8.問題発生が楽しくなる

在庫削減とリードタイム短縮で問題が勃発

 

 

 

  機械加工とは全く業種が違いますが、某印刷会社に訪問して3年目の事例を紹介します。訪問当時の工場内は、素材在庫、仕掛り、さらには完成品在庫が山のように溢れ、入りきらないため、近くの倉庫を借りていたほどでした。どこから改善を着手してよいか分からないほどでしたが、このような現象は印刷業界では当たり前だということで、彼らも問題とは考えていませんでした。これだけの在庫を抱えていたために、幸か不幸か欠品という現象はなかったそうです。

 

 この3年間コツコツとできるところから改善を繰り返して、自主ワークショップを毎週どこかの現場でできるようになってきました。4年前から毎年フォーラムと称して、近郊の企業やお客様を招いて工場見学や交換会をやり始め、年々非常に好評になってきました。オーナーの腹の太いことに、同業者も招くところがオープンな心意気を感じます。彼はハード面はすぐに真似できても、ソフト面やハートの部分は簡単に真似できないことを理解した方です。

 

 最近はモノの置き場の整備やカンバンを活用した展開、運搬方法の見直しなどで、見る見るうちに在庫削減を実施してきました。そこで外部の倉庫に出していたものを内部に取り込んだり、空いた棚を撤去したりすることができるようになりました。結果として、当初の1/4から1/5程度まで削減できたそうです。また、これに合わせてリードタイムも相当短縮してきました。その結果、最近は欠品の発生が頻繁に起こるようになったというのです。今まで欠品を経験することがないほど在庫を持っていたので気付かなかった訳です。でも欠品があって色々と気付くようになったというのです。しかも異常が分かる速さとアクションを講じる速さは格段に良くなったといいます。モノが少なくなると、異常がすぐに分かるようになり、何をすべきかが見えてくるのです。

 

 これは水面が下がって見えなかった岩(問題)が見えてくることに似ています。これを意図的に水位を下げていくことは、狙い澄まして問題を顕在化させようとするものです。これができるようになったというのです。このために当初の問題から逃げようとしていたことが、逆に問題が大きくなって津波のように降りかかってくるものです。考え方を変えて問題に正面から向かっていくと、問題は小さくなって原因もすぐに見え出すというものです。仮説を立てながら次に発生する問題は多分あれかな?それともこれかな?と考えるだけでも楽しくなってきたというのです。それが腹にしっかり入ってきて、居ても立っても居られなくなり、現場に出て改善に取り組むようになったそうです。しかも以前に比べ、問題解決の達成感が全く違うというのです。

 

 

 問題解決が楽しみになっていく 

 

 

 ほとんどの会社は、問題が発生してからその問題をモグラ叩きのように、その問題だけを叩き潰すことに留まっています。それはその時だけの対処でしかないことが多く、やれやれこれで一安心だと安堵な気持ちになってしまいます。でも、すぐにまたどこかで問題が勃発します。問題が発生した後の後始末は、誰も好んでやりたいことではないと思います。しかし、意図的に在庫を少なくしたり、リードタイムを短縮したりすることで、問題を待ち構えているスタンスは全く違うことです。そろそろ問題が出てくるかなと仮説を立てて、その時期も窺っているのは、まるで腕の良いハンターのようです。狙った獲物をドンピシャリと仕留めた爽快感は誰でも想像できますね。仮説を立てることはその対策も事前に考えることになります。脚本家になってシナリオを書くような気分で思い通りになるとさらに楽しくなるものです。

 

 このようになっていくと、こっちを突付くと別なところに影響していくという相互関係が見え始めてきます。見えなかったことが見えてくると、目からウロコが取れて人は嬉しくなるものです。さらに突っ込んでもっと見てみたいというのは人情です。それは、知的好奇心そのものだと思います。それをくすぐられるとワクワクしてくるものです。このようになってきますと、仕事が遊びで遊びが仕事のような感覚になってきます。

 

 でも問題が顕著に現れるようになると、自部門だけで解決することが難しくなってきます。その原因の半分は自部門以外にあるからです。そのためにも、前後工程だけではなく、間接部門や仕入先、時にはお客様まで巻き込むことが求められます。大切なことは、本当でお互いがきちんと連携して協力し合うことだと思います。連携プレーになってきますと、今まで気付かなかったことに気付くようになります。お互いの立場を考えるには、お互いの現場に出向いて、現地現物でしかも原理原則に則って事実を確認しあうことです。そうすれば、その問題の原因や真因がよく見え始めます。

   

 

 

縦から横のマネジメントに変えていく

 

 

  従来型のマネジメントスタイルはトップダウンの縦型であり、部分最適であれば、全体最適につながるという考え方があります。それでもなんとなく会社もマネジメントも機械的に回っていたかもしれません。しかし、この市場変化の激しい状況では、この縦型のマネジメントスタイルでは素早い対応が難しくなってきます。

 

 これから問題解決は、縦型ではなく機能を横断する横型のマネジメントが重要になると考えます。先述べた相互作用は、Aが良くなればBが逆に悪くなるというトレードオフの関係が良く発生してきます。これを解決するには、お互いを認め合いながら、擦り合せていくやり取りが不可欠になってきます。まず後工程が良くなるにはどうすべきか、それが良くなれば前工程はどうするかと、前に前にとつなげていきます。各工程が有機的につながっていくと、全体の流れが良くなり、アウトプットである「QDC」が一気にレベルアップしていきます。これは改善のレベルではなく、イノベーションのような出来事になります。つなぎの部分に隠れていた問題がドンドン掘り起こされていくのです。 

 

 問題解決は基本的に人間がやるものです。お互いがチームメンバーであるような関係は、その解決をより良くする原動力です。そのためにも組織内の人間関係を、問題解決を通して良くして行くきっかけにして欲しいと思います。企業内の問題の根っ子は、9割が人間関係ともいわれますが、多くの企業を訪問していますと本当に実感します。