6.平準化して経営リソースを活かす

多品種小ロット生産の前提条件は?

 

 

  昨今の経済状況からもお客様のニーズがますます厳しくなってきて、企業のモノづくりが変種変量のニーズに対応していくことが非常に難しくなってきています。それに対応するために、生産方式を従来の大量生産方式から多品種小ロット生産方式に切り替える企業が多くなってきています。この生産方式には、2本柱という「ジャストインタイム」と「自働化」の考え方があり、企業内のあらゆるムダを徹底的に廃除して、儲け続ける体質をつくっていこうというもので、読者の皆さんも良くご存知だと思います。

 

 「ジャストインタイム」とは、簡単にいえば「売れた分だけ流れでつくる」ことです。また「自働化」とは、同様に「品質に対して強い工程をつくる」ことです。この両者が合体しながら相乗効果となって、コストを最小に抑えながらリードタイムの短縮を図っていきます。その結果として、最終的に企業全体の利益やキャッシュフローの増大につなげていき、儲け続ける体質に変えていくものです。

 

 ところで新しい生産方式を導入したけれども、納期対応や在庫削減などが思ったほど成果が出てこなく、何故なんだろうと考えてみたが明確な答えが見つからないというような経験はお持ちでしょうか。お客様の受注変動がそのまま工場内に飛び込んできて、機種切替えの増加や緊急残業などの後始末が相変わらず発生していて、経営数値に余り改善の結果が反映されていないことはありませんか。色々と伺っていると、この生産方式の前提条件である「平準化」の考え方が、徹底されないままで取り組まれていないことが分かってきました。しかもその「平準化」のことは余り知られていなく、知っていても上手く使いこなしている企業が少ないことも感じられます。

 

 

 

平準化の意味と狙い

 

 

 「平準化」という言葉の定義としては、生産量と品種の両方を平均化してつくるというものです。随分前には、月単位の生産計画を基に日割りして製造に生産指示を出していましたが、それではお客様のニーズを満足させることができなくなり、月単位の計画を週単位に落とし込みました。それでもまだ対応しきれなく、日単位の計画まで細切れにすることを「平均化」生産といいます。さらに細かく日単位の計画を各品種のものをもっと小ロット化して、1日に2回、4回、8回などに細分化して生産することを「平準化」生産といいます。実際の計画と生産は、このようにスンナリ上手くいくものではありません。この際には、段取り替え時間短縮や工程の信頼性向上などの取組みが必要となり、現場で色々な葛藤が生まれてきますが、ここを正面から立ち向かって取り組むことが改善活動そのものなので諦めないでやり続けることです。

 

 

 

 「平準化」には、さらに重要な意味を含んでいますので紹介します。それはお客様の受注オーダーや品種の変動の波が、直接工場内に伝わらないようにすることです。

 

 イメージとしては、港の防波堤のようなものです。その一般的な方法としては、工場内に完成品在庫を持つことです。全ての製品の完成品在庫を持つことは、到底無理なことですので、リピート性の非常に高い製品を選んで在庫を持ちます。これはPQ分析に基づき、ABCの3つに区分します。Aは、製品在庫と部品在庫を持つ。Bは、製品在庫は待たないが部品在庫は持つ。Cは、製品も部品も在庫を持たないと設定をします。すなわち製品に性格を持たせて、それぞれの対応をしていくものです。

 

 Aは完成品在庫がありますので、お客様からのオーダーがありますと、その日のうちに出荷することで即納が可能です。お客様にとっては、従来から比べて非常にリードタイムが短くなり、余分な在庫を持つ必要がなくなります。Bは、部品在庫を使ってからの加工と組立する合計リードタイムになります。Cは、部品在庫がないので部品や素材の発注リードタイムも含まれるので、非常に長いリードタイムになります。

 

 この平準化の狙いは、完成品在庫や中間品の在庫、あるいは部品や素材の在庫を上手く活用して、お客様の変動するオーダーの波を吸収して、工場内への波を少しでも小さくして生産を安定させるものです。つまりお客様の受注をいったん在庫で受け止めて、後はその間に工場内の都合に合わせて、波を安定化させて生産していきます。最初はどの程度在庫を持って良いかわからないものですが、このやり方に了解を頂くお客様をまず対象にして始めてみましょう。A製品は工場で在庫を持ち即納しますので、従来のようにまとめて発注をしないように必要な分だけをお願いすることの約束をして、在庫調整しながら横展開を進めていけばよいでしょう。

 

 これを始めていきますと毎日少しずつの受注になり、変動量が随分と減ってきますので、それにあわせて完成品在庫の調整をします。ここで重要なことは、この在庫量を一定にするのではなく、受注と生産状況を鑑みながら在庫量をバネのように大きく変動させて、工場内の負荷を調整していくことです。多くの場合が、この在庫量を素早く元に戻すように働きかけて、結局は生産現場に余分な変更をさせてしまっていることがあるのですが、あえて防波堤の高さを激しく変動させることがポイントになります。

   

 

 

平準化の考え方はどのビジネスにも応用できる

 

 

 工場内の変動の波が小さくなってきますと、経営リソースである人、モノ、設備、スペースなどが抑えられます。変動が抑えられるようになりますと、作業が安定し作業の標準化が進んできます。異常対応が少なくなり、異常対応があっても迅速に対応しやすくなってきます。さらに工場の生産が安定してきますと、仕入先での対応にも影響してきます。つまり引き取り量が小刻みになるので、カンバンが使えるようになり、仕入先とのやり取りの管理面も楽になってきます。しかし、機種切替えの回数が頻繁になってきますので、段取り替え時間の短縮などが課題になってきます。でもこれは、逆に何度も切替えをやることでその工程の問題が顕在化して、問題解決の道が拓けてきます。結果的には、一発で良品がつくれる強い工程を作る仕掛けになっていきます。

 

 このように外部からの変動をそのまま社内や工場に流すのではなく、変動を吸収する防波堤を外部との間に設けることで、内部における変動を抑えることになり、経営リソースを最小限で活用する考え方はどのビジネスにも応用できると考えます。