9. 改善は関係のある全員でやろう

現場だけではない協力者がいる

 

 

  ある工場に訪問して、さあこれから講義をしようかと顔を上げると、正面に見たことのある女性の顔がありました。挨拶はしたのですが、どの工程で作業されているか思い出すことができませんでした。講義をしてから全員で現場に出て、現状把握し、さらに問題点を抽出し、改善案を出すまでが1日の日程です。そして、各チームで5分間のミニプレゼンを行ってもらい、それぞれにヒントなどを提供します。さらに参加者全員からのフィードバックを行います。これは全員が皆さんの前で話をすることで参加意識を高めてもらうこと、どのようなことを考えているのかをお互いが知ることも想定しています。会議にもまったく発言をしない人もいますが、それでは壁の花のようなものです。発言の機会を簡単な仕組みに組み込んでしまうと、次からは自然に発言ができるようになります。その仕組みをスムースにするために、A4用紙に手書きでマイクを描き、それを参加者に渡します。制限時間を「20秒」と書いて記入すると、その時間で話し終えます。

 

 誰かと思っていた女性の番になり、「私は食堂から初めて、工場のワークショップに参加しましたが、まったくわかりませんでした。」と発言されて、いつも利用している食堂の女性だったことがわかりました。食堂では退職者が予定されているので、今からムダをなくして現状人員で作業ができるようにしたいと、上司からの希望で参加されたのです。「今は何も見えないかもしれませんが、明日からは作業の内容やムダが見えてきますから心配されないように。」とコメントしました。まだ不安げにされていましたが、2日目には現場の人と議論したり、実際に改善もされていました。3日目のフィードバックでは、「ムダが一杯見えるようになり、食堂もムダだらけとわかり早速できるものは改善してみます。」と力強い宣言も出ました。改善のまったくの素人でも、視点が変わればムダが一気に見えてきます。別なチームには、補材を納入する協力会社の業者の人も数人参加されていました。よその工場で実際に改善を一緒にするのは初めてで戸惑っておられました。でも心配をよそに2日目にはもう大きな改善を実施して、大幅な仕掛削減、ミルクランでの工場内の搬送までできるようになっていました。

 

 工場の人たちだけではなく、工場に関わっている多くの人が参加されると、今まで気づかなかった領域が明らかになり、多くのムダが顕在化してきます。その活動を工場だけではなく、関係者も大いに巻き込んでいけばよいと思います。何が問題かといえば、既成概念や固定観念といった“心のブレーキ”であり、それを外せば良いのです。

 

 

 

前工程は神様で、後工程はお客様の関係

 

  その職場に関わりのない人は改善に関係ないというのは、先のように大きな錯覚です。トヨタの言葉に、「前工程は神様で、後工程はお客様」があります。例えば鉄・アルミ・タイヤ・ガラスなどは仕入先から購入されており、約70%にも及んでいるそうです。つまり自分のところでできないものをつくってもらうので、これは神様だという考えだと思います。でもまだ仕入先のことを「外注」というような呼び方をして、自社よりも視線を下げた見方で呼ぶことも聞くことがあります。そうではなくて、仕入先は自社と同格、パートナーという見方や考え方に換えるべきだと思います。そのような謙虚な対応はお互いの関係もよくなっていき、相互の協力も自然にうまくいくようになるでしょう。

 

 

 

  また、後工程は皆さんご存知のように「お客様」と呼ばれます。いくら良い車(製品)をつくってもお客様に買っていただかないことには、ただの鉄の塊?(死蔵品)にすぎません。これでは知恵や汗を流した対価である肝心のお金が入ってきません。古い言葉にお金のことを「お足」といいますが、お金は停滞させるのではなく、ぐるぐると素早く回し、世の中が潤うようにする道具です。後工程が欲しいといってもらえるように、必要な時に、必要なものを、必要なだけ、タイミングよく引き取るような仕事にしたいものです。

 

 そのためには正確な情報を伝えることです。でもなかなか伝わることが少なく、雑音も相当入り混乱しているのが実態です。混乱解消のためにも、社員同士や部門間、さらには組織間、さらに仕入先、営業、そしてお客様までの情報の流れがスムースに行くように整流化しておく必要があります。そのためにも耳を貸すというより、心を注ぐという姿勢で臨むことです。工程間に情報が流れない原因があり、この「つなぎ」の部分の大掃除に取り掛かりませんか?前工程と自工程さらに、後工程と連鎖してスムースにつながっていくでしょう。直接関係なさそうな人たちにも大いに現場に出向いてもらい、ムダを一緒に発見し、そして廃除して儲かるようにすればと思います。

   

 

 

回りまわってすべてつながっていることを意識する

 

 

 まだ自分のことを中心に考えている人を多く見かけます。自分の部署が大事なことは理解できますが、企業は人間のようにシステムというより生物的なものであり、心臓だけ2倍に大きくしようなどできるものではないのです。従来のつくれば売れる時代では、部分最適でも全体最適になりうることができていました。でも今はご存知のように情報革命が起こり、物が溢れる時代になっています。個々の都合ばかり主張していては、がん細胞のように肥大化して破滅してしまいます。自分のことも考えながらもっと高いレベルで全体最適に向かって、全員がベクトルを合わせていく時代です。変化対応力を企業全体で身に付けておかないと、市場の変化に追従できなくなってしまいます。

 

 ドイツには危機感という言葉はなく、危機意識という言葉しかありません。「感」は感じることであって、「意識」することはかなり重みのある言葉になりそうです。ドイツの中小企業の強さは、この「意識」にあったのかと思わずハッとしました。そういえば中小企業はオーナー会社が多くしかも有限会社であり、自己のアイディンティーを強く感じます。

 

 この市場環境で生き残りそして勝ち残っていくには、社員だけではなく関係者の皆さんのベクトルも集中させることで突破口が見つかるかと考えます。そのベクトル合わせのためには、なぜ会社を興したのか?会社は何のためにあるのか?将来のビジョンはどうしたいのか?など本質的なことを振り返り、自問自答しながら、関係者と一緒になって明確にすることがヒントになるでしょう。人間は意識の持ちようでかなり変わることができる動物です。しかも人間だけの特権であり、使わないともったいないですね。