10.加工される材料の身になって考える

いつまで経っても不良がなくならない

 

  工場視察をすると、多くの工場で至る所に不良品や手直し品が放置されているのを見かけます。空きスペースができると、すぐにその場所に吸い寄せられるようにそれらが集まってきます。隠したつもりでも、毎回やっているとそれが当り前になってしまい、オペレータは何も感じなくなってしまうものです。まるで類は友を呼ぶかのように、何時まで経ってもその現象はなくなりません。そればかりか不良は増殖するばかりで、何時になったら片付くのか見当もつかなくなるものです。不良対策にあの手この手を使って対策を講じておられると思います。でも再発しているのは、やはり絆創膏を貼って応急処置をする程度で、“よし”と済ましているからと想像されます。これは機会損失です。

 

 不良や手直し品が発生する原因や対策を伺っても、ほとんど表面的な原因と対策しか回答が返って来ません。なぜなぜ?と2回訊ねてもその先のなぜ?が続きません。せめて3回以上そのことに対して突っ込んだ説明が欲しいと思います。また手直しの認識については、調整や追加工などをして良品にするから不良ではないというオペレータもおられることにびっくりさせられます。手直しをするとその何倍の工数がかかりますが、その工数はオペレータにとっては就労時間内なので痛くもかゆくもありません。しかも終業前に生産数の未達成が判明しても、後は時間延長しか対応できません。残業となると、単なるオペレータの残業代だけではなく、設備を稼動させるための動力費、さらに光熱費なども加算されて思いもよらぬコストがかかりますが見えてきません。

 

 経営者にとっては顧客からお金をいただけるのは、加工費と組立費、言い換えるなら付加価値の分だけです。後は自社から余分なコストを持ち出して原価を高騰させるだけですが、現場の人にはなかなか理解できません。コストが上がれば利益は少なくなり、結局自分たちの給料に反映されますが、直接感じ取れないのでわからないのです。月給制になっていますから、原価高騰に反映することがわからなくなるのでしょう。

 

 このことをトップやマネジャーがわかりやすく現場の人たちに説明して、納得させて行動を変えてもらう必要があります。結果が出ないことには伝わったことにならないと考え直して欲しいのです。社内でわかっているようで、本当は伝わっていないことが非常に多いのが実態なのです。こうなると躾と一緒で、何度も何度も言ってきかせるくらいの決意を持って対応する覚悟が必要です。本当にもったいないと思う機会損失です。このことを金額換算すると、売上げの1割以上でもなるかとタヌキ算をしたくなるほどです。

 

 

犯人捜しから恋人捜しに発想を替えてみる

 

  不良が発生したらその原因を追究しすぐに処置をして、さらに再発防止策を実施して後工程に間に合うように行動していくことが大切です。でもそれ以前の問題がまだまだ残っている風土や雰囲気があちこちで見受けられます。それは、その不良は誰がやったのか、その責任は誰が取るのかといった目先のことに躍起になっているからと思います。まるで刑事が犯人を捜して、クビ根っ子を捕まえて“どや顔”をみんなに見せたいという感じです。そんなことをやっていては逆効果です。ますます不良の原因を見つからないようにオペレータがわざと隠したり、不良をごまかしたりして後工程に流してしまおうという自分の都合だけを考えた行動に陥ってしまうだけです。それで不良がなくなることもありませんし、工程間の流れや人間関係まで悪くなるばかりです。

 

 不良が出たことを機会に、不良が発生した原因の発見から再発防止策の検討、それが上手くいったら同じような設備や機械、治工具などに横展開をしていく行動に結び付けていきましょう。そのような積極的な行動に切替えるためにも、不良による損失がどれくらいあるか一度皆で試算をしてみてください。手直し時間、再度材料の手配や材料材、伝票記入、移動時間、打合せ時間、コンピューターへの入力作業、設備稼働の費用、光熱費などかなりの金額になるはずです。1個1円の部品でも何百円にも化けてしまいます。この過程を通して共有化することが、行動を変えるきっかけになります。

 

 これらのムダやロスがなくなっていくと、時間だけでなく、材料費、光熱費などの節約になるばかりか、工程の流れや生産性も確実によくなってきます。発生した不良を犯人扱いに捉えるのではなく、出たものは仕方ないので、これを恋人のように大切に取り扱うことで、多くのメリットや気づきも生まれてくるはずです。どう捉えて対処するかの“心のスイッチの切り替え”で、随分と後の結果は違ってくるものです。

 

 

 

材料の身になって良品条件を管理できるようにする

 

   それならばもっと不良の原因を追究するにはどうしたらよいのでしょうか。一案として、加工する側の設備や機械ばかりに注力している視点をちょっと変えてみましょう。それは加工される側の材料の立場になってみることです。人間関係も自分にして欲しいことを相手にしてあげると、非常によい関係が出来ることと考え方は同じです。

 

 加工する側だけでなく加工される材料の身になって、どのように加工されるとあるべき姿、設計通りになるのかという見方や考え方で視点を変えてみるのです。これが意外と今まで気づかなかったヒントとして出てくるのです。今までは、これは多分このようになるはずだとかこのようであったのだ、などと思い込みや固定観念に知らず知らずに誘導されていたことが実に多かったと思います(著者もその通りにやっていましたので、よくわかります)。すぐに結論を出そうとするあまり、表面的なことで判断をKKD(経験とカンと度胸)でやっていたのです。せっかちな性格ゆえに多くの失敗を体験させてもらいましたが、読者の皆様には勿論やって欲しくありません。そういう意味も含めて一度材料の身になって(相手の立場)、どう加工して欲しいのかを一呼吸置くように見詰め直すのです。簡単なことですが、こうすることで客観的な見方ができるのだと思います。気づかなかったことが意外と早くわかるようになったと好評な反応を受けています。

 

 それと合わせて不良を発生していた項目から、今まで管理をしていた項目をすべてリストアップして、本当に品質や機能に重要な項目は何かを整理し直してみましょう。そして良品をつくるための条件を再設定して、誰がやっても同じ結果を出せて、しかも不良が発生しない加工条件や方法をつくり出してみましょう。大きな経済効果になります。