3.改善はまず人を抜くことから

改善が継続してできないのは?

 

 

  改善をやろうということでキックオフ大会を催して、打ち上げ花火を派手に揚げたが、しばらくすると線香花火のようになってしまう会社が多くあります。全員参加の改善だということで、提案制度を導入して改善案を募集しますが、その改善を実際にする人はその上司であり業務が増えてしまい、結局は実施できない改善提案ばかりが溜まってしまう会社もあります。また、改善マンを組織して改善を推進できるよう整備したけど、その人が他の業務と兼任だったために、本業の仕事が気になってしまい、結局改善がなかなか進まないということもよく聞きます。自ら改善を実施するという仕組みがないので、「私提案を出す人、あなた提案を実施する人」というような、他人任せの改善制度になっているので、なかなか実施ができなくなっているなど、色々と事情があるようですが、ごもっともなことです。

 

 実は著者自身も兼任で改善に取り組み始めたことがありましたが、改善が何もできなかった苦い経験を持っています。やはり、本業の業務が気になってしまい、改善が疎かになってしまったのです。このままでは両方できなくなると思い、半年ほど経ってから上司に申し出て、改善業務を専任にさせてもらいました。この時はたまたま部下の2人が優秀だったこともあり、全て今までの業務を引き継ぐことができ、改善業務に専念できるように自分を追い込むようにしたのです。

 

 それから先はもう言い訳ができなくなってしまい、また逃げることができなくなり一時期後悔もしましたが、改善に集中して突き進むことができました。内心はハラハラ、ドキドキでしたがお尻に火がつけば、人間はなんとか底力を出すようです。そうして、2年後には生産性を2倍にする大きな改善ができました。それが元になって、現在の仕事をするようになりましたが、人生何がきっかけになるかわからなく“万事塞翁が馬”の諺のようです。

 

 

 

山積み表から手待ち時間を見つける

 

 

 このように改善が継続できないのは、継続する仕組みがないためです。今回は、その改善の仕組みを紹介します。まずは現場で観察を始めます。ここで大切なことは、ムダの取り方です。従来のIE的アプローチは、観察して得られた大小のムダを発見して、それをすぐに取り除きますが、そのままでは単に個別のオペレータの作業時間を短縮するだけになってしまい、肝心の手待ち時間の撤去を後回しにしています。そして、間延びした時間を逆にゆっくりと作業に当ててしまい、ただの改善ごっこになる結末が多いのです。

 

 ここでやる大切なアプローチは、何人かのオペレータの手待ち時間を測定することです。これをタクトタイムと照らし合わせて、どれくらい手待ち時間があるかを発見するのです。組立作業の場合は、比較的測定しやすいものですが、機械加工のように個別で分担されている場合は、測定方法に工夫が必要になりますが、タクトタイム、時間当たりの出来高管理などの基準を基に、見えなかった手待ち時間を浮き彫りにしていきます。

 

 

 

 例えば、10人の作業エリアで手順を紹介します。10人のそれぞれの作業時間を観察し、タクトタイムに対してどれくらいの手待ち時間があるかを表にしますが、この表のことを「山積み表」と呼びます。その合計した手待ち時間が、工程や作業の入れ替えなどの工夫で、何とか1人分の作業時間にまとまらないか検証します。できそうになれば、まずそのエリアで一番できる人から、作業から外して改善マンやチームリーダになってもらいます。このように集積した時間の余裕が1人分になれば、そのエリアや作業場の『現場から自ら、まず人を抜くこと』です。その抜いた人が、次の人を抜くために個別のムダをIE的アプローチなど駆使して、それぞれのオペレータの手待ち時間をつくり出していきます。

 

 そうやって再度「山積み表」を用いて配分をし直して、第二の人をこの現場から引き抜きます。この人も、仕事のできる人を人選することが重要になります。この現場から抜いた2人は、これから現場のトラブルシューティングや部品の選択や収集の水すまし業務をしながら、改善に専任してもらう重要な人になっていきます。つまり、手待ち時間を再配分して人を現場から抜いた時から、本当の現場改善が始まるのです。この2人が、改善業務に専念して毎日改善を繰り返し、8人になったオペレータをさらに1人抜いて7人にします。この抜いた人を、改善マンに育成していきます。このように抜いた人たちを使っていくことに、人員削減(クビ切りではありません。あくまでも人財の有効活用です!)の重要な秘密があったのです。この人たちが基軸になって、現場の組織のなかに改善をする人を創出し、ムダを取る人を育てることが、自主的な改善が継続して行われる仕組みになっていくのです。目先の生産性云々ということよりも、もっと大局的な見方をして、仕組みをつくり上げることです。この仕組みはすぐには出来ないものですが、現場の環境整備は当然やっておくべき内容であり、インフラが整備できていないことにはすぐに崩れてしまうものです。

   

 

 

抜いた人で改善の仕組みをつくる

 

 

 著者が訪問している工具製造会社の事例ですが、4年前はもう潰れそうな赤字の会社でしたが、すぐに専任の改善マンを任命して改善に特化しました。昨年は、新聞にも取り上げられるほど黒字化になり、利益率を10%へと一気に向上させることが出来ました。この会社は、最初からトップが非常に危機感を持っていたので、すぐに専任化をして改善に取り組みました。従業員が300人の小さな会社ですが、現在は改善を専門で行うチームリーダが約30人も育成でき、毎週自主改善を繰り返しています。

 

 また、1000人のトレーラー組立工場では、6年前には1人の専任改善マンから始まり、現在は25人の専任の改善マンが育ち、この工場全体で毎週4から5つの自主ワークショップという現場での自主改善に取り組んでおり、毎回訪問するたびに現場の変化に驚かされます。この会社は、手待ちが出来るとオペレータはすぐに何分で作業が終了したかチェックシートに記入して、さらに決められた「手待ちゾーン」に行き、タクトタイムが終了するまで待ちます。それをチームリーダが確認して、手待ちの山積み表を検証しながら、工数の山崩しや谷埋めの再編成をして少人化の改善を進めています。最初は手待ち状態を明らかにすることに抵抗があると思っていましたが、彼らはスンナリと了解してくれました。お陰で当然業績も業界トップになっていますが、好循環を生み出す「天使のサイクル」が回っています。彼らは著者をビックリさせようと、毎回張り切って改善をしています。