9.職場間の交流を活性化し改善する

視点を変えるために、他の職場に行って観察する

 

 

 

  いつも自分の職場にいては何も見えなくなるものです。何が悪いのか、何が問題なのか感じなくなってくるものです。脳は同じ状態が継続すると感じなくなり、逆に変化することでものを感じたり見えたりするものだそうです。たまに他の職場に行って見ると、見えなかったことが見えるようになり、自分の職場のことが逆に見えてきて、色々な気付きが生まれるものです。少し環境を変えるちょっとした勇気があれば良いのです。

 

 気分転換は物の見方や考え方を変えるきっかけになるものです。ただし何気なく見ても何も感じることはできません。明確な目的や意識を持たない限り見えてこないものです。要は視点を変えて、観察をするように「観る」機会を持つことです。自分から勝手に他の職場に行くのは職場放棄になってしまいます。このような仕組みを設定してあげるのはトップや上司の大切な仕事だと思います。

 

 社員はいつも会社の入り口から自分の職場に直行するのが習慣になっています。そのために他部門を観察するなどは考えに及ぶものものでないと思います。だからいつまで経っても変化がなく、改善の進まない職場に陥ってしまうのでしょう。

 

 外部の企業や協力工場、仕入先などへ社内から出ることは非常に視点を変えやすく効果もあります。しかし、相手の事情もあることなので、すぐに対応は出来ないものです。でも社内であれば合意は取りやすいものです。それならば簡単だと、いつでもできるからと思って安心してしまうと、逆にいつまで経っても出来るものでもありません。

 

 そのためにもまず他部門に行って「観察をする」という既成事実を作ってしまうことです。そうすると次のステップが踏み出しやすくなります。小さな一歩は大きなステップになります。0×100=0ですが、1×100=100になります。「0」と「1」は、意味としては非常に違うものなのです。まず踏み出す勇気を持ち、即行動することです。

 

 

 

他部門の人と一緒に観察してみる 

 

 

 いきなり他部門に行って問題点を探すことは、脳の意識の部分というか、センサーがまだ起動していないままで観察することです。これではエンジンを掛けないままで車は発進しないのと同じです。まずアイドリングを脳にもしてあげるのです。その方法を紹介します。まず他部門から色々なメンバーを集います。観察メンバーは数人から最大8人にしますが、これ以上多くなるとまとまらないためです。集まったメンバーに、ちょっとした頭にスイッチを入れる仕掛けの講義をします。

 

 

 まず部屋の中を見渡してもらい、「10秒間で赤い物を5つ探してください」と参加者に伝えます。そうすると参加者は、部屋の赤い物に注目して探し始めます。そして全員に目を閉じてもらいます。そこで問題を出します。「赤いものは5つありましたか?さて問題です。この部屋に青い物はいくつありましたか?」と改めて問題を出します。メンバーからは、「そんなのいんちきだ!」と反発するかもしれませんが、「さて幾つありましたか?」と答えを求めます。「5つ思い出した人は、手を挙げてください」と促しますが、ほとんどの人は手を上げることができません。でも10秒で5つ思い出した人には、大きな賞賛の拍手を贈りましょう。赤い物と限定すると、それ以外のものは目に入っても脳のフィルターがふるいにかけてしまいます。このような事例(1円玉の葉っぱは何枚?直径は何mm?)を2つ、3つ出して挙げると、一気にスイッチが入ってきます。

 

 このようにある目的や意識を持たないことには、人は何も感じないものなのです。このことを踏まえて、これから現場に行く前に観察する項目を意識することを再認識してもらいます。それは、職場でよく忘れ去られる「安全」、そして「5S」(作業環境、表示・標識を含め)、「品質」、「人間工学(作業姿勢、振り向き作業、重筋作業などの見方)」、「ムダ(付加価値を生まない作業、仕事)」、「仕事のやり方(技術的な見方)」の項目です。あまり多くあっても混乱するだけなので、4から5つくらいの項目にしておきます。職場によって特殊なものがあればアレンジしてよいでしょう。

   

 

 

観察し合うことで、相互交流の活性化を図る

 

 

  準備するものはノートとペンだけです。出来れば画板があればノートが支えやすいでしょう。人の動きに集中して、人の動く導線を1時間追跡しながらノートにその軌跡を描いて行きます。それは対象から一時も目を離さないことのためです。そのために大切なことは、一切しゃべらないこと、改善案を考えないことです。その時に先ほどの5つの項目をノートに書いて置けばすぐに反応でき、記入することができます。

 

 15から20分も経つと、知らなかった職場の作業が次第に見えてきます。また観察している人も緊張感が取れて普段の動きをしてきます。そうすると今までになかった行動をし始めます。治工具を探しに職場を離れたり、作業指示が不十分で確認のために他の人との話しもし始めたりします。想像もしていなかったことが次々に発生して、気付きのスイッチがドンドン「ON」になってきます。

1時間もすると20件以上の気付きがノートに書き出されます。多い人は50件も出すことが出来ますが、心配しないでください。数回もやってみると楽に多くの問題を発見できるようになります。現地現物で実際にご自分の目だけではなく、五感をフルに使って観察をし始めますと、センサーを随分と磨くことができて実感もできます。 

 

 その気付きの数々はお礼として観察された人に教えて上げてください。決して批判ではなく、やり方を変えていくきっかけとして活用してください。さてこの体験をされたら、今度はご自分の職場にて他部門の人に観察をしてもらいましょう。この相互交流は、普段話をしなかった人たちとの活性化のきっかけになります。何度もやっていくことで、次第に組織間、部門間、人との壁が小さくなって、情報だけでなく心情のやり取りがよくなっていくものです。問題の根っ子は社外にあると思われますが、実は社内であるのです。これは社内のコミュニケーション不足からくるもので、実際に顔を面と面を合わせて腹から話すことが少ないことが原因かと思います。職場間の交流のきっかけを、お互いの職場をじっくりと観察することです。そして気付かなかったことを共有化し、改善に向けて取組んで欲しいものです。これが、良いきっかけになれば幸甚です。