4.からくり改善のすすめ

お金を掛けないで、知恵を出す「からくり改善」

 

 

  米国が発端となったサブプライム問題は、米国に留まらず世界中が一気に株安になったかと思う間もなく、瞬く間に不景気も伝播してきましたが、世の中は一気に乱高下するような「不連続で変化する」時代になってきたようです。日本は過去に何度もこのようなオイルショックやバブル崩壊などの危機が降りかかるたびに、改善をしながら耐え忍んできました。この危機と言うのは、危険(ピンチ)と機会(チャンス)を同時に含んでいる含蓄のある言葉です。これをただピンチとして頭を抱えて考え込んでしまうのか、はたまたチャンスに捉えて胸を張るかは本当にサジ加減のようなちょっとしたことです。前向きに捉えるだけで、ライバルとの差別化戦略を図ったり、競争力をさらに身に付けたりすることが可能になります。何でもどう捉えるかも考え方一つだと思います。

 

 著者が数年前から講師をしている講座が、最近「からくり改善」講座となったこともあり、それを基にご紹介しましょう。この講座は、元々お金を掛けないで改善をするヒント集(ツール、手法、考え方など)を紹介していましたが、遊び心を持ちながらもっと楽しく改善をしようということから、からくりの話や歴史なども取り入れた講座に替わりました。基本はやはりお金を掛けないで、現場の皆さんの知恵を出し合いながら自ら手を下して改善を行い、ムダの廃除だけでなく生産性向上さらには、現場の雰囲気までも変えていこうというものです。「からくり」は江戸時代に大いに見世物として流行りましたが、近年企業においては特に自動車関連やプラント関係で盛んに導入されつつあります。

 

 「からくり」に似た言葉で「あやつり」がありますが、その違いは「あやつり」とはあくまでも『リアルタイムで操作すること』であり、「からくり」とは『動きを予め組むこと、あるいは仕組んだもの』です。マリオネットは糸や操っている人が丸見えですから「あやつり人形」と言い、茶運び人形などは外見では糸や歯車などの仕掛けは見えませんので、「からくり人形」と呼ばれます。「からくり改善」は、現場にあるものに「からくり」の知恵を加えながら、ワイガヤ方式で改善を進めることにより、現場の皆さんたちの潜在能力を刺激しながら明るく楽しく元気に改善が継続できるようにするものです。

 

 

 

からくりの原理原則を使い、そしてやってみよう

 

 

 不景気になるとすぐに経費削減の指示がトップから出るのは、どの会社も当たり前のことですが、そこで現場の皆さんは意気消沈してしまうのではなく、あるものを上手く使うことを考えるようにすべきです。ある設備や機械を新規に購入する場合よりも、本当で必要な機能を絞り込んで機能部品だけを入手してあとは自分たちで作り上げると、市販のものより1/4から1/10以下で出来るものです。そのヒントが「からくり」に多く含まれています。さらにあったらいいではなく、本当に必要かと言う基準で考えます。

 

 

 

 「からくり」をやる前にまず頭を柔らかくする必要があります。それはほとんどの人の頭が、思い込みで凝り固まっているので自由な発想ができないのです。すぐに柔らかくするには、『ピタゴラスイッチ』(NHK教育の朝の子供番組)を見るのが効果的でコストも掛からないヒントです。これはビー玉が転がる様を色々な「からくり仕掛け(著者はそう思っている)」を使っていますが、全て家庭内に存在するもの(箸、瓶、輪ゴム、本、紙コップなど)を応用しているのが味噌です。よ~く見ていますと、なるほど!そうだったのか!と言う「からくり」の原理が次々と見えてきます。子供の番組を良く観察すると、大人でもビックリするようなことがありますが、その典型といってよいでしょう。

 

 「からくり」の原理はいくつかありますが、その代表的なものが「テコの応用」です。テコは、少ない力で大きなものを動かすことや逆に大きな動きを小さくすることも出来ます。これを使ったものに、ハサミ、バール、ホッチキス、栓抜き、箒、獅子脅しなどがあります。「滑車」は、力の大きさと方向や距離を変えるものです。これを使ったものは、バランサー、クレーン、自動車のハンドル、さらに何とドライバー(ネジ回し)もこの原理になりますが、なるほどと思いませんか。さらに代表的なものとして、動きや方向を変える機構として「カム・リンク・ネジ」があります。「カム」は、携帯のバイブレーターや電気髭剃りなど。「リンク」は、ドラフターやパンタグラフなど。「ネジ」は、車のジャッキ(左右が右ネジと左ネジになっているので良く観察してください)、万力などです。さらに磁石、気圧、水圧、毛細管現象などいずれもなるほどと思うものですが、現場をもう一度意識しながら見渡せばいくらでも原理原則は見つかるものです。

 

 市販品や出来合いのものを購入するという考えから、必要なものは自分たちで考えてつくってしまおうと言ういわば意識改革を現場で掘りおこしていきます。なかったらあるもので、何とかやってやろうと言う前向きに取り組むことです。逆に何もないから何でもできるという発想を持つことです。私たちの潜在能力は無限の宝のようなものですが、私たちの生きている間しか賞味期限がありませんので、今使わない手はありませんね!

   

 

 

できることからやり、できるまで諦めないこと

 

 

 「からくり」を使うコツは、何でも良いからまず作ってみることです。小さなことでも、形ができると自信がつきます。この自信を自分のものにすることで、ライン全部を「からくり」を使ったものに替えてしまった人もいるほどです。もう面白くて時間が経つのも忘れるほどだそうです。しかもちょっと考えると、すぐにヒントが連鎖反応のように出るようになってくるそうです。「好きこそはものの上手なれ」とは、いい諺ですねえ。逆に好きになるといくらでもヒントがヒントを呼んでくるようになるのでしょう。このようになるには、できるようになるまで諦めないでやってみることです。人間所詮できることしかできないですから、まずはできるところから始めていくことです。小さなことができたということが、自信を持つために重要になりますので、まず小さな達成感をしっかり味わって頂くことをお勧めします。

 

 「からくり」の図面をまとめた江戸時代の有名な本「機功図彙(からくりずい:からくりの図面を集めたものと言う意味)」がありますが、この本の「訓」として書かれていることに、「子供のおもちゃ作りと大きな違いはないが、人によっては創造力や洞察力の育成の一助となるだろう」と記載されていました。皆で楽しみながらできるまでやり続けることで、何事もやり遂げることのできる素晴らしい職場ができるものと確信します。