5.経営者の立場になって見直す

 職場ではどんな意識を持って働いているのか?

 

 生産現場の従業員の方がどんな気持ちで毎日働いているか、その作業意識を一人ひとりにお訊ねになった経営者や上司はどれくらいおられるのでしょうか?やらなくてはと思ってみてもなかなか照れくさくてやっていないとか、あるいは彼らとは長く付き合っているので、あえて訊かなくても分かっているとも思っておられるかもしれません。本当はじっくり正面から話し合ったことがない場合が、ほとんどではないかと思います。従業員の多くの場合が、仕事をやらされている感じだとか、「言われたことだけをやっていてその日のノルマのみを追いかけて、精一杯で改善なんて考えたこともできないなあ」、というような消極的な答えが想像されます。工場で目標としたことや掲げた成果が出ないとか、意欲が感じられないとか、自主的な活動ができないとか、大きな声をしたその時だけですぐに元に戻ってしまうなど、皆さんの盛り上がりが欠けてしまう元気の無さは何故でしょうか?

 

  この製品や部品をいつまでに何個造れ!と言う具体的な指示や命令は、日常茶飯事でしょう。しかし将来われわれの工場をどうしたいとか、どのように工場を変えて行きたいなどのビジョンや夢を、従業員の皆さんに分かる言葉で咀嚼して、物語風に熱っぽく語ることが元気の源になります。でも工場を本当に変えて良くしていこうと思ったら、従業員の皆さんと正面から話し合って納得させ、ベクトルをお客様の方向に向けさせることが、これから組織や会社として競争力をつけていくことが重要になってきます。

 

  ところで体重をいかに減量するかとか、血圧を低下させるなど努力はして見るもののなかなか結果が出ませんね。でもコストは掛けずに、割りと確実に結果を出す方法があります。それは特別なことをするのではなく、毎日体重計に乗って体重を計測したり血圧計で朝晩数値を確認したりすることだそうです。しかもそれをグラフや表に書き込むと、さらに効果があるということです。つまり作業の意識も同様に、毎日書き込んだりみえるようにしたりして、少しずつでも毎日継続させることがヒントのようです。

 

 

全員が経営者になったつもりで考えてみる

 

 会社や工場から自宅に帰ると家庭を持っている従業員の皆さんは、その家庭における家長であり、いわば経営者そのものです。会社や工場では、トップにいる人はごく僅かで、実際にはトップや上司から多くの人が指示命令で仕事をしています。そのためなのか働いてはいるものの、働かされているという感覚に陥ってしまうのでしょう。その延長線で家庭でもなんとなく意識をしないまま生活をして、奥様や家族からもこき使われている感覚に陥ってしまうことになりそうです。

 

 

 

 しかし良く考えて見ますと、家庭では月末に支給される給料を基に、来月の家庭の生活設計を考えます。たとえば来月の連休の家族旅行はどこに行くか、その費用はどれくらいか、さらには古くなった車はいつ買い替えしようか、そのためのローンはどのように組むか。もっと言えば長期的なものとして家の増改築はどうするか、子供たちの学費や結婚資金はどう組立てていくかなどの計画を立てることは、短期だけでなく中長期計画を立てるように、まるで会社の経営そのものではないでしょうか。家計のお金の出入り管理は家計簿ですが、これも会社でいえば収支決算書、さらには損益計算書、貸借対照表になっていきます。

 

  経営者の視点は、工場全体の入り口から出口までを一貫して見渡すものです。自工程や自部門だけなどの狭い範囲の部分最適を見つめていては、上手く物や情報はつなげることはできません。全体の流れをいつも鑑みながら、蟻ではなく鳥になった気持ちで、全体最適につないでいくことを考えておくべきです。

 

  ここで川柳を一句、 従業員 家に帰れば 経営者   お粗末。

 

 

ヒントは以外にも身の回りにあります

 

  そこで従業員の皆さんは、自分は生きているのではなく、生かされているということを実感してもらうことが必要だと考えます。実際に自工程だけでなく、前工程や後工程とのやり取りをもっと頻繁に行って、お互いの関連を相互に理解することです。実際に足を運んで見て、お互いの顔をつき合わせて見ることをやります。次には、全工程さらに全工場を一通り歩いて見て回ってみてください。トップの方は、お客様を連れて工場案内をされる機会があり、自社の現場を何度も見ることがありますが、従業員の多くは全工程や工場の隅から隅までを見る機会は、そう多くないと思いますので是非お勧めします。

 

  やり方は、お客様に一番近い出荷場から遡って、倉庫、生産現場、仕掛り置き場、資材倉庫さらには品質管理部門や営業などの間接部門まで物の流れる反対方向から歩いてみてください。普通は情報の流れに従って、前工程から工場案内はされますが、普段とは違った方向から見ていくと見えなかったことが発見しやすくなります。その時に、5Sや表示・標識、作業安全、作業環境、仕掛りの状態、従業員の表情などを念頭に入れて観察しながら歩いてみます。その時にこの会社の従業員と言う立場ではなく、「この製品を買いたいなあ」と言うお客様の購買担当になったつもりで見てもらいたいのです。そこで、あなたが「本当で金が出せますか?」と言う自問自答をするのです。

 

 別な観点で言いますと、皆さんが初めて訪れたスーパーで買い物をするイメージです。どのスーパーもそれぞれの商品一つひとつに表示標識が付いています。何かを探そうとして顔を上げると、大きな看板で肉、野菜などの表示が取り付けてあります。どのスーパーでもすぐに目的の物を探し出すことが出来ますが、それには不特定多数の人が訪れてもすぐにわかる仕組みが施されているのです。これが探しにくければ、お客様はすぐに別のスーパーに行ってしまいます。本当に良くないとお金は出せませんね。

 

  某家具工場では、加工部品や購入部品などの廃棄が多く、何とかならないかと言うことで、スーパーのように面倒でも部品一点ずつに値札をつけることにしました。その付ける手間よりも意識向上の成果の方が断然ありました。その結果、何気なく取り扱っていた部品を非常に丁寧に使うようになり、すぐに廃棄や手直しが1/10以下になりましたが意外なほどの意識改革ができました。このようにヒントは、私たちの身近でしかも日常的な中に潜んでいるようですが、視点を変えることで簡単に「みえて」くるものです。