していきます。社内のベンチマークをするだけでも、多くの気付きが捻出されます。今まで気付かなかったことに気付くことで、モノの見方が一変に変わります。意識して「観る」、そして現地現場で「看る」ことです。

 

 さらに今までモノをつくるだけに専念していた人が、今度は人に教える立場になると、立場は全く違ってきます。教えられることと教えることは、数倍以上のエネルギーと勉強が必要になってきます。自動車を運転する人はたくさんいますが、車の構造を理解し修理のできる人はほとんどいないのと同じで、作業のできる人はいるのですが、その作業を本当に理解してカンやコツまで教えることのできる人はほとんどいないものです。

 

 ここがポイントで、この教えることのできる人を養成する絶好の機会にしてしまうのです。教えることで本当に理解していることが分かり、そうすることでその人の意識がかわってくるという効用がでてきます。そこからもっとやりやすい方法はないか、チームメンバーと一緒に考え始めますので、ドンドンと活躍できる場を提供してあげたいものです。そこからお互いが、教え合うようになります。お互い教え合いながら、さらに上手く教えるにはと考えることができ、分かっていることと教えることのレベルの差に気付きます。

 

 そして、お互いを称えあう意識も芽生え始め、感謝に溢れた職場になっていくと思います。そうなると人間関係も、非常に良くなるはずです。こうなれば潜在能力も凄く発揮できる状態になり、信じられない成果を出し始めます。この時にようやく教育の効果が現れます。このような環境設定こそが、トップの重要な仕事になると考えます。

 

 これを機会に、社内コンサルタントの養成も考えられます。教えることが上手くなってきますと、自社だけではなく協力工場や近隣の会社に出向いて、コンサルや指導で儲けることもできるようになります。現に著者も、その事例に当てはまります。ここで大切なことは、彼らには少しインセンティブなことをしてあげて、会社からスピンアウトしないように配慮することです。せっかく育成した人材(財)は、大切にしたいものです。

 

 社内だけではなく、近隣の工場同士での交流会、異業種の交流会も費用はほとんど掛かりません。それらから得たヒントを自社に持ち帰り、展開するのです。数社でクラスターを形成して、費用を出し合って外部講師を呼ぶことも考えられます。今までそれほど脚光を浴びていなかった一般従業員は、原石のままであり、眠っている才能やスキルを持っています。それを開花させるには、いくらかの投資や時間は必要です。

   

 

 

やれば成果は出るもの、やらなければ成果はでない

 

 

  人、モノ、金、技術、情報などの経営リソースの内、発展し成長し続けるリソースは、「人」だけであるということを再認識し、来る景気の波に上手く乗るためにも「人」を鍛えておくことです。使えるものを使わないのは、経営リソースの大きなムダです。社内の文化、雰囲気、規律を作っているのは、この「人」の育成に掛かっています。

 

 これらのことは十分理解しているというトップと実際に実行しているトップの比率は、100対1ほどだと思います。やっていない会社が実際にはほとんどであり、だからこそやれば成果が出てくるのです。周囲を見渡すと、人材が成長している会社が、成長していると思いませんか。教育投資が、最もリターンがあるかもしれません。もっと人材を活用しようとする意思と前に踏み出す勇気を持つことは、全く費用は掛かりません。