1.伝えたいことが、きちんと伝わっていますか?

工場内の掲示板は、本当に活用されていますか?

 

  工場内をその会社の人たちと一緒に巡回をするときには、現場だけでなく掲示板も確認していきますが、これらからも企業の個性が出てきますので、非常に興味が湧いてきます。5Sと合わせて、この掲示板の状態を見れば、その会社や工場の管理レベルも伺うことができるいわゆる、バロメータのようなものです。単なる周知徹底するものは別として、掲示物は主に管理する側のものと管理される側のものありますが、多くの場合が管理する側に立ったものが多いようです。しかし、結果の羅列だけのグラフ化されたものがほとんどで、そこには結果に対するコメントやこれらに対する指示内容など、残念ながら肝心な「伝えたいこと」が入っていません。

 

 しかし、管理する側(発信側)の方では、このような掲示物を工場内に示すことが、1つの儀式になっているようであり、現場の人たち(受信側)がそれらを見て納得して、次はどのようなアクションをやってみようかというようなことが、考えられている様には思えません。一見パソコンから出力された印刷物は、大変綺麗で見やすいものですが、見る側(受信側)にとってはその内容までを覗き込むようなことは滅多にないようです。

 

 そもそも何の目的で掲示物は、あのように現場に貼り出してあるのでしょうか?それは発信側が、その結果を元に現場でアクションが行われることを期待しているからでしょうね。それらを見て作成した人(発信側)が伝えたいものを、キチンと伝わるようにしたものでしょうか自問自答してみてください。どうも疑問ですね。あえて訊ねていくと、作成した人は伝えたい人の本人ではなく、ご自分の部下に任せてしまって、後でホンのちょっと目を通しただけで済ましていると本音を漏らす人もいますねえ。正直なことは良いのですが、困ったものです。それらには、責任者のデータ印やハンコはないことがほとんどで、毎月決まりきったことがグラフに記入されているだけでは、現場の人たちが関心を持つはずがありません。「ああまた、今月も同じことが掲示してあるなあ」というくらいの意識しかなく、折角労力を注ぎ込んで作成したものが活かされることなく、ただの紙の掲示になってしまいます。

    

   

 

データではなく情報を伝える

 

 数値やグラフの羅列のデータからは、受信側には何をしたらよいかというアクションが、なかなか頭に浮かんできません。プリンタから排出された単なるデータではなく、何をすべきかという情報に咀嚼して、アクションに結び付ける着火剤にすべきです。情報は、「情が報われる」と書くように、一方向ではなく双方向のやり取りがこめられています。ですから管理グラフや掲示物は、発信側の「思い」が、受信側の伝えたい人たちに確実に伝わることが必要です。それは、発信側の作り方に問題があると思います。

 

 受信側の人たちが、そこからアクションを実施し、狙った目標に対して結果を出すことが求められるはずです。相手に伝わってこそ、はじめて伝えたことになるものです。

 

 最近はメールのやり取りが普通になって、手紙や葉書などの手書きによるものが、極端に少なくなってきています。今では絵手紙を描いた物は、非常に希少価値になり、相手からも喜ばれるようになってきました。著者も時々筆と絵の具と使って、絵手紙を出しますが、下手でも貰った相手は嬉しいようです。書き手側のことよりも、受け取る側のことを少し考える「心の余裕」を持ちたいものですね。

 

 

 

もっと活用するには、労を惜しまないこと

 

  折角手間隙をかけて作成するのですから、できればそれ以上の効果や結果を導き出したいものですが、何が欠けているからでしょうか?先に述べたように、その情報を活用する現場の人たちの立場に立ったものになっているかということです。知りたい、使いたいと思わせるように、発信側でちょっと手間ひまをかけながら工夫して、伝わるようにすべきです。その手間を惜しんでいては、返って来るものはほんの僅かになってしまうもののようです。そこで著者がやっていることを、いくつか紹介してみましょう。

 

 ①   タイトルの文字はできるだけ大きくし、グラフとの間の空白には、責任者がこの結果で何をして

   欲しいか、できれば1行で収まるように簡潔に指示コメントを書く。これを書くことにより、そ

   のグラフや掲示物の価値が全く変わって生きたものになってきます。この少しの労力は絶対に惜

   しまないことです。

 

 ②   いつまでも古い物を貼り出すことのない様に、貼り出し期限も明確にしておく。ビールと一緒で、

   新鮮なことも大切な項目です。古い物は見向きもしなくなり、全体の掲示も見なくなってきます。

   いつも感心を持たせることも必要です。

 

 ③   白黒ではなく、できるだけカラーにして、写真やイラストを入れる。白黒だけなら、マーカーで

   一本ラインを引くだけでも、オヤッ!と思わせます。

 

 ④   誰が作成したか明確にする。それには、責任者のサインやハンコ、データ印がありますが、一番

   効果があるのは直筆のサインのようです。見た人は、一覧表に「いつ、誰」とサインを書き込め

   る欄を設けます。

 

 ⑤   管理グラフには、目標線だけでなくアクションを取るためのルールも併記します。ルールは誰が

   見ても分かるように、すぐ側にわかるようにしておきます。いつ作成したかも記入して、半年も

   変わらないものなら書換えの対象にしていきます。

 

 ⑥   グラフならば、1日、1週間などの単位をA4サイズで、オペレータが手描きで記入するようにす

   る。画面入力よりも、意識して手描きにしましょう。

 

 ⑦   著者がコメントを書き込んだときには、自分の似顔絵を描き添えます。手書きで書き込んである

   と、人は何かな?と興味を持って覗き込むようです。当然日付も記入します。このための必需品 

   は、3色ボールペンです。内容により、色を使い分けます。上司も手書きで、「思い」のあるコ

   メントを入れましょう。

 

 現在のものづくりには、物も大切ですが、それ以上に「情報」の取り扱いがもっと重要になってきます。より正確に、より速く、より効率よく伝わることが、競争力をつけることに左右します。それでは工場内を意識しながら巡回をして、身近なところから再発見してみましょう。