完全版・今すぐ実践!ヒューマンエラー防止策(第9回)

テーマ:コストも時間もかけないですぐできる5S+表示標識のやり方

株式会社 SMC  松田 龍太郎

即効性のあるヒューマンエラー防止策の紹介です

  ヒューマンエラーの原因のほとんどが、些細なことが積もり積もって発生しています。その些細なことのゆえに、何も感じない、何も考えない、何も対策を取らないことで、粉塵爆発のように一気に事故や災害になっていくと考えます。つまり、知らなかったからなぜそんなことになるのかを想像もしなかった、知っていたつもりだったがその時は忘れてしまった、思い込みだったなどの原因があります。しかし、行動を起こす前に、不要なモノがいっさいなく、また汚れやホコリがなくキレイで見やすい表示標識があれば、ちょっと確認することで、ミスをすることが大抵は防ぐことができるのです。

 事前に知ること、わかることができることで、多くのミス防止が可能になります。それが、5S+表示標識のやり方だと考えます。これはコストも時間もかからないので、見積りも稟議書も必要もなく、職場の合意だけで実践できます。人の記憶はとてもいい加減なことは、何度も紹介しました。ならば、「記憶力よりも、記録力が大事」として、必要な個所に的確な表示標識をして、ミスの発生を事前に踏みとどめたいものです。モノや情報があり過ぎては混乱しますので、「整理→清掃→整頓+表示標識」をして環境整備して、効果が出やすいようにしておきます。

 その最たる表示標識の事例と考えるのが、写真1のゴミ箱の位置表示です。これを最初に見た時は、ガーンと脳に衝撃を受けました。ゴミ箱の「▼」マークと床の「▲」マークを合わせるというとても単純なものです。しかし、人の心理を上手く利用したアイデアで、少しでもずれると合わしたくなる心理になります。某指導先の改善提案でしたが、何と賞金は100円だったと言います。1万円の賞金が出ても良いくらいの提案です。

 これをパソコンで作り、ラミネート処理して両面テープで貼り付けします。普通にゴミ箱の位置表示は、直径約25cmの周囲を囲みますので、約140cmになります。ところが、この▼▲マークは、8㎝幅ですから、合計16cmで済みます。しかも貼り付ける前は、はがれないようにキレイに清掃が必要です。テープ代、掃除と清掃の工数、そのあとはがれた場合の修理工数は、とても比べることができないほどの効果があります。

 某工場で、このヒントを基にテーブルの灰皿に使ったのです。それまでは、誰も吸い殻を片づけようともしなく、山のように積もり上げたままテーブルも灰だらけでした。▼▲マークを貼り付けたら、毎回吸い殻を捨てテーブルも拭くようになり、しかもマークを合わせるようになったのです。ウソのような本当の話です。

 

●整頓の「頓(トン)」の訓読みは、ぬかずくと読みます

  ヒューマンエラー防止策では、探しにくい、元に戻しにくい、面倒だ、読みにくい、合せにくいなどの手間のかかることがあるから、どうしても人として楽な方に流れてしまいます。整理はよく言われることですが、その歯止めとしての「整頓」もとても重要なのです。整頓とは、定義は色々ありますが、「取り出しやすく、仕舞いやすいように整列しておくこと」です。著者は、そのために整頓には、表示標識を必ず付け加えて“セット化”します。

 整頓の「整」は、乱れたものをきちんとする意味があります。「頓」は、訓読みでは「ぬかずく」と読み、ひたいを地面につけて丁寧にお辞儀をする様を言います。つまり、整理や清掃は、1日に1回、2回という回数ですが、整頓は毎回取り出すたびに都度やらなければならないことであり、丁寧に出し入れができるようにします。ですから、徹底して“やりやすさ”や“わかりやすさ”が求められるのです。これをやれば、規律が生まれミスの要因も激減して、ヒューマンエラー防止策にもなります。

 まず整理した後、キレイに清掃して壊れた箇所がないかを確認して必要により修理や補強もしてから、取り出したモノを仕舞い込む整頓を行います。整頓は、まずモノを整列させて、頻度や探しやすさなどを考慮して設置します。よく使うモノは、左から順番に並べる、1、2、3とはA、B、Cなどのある法則に基づいた順番に並べます。

 表示標識は、3m離れたところでも認識できることです。文字が小さく近づいて見ないなど認識できないと、面倒になり投げやりになってしまいます。そして、色、カタチ(写真や影絵、はめ込みなど)、数字、文字の順番に使うと人は認識しやすくなります。文字と数字の数は、せいぜい4桁に収めます。

 

観察の仕方の7番目は「組織的な問題」ですが、これもすぐに解決できます

 4月号の解説に、観察の仕方の要点を7つ紹介しました。7番目に「組織的な問題」があります。具体的には、マニュアルがない、ルールがない、標準がない、手順がない、あっても古いままで今の作業ややり方と実際の作業ややり方と全く違うなどの問題です。

 これを「組織的な問題」と呼んでいます。実はこれも最もお金をかけないで、しかも即効性のある対策になっています。極端に言えば、A4の用紙1枚でできます。書いたものを職場で説明して、貼り直すだけです。改めて意味を知る、やらなかったらどうなる、被害はいくらになるというだけでも、再認識してミスのブレーキを事前に踏むようになります。

 例えば、フォークリフトやハンドリフターの置き場を決める時に、それらに車のナンバープレートと同じように番号を付けて、さらにその駐車場にも番号も貼り付けます。番号が合えば、問題ありません。また工具置き場には、その置き場の色を選定して、赤、青、黒、緑など工具に色を付けるとその通りに戻るようになります。人間の心理も少し取り込むことで良い歯止めになります。

 

写真1 ゴミ箱と床に「▼」「▲」マークを貼り付けし、それに合わせるようにします

写真2 棚の事例。上からA、B、C。左から順に1、2、3。戻しやすいように、棚にタイトルの写真のコピーを貼り付けしています