8. 固定費削減は現場の人たちを活用

固定費の削減は、製造現場のリストラではない

 

 

  不況を乗り切るためには、固定費を削減していかなければなりません。固定費削減の安易な方法として、真っ先に製造現場の従業員をリストラする方法があります。しかし、それは非常にもったいない話です。彼らは、多くの現場のノウハウを持ったいわゆる「知恵を持つ集団」です。それを余り意識していなかったのは、忙しさにかまけて彼らの持っている才能や能力を、十分に発揮させる機会を持たなかった経営者やトップの責任ではなかったかと考えます。

 

 それは多くの経営者やトップ、上司が彼らを指示命令の形態で仕事を彼らに指図していたため、彼らは自ら考え行動する本来の行動形態から路線がずれてしまい、次第にいわれたことだけをやっておれば良い志向になってしまったと考えます。

 

 しかし、製造現場はモノを加工し組立し検査し、良品に仕上げて出荷していくその過程において、工場の付加価値を生んでいる唯一の職場です。そこで彼らを鍛えることによって、彼らの今まで眠っていた潜在能力を呼び覚まし、広い範囲の仕事を経験してもらうことによって、色々な工程の多能工化が可能になってきます。つまり、生産計画調整の一部を現場で行い、状況判断を素早く行い対応していくことが可能になります。

 

 また調達において、繰り返しのある部品や材料は、置き場を整備してストア化しかんばんの運用を行い自ら発注することができます。設備のメンテや清掃もTPM活動を保全マンから教育をしてもらい、初期清掃、発生源対策、設備点検基準の作成と実施などの設備改善の活動を行うこともできます。さらに、今まで問題のあった設計に対して、実際に加工組立している中で、改善点や工夫個所の多くを自ら対応してきたノウハウを生かし、設計に反映することもできます。特に設計者の多くに現場を知らないで設計している人がいて、そのような人ほど罰が悪いので現場に出ようとしないものです。事実を知らなくては、本当に良い設計はできないはずです。

 

 

 

問題やムダは、間接部門にも多くある

 

 

 間接部門の人たちは、色々な情報を加工し組立し検査をして、情報加工の結果として、生産計画書、発注伝票、生産指示書などのアウトプットを製造に提供してくれます。しかし、その精度や速度は後工程の製造からすれば決して良いものではなく、逆に製造現場から聞き直しや誤解さらには間違いといった混乱を提供していることが多くあり、製造現場にとっては喜ばしいことではない場合があります。

 

 

 

  逆に間接部門の人たちに、今から製造現場のノウハウを伝授していくことは、製造現場の人たちよりも相当難しく長期間に時間がかかるものです。困ったことに間接部門の人たちは、製造現場よりも頭が良いと錯覚していて、さらに自分達の方が付加価値を稼いでいると信じています。それに気付こうともしませんし、プライドも高くおまけに給与も彼らより高額なこともあります。失礼な言い方かもしれませんが、先にリストラしなければならない方は、むしろ間接部門の人たちかと思います。

 

 間接部門のムダも実は見方を変えると、製造現場と同じだと理解できます。7つのムダがありますので、紹介します。①つくり過ぎのムダ・・・情報収集過多の万が一の保険仕事、ムダな情報の産出、業務のダブり、何でもかんでもEメール。 ②在庫のムダ・・・長期間の保留の書類、溢れる机・引き出し・キャビネットそしてファイル。 ③手待ちのムダ・・・前工程からの情報待ち、課題への取り組みの遅さ、画面に向かって考えごと。 ④運搬のムダ・・・部門・上司・部下間における情報の引渡し効率の悪さ、コミュニケーション不足。 ⑤動きのムダ・・・意味のない活動、作業手順・組み合わせの悪さ、長時間のモノ・情報探し、不十分な標準化、属人的作業。 ⑥不良手直しのムダ・・・修正・訂正、誤解を解くための調整作業、確認作業、不良の引渡し、キーインミス(最もよく使うキーはBack Space、Deleteのキー)。 ⑦加工そのもののムダ・・・目標、日程がはっきりしない作業、能力不足や不安、人の能力を上手く活かさない、課題が不明確、不適格な人の使い方などが挙げられますが、製造現場のモノが情報に変わっただけです。すなわち情報を現場のモノと同じように考えれば、改善は比較的簡単にできます。ダブついたムダを、自ら取り去る行動を起こさないと自滅しかねます。

   

 

 

現場の人を鍛えて、もっと広い範囲の仕事をする

 

 

 その対応としては、製造現場の人たちをもっと鍛えて、前工程の仕事を取り込んでもっと自分たちがやりやすい仕事に替えていくことです。そのために、まず全員で工場内の不要品を廃棄して整理します。さらに清掃を行って、不具合個所の発見と発生源の処置をします。そしてベストポイントにモノを置き換えて、表示・標識して整頓していき、自らの作業環境を働きやすいように整備していきます。この時点で、電力、エアー、油水などのエネルギー関係のムダが明確になりますので、対処して固定費削減ができます。不要な設備や遊休設備などの廃棄も出てきます。工場内に有効活用できるスペースが生まれ、外部に借りていた倉庫などを不要にすることができます。

 

 次には、すっきりした現場を今一度現状把握を徹底して、今度は製造のムダの廃除を行っていきます。作業の改善や見直しで、2シフトから1シフトの作業変更することで、エネルギーの削減ができます。設備の清掃や点検をすることで、稼働率向上、故障なし、使いやすさ向上、段取り替え時間短縮、知恵を使った簡単で便利な設備の改造、使用条件の整備で長寿命化などが具現化できるようになります。部品や材料の置き場の整備を行い、表示・標識を徹底してストア化して在庫管理が容易にできるようにして、かんばんが運用できるようになると、欠品がなくなり発注や在庫管理が簡単になります。

 

 そして在庫削減ができ、ピッキング作業も簡単になり、現場で自らできるようになります。また、生産計画も生産管理板などを用いて、目で見る管理を徹底して行うことで、現場で最も効率の良い順番を素早く決めることができるようになり、計画系の人の負担を少なくしていくことが出来ます。つまり、間接の仕事に喰らい込んで行くのです。 

 

 自分の城は自分で守るといいますが、自らの守備範囲を広げていくことが、自らを鍛え上げていきます。そして、工場になくてはならない人材に育成するのです。