7. 競争力をつけるその秘密は?

改善をしてもなぜ思ったほど成果がでないのは?

 

 

  多くの企業では色々な改善活動を実施されていますが、トップが期待したほどの成果が得られていないという現状の悩みを伺うことがよくあります。それは何故できないのでしょうか。ちょっと取り上げてみましても、①トップ自体の熱意が冷めてしまい、従業員も士気が落ち込んでしまった ②全員参加の取り組みに展開されず、一部の人たちによる改善活動になってしまった ③改善の計画性が不十分で、場当たり的な活動になってしまったなどが理由として出てきます。

 

 これらのことからさらに問題の根っ子を考えて見ますと、次のようなことが出てくると思われます。①改善を実践したノウハウを、自分だけに留めてしまっている。そのためにノウハウそのものを自分で上手く表現できず、他人に伝えることができないままになって暗黙知に留まってしまっている ②上司が、まだまだ従業員を単なる労働者、作業者と考えている。これは最近の労働事情にあるパート化や派遣の人達を多く雇用していることから、単なるこれだけの仕事をやれという指示がほとんどで、細かいカンやコツなどのノウハウを伝えなくなり(伝えきれないこともあるでしょう)、また彼らからのアイデアも期待しなくなってきている ③従業員の持っている能力を、十分に活かしきっていない。またそのような能力を、発揮させるような作業環境を作っていないなどです。

 

 これらをまとめてみますと、①生産現場では従業員の仕事といえば、個々に必要な作業をするだけに留まっている ②現場スタンダードとしての文章化や標準化になったものが少ない ③個々の素晴らしいノウハウもまだまだ暗黙知になっていて、それらが有機的につながって存在するわけでもなく、また組織としてのノウハウになりきっていないなどが考えられますがいかがでしょうか。

 

 

 

わからなかった暗黙知を組織知に変えていく

 

 

 個々で持っているカンとかコツといった伝えることの出来なかったノウハウ(暗黙知)、つまり数値化できない、文章化できないものを見えるようにして、組織としてそれを最大限に活用することが、改善を継続させていく原動力として非常に大切になってきています。今まで気付かなかったことを気付くようになると、職場の皆さんに伝えることができるようになり、共有化すること(共有知)が可能になってきます。これによって皆さんが共に活用できるノウハウが次第に増えていき、これらを色々と組み合わせたりすることにより多くのノウハウが束になり、全く違った縦糸と横糸を丹念に織り込んで頑丈な布を造る様な活動に展開していきます。組織として共有化された知識、つまり「組織知」に半ば強制的に変えていきます。なあなあではいけません、断固としてやるといった気迫で取り組んでいくと次第にできるようになります。

 

 

 

  個人が持っているノウハウを自分では他人に教えることができない暗黙知を、他人に伝えることが出来るようにする方法として、著者が用いている方法を紹介します。これは2から3日間の現場におけるワークショップという方法です。改善対象の工程の人達と前後工程の関係者、さらには全く別な間接部門などの部署の人達を巻き込んで数名(最大8名)で、テーマを決めて取り組みます。改善対象の作業では、その工程の人は何気なく作業をしていますが、その工程の作業を知らない人達からは、何故そうするのか?何のためにやるのか?本当で必要な作業か?もっと楽に出来ないか?もっと簡単にやれないか?などの疑問を持ちながらその作業を観察していきます。一通り作業が終わると、実際に作業をしている従業員からインタビューをして訊き出しながら、一緒に彼らがやっていた職人芸や芸術的な作業を他人に確実に伝わるように、コミュニケーションを取りながら「暗黙知」が見えるように作業を解きほぐしていきます。ポイントは、じっくり時間を掛けて舐めるように観察することとしつこく繰り返していくことです。

 

 この時に共有化されたノウハウは、伝えるために頭の中ではなく文章に置き換えて誰でも判読できるようにしておくことが大切です。この文章化が面倒で誰もすぐに取り掛かろうとはしないものですが、人間の記憶はUSBのメモリーよりも非常に小さいものであり、1日過ぎれば半分も忘れてしまうのです。曖昧な「記憶力」より、確実な「記録力」を重視したいものです。そして、この文章化したものをすぐに、標準作業票や標準作業組合せ票、ワンポイントレッスンなどの標準類に落とし込んで作業場、ラインに掲示します。さらには改善提案としても採用して、個人よりも一緒にやったチーム全員の報酬を上げるというインセンティブな動機付けも忘れないことも大切です。

   

 

 

競争力をつける仕組み

 

 

 さて競争力とはどういうことかといいますと、お客様を惹きつけて、かつ満足させる度合いのことです。実際のアウトプットとしては、Q(品質)+D(納期)+C(コスト)さらにF(柔軟性)が挙げられ、お客様の期待以上のものを出すことで満足から感動に至ります。著者としては、この満足から感動を与えるレベルになることを期待します。これにさらに、S(サービス、安心)も重要なアウトプットになってきています。

 

 現場にはスタッフが作ったものではなく、現場が自ら作った現場スタンダードがあり、そこには生きたノウハウが次々に詰め込まれて、次々と成長していくことが競争力をつける仕組みになります。その考え方として、①実践のノウハウをドンドン組み込んでいく。やればやるほど良くなっていきます。②現場の人たちをもっと活用する。実際に作業している人が一番作業を知っています。彼らにそのことを気付かせて、彼ら自身の作業の暗黙知を共有知にしていくことです。そのためには、彼ら自身に改善をする機会を与えることです。単なる作業者ではなく、大いにノウハウを持った凄い人達だという認識を持ち、彼らの能力を最大限に発揮する環境を提供して欲しいのです。これを継続してやる方法としては、定期的なワークショップを計画的に行うこと、そしてそれを確実にフォローする組織をつくることなどがあります。

 

 人の顕在意識はわずか1%ともいわれており、逆に潜在意識は99%もあるといわれています。この隠された意識・能力を発揮させないのは、最も重要な経営リソースである「人」を活用しないということです。今一度、「もったいない!」と振り返ってみましょう。