1.ムダをみるには、モノサシが必要

基準がないからムダが見えない

 

   毎日見ている腕時計の文字盤や紙幣やコインの模様などがどうだったのかを思い出すことはできませんが、いずれも意識をして物を見ていないことによるものです。毎日みている工場内に付加価値を生まないムダな作業が、どんなに多いことかをすぐに自分で指摘したり、思い出したりすることもなかなかできないことです。コンサルティングで工場を訪問していて、どこにムダがあるのでしょうか?と逆質問を受けることもありますが、裏を返せばまだ私たちコンサルタントの出番が待っているということでもあり、少し嬉しくもなります。

 

 何故すぐに誰でもムダがみえないかと言いますと、ムダをみる眼が養われていないからだと思います。毎日みているものは段々と脳の意識が薄れてしまうようですが、『慣れる』と言うことは生産現場にとっては恐ろしいことであり、問題意識が薄れていくと「エントロピーの法則」に従って全てのものは、出来上がった時点から崩壊への道を辿っていくのです。ここでなんとか崩壊への道から踏ん張っていくことが必要になりますが、生き残りを掛けての活動ができる会社と出来ない会社の分かれ道になります。その対策として、多くの会社で行われているのが、5S活動+表示・標識や目で見る管理などによる改善活動です。これらはいずれもムダを顕在化させるための手段であり、なんらかの基準をつくって、その基準から入っているかとか、はみ出ているかなどを見極めて素早く元の状態にアクションを起こすものです。現場が汚れていたり、物が溢れて乱雑になっていたりしますと、どこが異常(異常な事態であり、いつもと異なる)なのか、何が異状(異常な状態であり、定めたことと異なる)なのかチンプンカンプンになってどうしたらよいかが分からなくなり、何もアクションを取ることができなくなってしまいます。

 

 しかし、白線や枠組みが施してあるだけでも、台車や仕掛品さらに治工具などがはみ出ていますとすぐに問題が顕在化してきます。つまり、何らかの基準があればそれに照らし合わせることで、誰が見てもすぐにどうすればよいかまでわかります。言葉でいちいち説明しなくても、パッと!見れば、ピン!と来て、サッと!元に戻すような機敏な一連の動作がサラリとできるようにしたいものですね。ムダも同様に何か基準があれば、簡単に誰でもすぐに発見することができます。

 

 

人の動きのモノサシは標準作業

 

 物を加工するには加工図面が必要なのは当り前のことで、これがないことには加工、生産が出来ませんし

 

発注もできませんので、必ず必要項目を描いて製図します。同様に組立に関しても、組立図を作成します。ところが、人・機械(設備)・物のなかで、自由自在に動くのは人だけですが、その人の作業のやり方については、加工図や組立図に沿って組立てればよいと考え、正しい作業順番や作業時間などを細かく指示をした物がないことがあります。その人の自由裁量にお任せして、何とかやりくりをすることをフレキシブル性があると勘違いしている会社もありました。結果として図面と同じものができればよし!と言ったものでは到底安定した高品質のものを造ることは難しいものです。逆に人の動きを見えるようにしてやれば改善ができ、より効率的に生産できることになります。それには標準作業と言うモノサシがあってはじめて改善が着実にできるようになり、現場で好き勝手に作業をやっているところに継続的な改善はできません。

 

 標準作業には、次の3つの前提があります。1つ目は人の動作が中心で、ムダ・ムラ・ムリをなくして付加価値のある働きに変えていくもの。2つ目はあくまでも繰り返し作業に対して行うもので、タクトタイムでの繰り返しを基準にします。そして3つ目が、作成するのは現場自身であるというもので、監督者がやってみせて指導して守らせることになります。他部門で作ったもので「やれ!」といわれても、やる気が出ないのは当然です。

 

 現場の標準化を進めるにあたって、一般的にはまず標準書の作成から始めます。効率的な方法を見つけて、標準書にすることは短時間で書面にて比較的容易に可能です。しかし、それを実際に維持し続けることは非常に難しいものです。標準化で最も大切なことは、その作業方法を継続的に維持できる仕組みを、現場で作ることができるかにかかっています。そして、標準化と文書化は曖昧にしないためにも、必ずセットにして行います。「やらせ」ではなく、実施部門が自ら標準書を作成して、その改善も繰り返して自ら行う仕組みづくりにしていくことです。そのためにも、定期的にメンテを行う必要があります。そのメンテの期間は、最低3ヶ月以内とします。

 

 また、間接部門や他の製造部門からの第三者の眼で見るというオージットも定期的に行い、お互いに緊張感を持って観察することも大切です。そのときには、問題点や改善案も必ず提示できるように、観察する方もお客様の視点で見るという観察の眼を鍛えておくべきです。危機感を持って意識しながら観察しますと、今まで見えなかったムダが問題として感じて相当数が発見できるようになってきます。

 

 

 

さらに進んでくる多品種小ロット化に対応するには

 

  今後はもっと多品種小ロット化が進んできますが、そうなると繰り返しのある標準となるものが少なくなってくることが考えられます。そうなると標準となるものがなくなる心配が出てきますが、そこで大切なのは新しく発想を変えることです。見方を変えて全く同じものではなく、似たようなものでのグルーピングのやり方自体を変えていくことです。例えば、工数が似たようなものを一つのグループにするとか、構造が似たものをグループにするとか、さらに部品点数や加工方法などが似ているものなど新しいグルーピングの方法を模索していきます。何とかできないかと言う積極的な発想から、どうやれば出来るかと皆さんで考えていくと、何とかできるようになってきますが成せば成るものです。

 

 「みる」という言葉がありますが、「みる」と言う漢字は非常に多くあります。良く使うのは、目に足のついた「見る」ですね。さらに、視る、観る、診る、看る、察る、臨る、監る、覧る、もっと探りますと、回るや廻るも「みる」と読みますが、意味はそれぞれ違いますが良くみると頷けますね。見方を柔軟にしていくことが、変化に対応できるのです。