1.改善にはコストが掛からない

事実を掴むには意識が大切

 

 

 

  前回お話しました腕時計の文字盤は、記憶に残るようになりましたでしょうか?読者の皆さんは、結構ショックを受けられたことと思います。大丈夫です、8割の人がまともに答えることも出来ないで、オロオロしているのが実態です。セミナーで鼻の高そうな人にこの問題を出すと、決まって間違った答えを堂々と言いますが、きっちり赤っ恥をかかせてやると黙り込んでしまい、その後邪魔にもならず気分もスカッとします。会社でも、現場を良く知っているとうそぶいている人たちに試して、積極的に現場に足を運んでもらいましょう。

 

 「多分」とか「だろう」と言う思い込みで、普段から物事を判断していて、実は何も事実を知らないということが実態なのです。これでは、的確な判断ができないばかりか、適切な改善もできなくなります。やったことは良かったが、的が外れて結果が出なくなり、雰囲気だけでなく人間関係にも悪影響を与えてしまいます。結果を出さないことには、仕事になりませんね。

 

 さて、直接部門だけでなく勿論間接部門の現場の問題、つまり付加価値を生まない仕事を見つけるにはどうしたらよいでしょうか。問題点を解決するには、事実を掴むことです。なぜなぜを5回繰り返す方法もありますが、さらに簡単な手法を用いて誰でも何時でも簡単にできる方法を紹介します。ポイントは、「意識して、観察する」と言うことです。なんだ当たり前のことかとお思いでしょうが、真理とはそれほど簡単なことなのです。余りにも簡単だからこそ気付かなかったのです。空気も見えませんねえ(笑)。

 

 

 

観察して記録するだけ?

 

 

 それでは、具体的に説明をしていきます。意識して現場を観察するには、「じっくり観察して、すぐに事実を記録する」ことです。その「じっくり」とは、60分が目安です。15から20分ですと短すぎます。被観察者は見られていると少し緊張していますので、普段とは違った作業や動きを見せます。これでは事実を掴むには難しいので、さらに延長していきますと緊張がほぐれて、普段の作業や動きが段々と“小説より奇なり”の現象が出てきます。

 

 「観察する」には、①3S(整理・整頓・清掃)、安全性、エリゴノミーなど作業環境が適切かどうか ②7つのムダはないか と言うことだけまず意識させます。レベルアップしていけば、さらに観察項目が増えていきますが、最初はこれで慣れていきましょう。「記録する」には、用意するものはA4サイズの用紙、筆記用具、画板そして腕時計だけです。記憶は年を取るごとに怪しくなってきます。だからマメに『記録する』ことです。ビデオも記録ツールですが、すぐに結果を出すことに関しては、良いとは言えません。もう一度再生する時間がもったいなく、二回も集中して見られるものではありません。あとで再生するからと言っても、観察しているその瞬間の集中力が一番重要なのです。ファインダーを通したそれよりも、紙に描いたものを見ればそれこそ一目瞭然です。自分の手で描くという行為が、非常に『意識』にとっては重要なのです。五感をフル活用することで、感性が研ぎ澄まされるのです。

 

 

 

 被観察者一人について、2人が観察します。役割分担は、一人は歩行の導線図を描きます。もう一人は、作業内容を順番に記入して、さらに時間を記入しますが、まずは分単位で充分です。腕時計の秒針まで見ていますと、記入作業に集中できません。大体の時間で結構です。ここで大切なルールとして二つ示しますが、①観察する時には、絶対に喋らないこと ②事実だけを記入し、絶対に改善案を考えないこと です。これも簡単なことですが、実際にやるとなかなか出来ないものです。ですから観察者を監視する観察者をつけてでも、この二つを確実に実行するのだと言うほど冗談で言うくらい出来ないものです。しかし、一度やるとその効果が実感できますので、なるほど!と納得できます。一組でなく2組、3組で観察すると、多くの事実を発見し気付くことが出来ます。

   

 

 

簡単な手法なのでやってみましょう

 

 

 観察する時には、被観察者に事前に内容を知らせておきましょう。普段は観察されずに作業していますから、余計に緊張しますので和やかな雰囲気をつくることが大切です。観察が終れば拍手をします。このフォローが、後で効きますので忘れないように。被観察者は照れますが、ニコッとします。すぐに導線図の結果を見せて、少しコメントを伝えます。それから一緒に、問題点のまとめと改善案の検討も参加してもらいます。情報を一番持っているのがその本人ですので、普段気付かなかったことを、観察結果を利用して上手くヒアリングしていきます。

 

 次は問題点のまとめ方ですが、ここでも少しやり方にルールを設けます。黒板などに問題点を列記しますが、①順番に一人1件ずつしか発言しない ②問題点だけに集中して、途中に絶対に改善案を出さない この二つを遵守します。二巡、三巡して問題点が出なくなったら、持っている人に発言してもらいます。少し面倒なようですが、これがチームとして「チームワーク」を形成していくのです。一人で全て発言してしまいますと、一気にしらけてしまいます。問題という事実だけを、1件1件列記していくのです。時間的には60分を目安とし、最長75分で切り上げます。それ以上はだらけるだけですので、キビキビやりましょう。

 

 次は改善案の立案ですが、ここまで来たら一気に改善案が噴出する如く出てきます。不思議ですが全員でじっくり問題点を一つひとつ見てきたので、共有化できてその作業全体が見えるようになり、改善案も一気に出るのでしょう。筆者は、これはビールやワインと同様にある程度の改善案が出るまでの「発酵時間が必要」だと言っています。後は特にルールはありませんので、ワイガヤ式でやってください。時間的には、問題点と同じ配分です。

 

 でてきた改善案は、大きく二つに区分できます。それは、すぐにできるものとそうでないものです。そこですぐできるものを見ますと、これも不思議にもほとんどお金の掛からないものやお金の要らないものがなんと8から9割もあるのです。これらは日数的には、1から3日でできるものです。お金や時間が掛からないから、すぐに出来ます。やればすぐに結果も出ますので、すぐに評価も出来て次の案も出易くなります。トータルの時間として、短い場合は半日でもやっており、1から3日の期間のワークショップ方式で、すぐやる改善として取組んで効果をあげています。付け加えるならば、できるだけ他の部門の人に観察をさせると非常に面白い効果がでますが、これも岡目八目的効果です。多くのところで、前後工程、直接と間接、仕入先など色々とシャッフルさせて意識を目覚めさせるように仕向けています。

 

 

 

その効果はどれくらい?

 

 

 この方法で多くの企業で実践してきましたが、例えば切削や成形の段取り替え時間短縮では、当初60から120分を2分から15分に一気に短縮しています。段替えの改善事例ですが、左が60分掛かっていたのを、6分に短縮(右)した時の導線図です。組立では、生産性が1.3倍から3倍の結果を出すことが出来ています。

 

 今まで何をやってきたのかと自己嫌悪に陥るかとお思いでしょうが、心配要りません。『人を責めないで、やり方を攻める』ようにと話をして置けばよいのです。儲けるとは、人を信じると書きます。儲かる現場づくりを簡単な方法で、まずやってみましょう。