10. 段ボールや手をもっと活用しよう

平面から立体にするには、段ボールがある

 

 

  工場内のレイアウト変更があると、まず図面を引いてから検討を始めます。そして、設備を描き込んでおよその配置を決めます。さらに部材がどの方向から投入されて、加工後にはどの方向から排出されるか、またその量も見積もって場所が確保できるかを確認していきます。さらに段替え台車の置き場、油などの補材の置き場とその量などを考慮しながら、全体の流れがスムースになるように配置してレイアウトを決めていきます。良く使う手法は、設備や台車の大きさをグラフ用紙で切り取って並べ替えていく方法です。これで上手く配置できたと思っても、現物を設置するまでは非常に不安を抱えたままになります。レイアウト変更はこのようにパラメーターが多くあり、物流改善と共に厄介なテーマの1つです。以前胃に穴が開くほど悩んだこともありました。

 

 この図面である平面のイメージから実際の立体の世界のイメージに置き換えることは、かなりの訓練が必要です。そこでお勧めするのが、どこでもある段ボールを使う方法です。現物を用意しなくても、簡単にシミュレーションできるのが大きな特徴です。しかもどこにでもあり、コストがほとんど掛からないこともメリットです。

 

 段ボールは箱にすると当然ですが立体になり、およそのイメージができます。そのもののイメージができない場合には、設備や機械の写真をコピーして貼ればよいでしょう。制御盤もその大きさに切り取り、マジックで画面やキーボードを描けば十分です。台車も段ボールで代用してしまいます。そうすることで平面であったイメージが立体の世界になり、実際にそれらを動かしていけば色々な問題を発見することができます。設備の現物を動かすには相当の労力が要りますが、段ボールは簡単に動かせますので、シミュレーションが簡単に何度もできます。そうこうするうちにアイデアが浮かんできます。

 

 このレイアウトだけではなく、簡単な設備、治工具、シューター、作業台にも展開できます。現物と同じ大きさにして、実際にそれを使って動かすことで、不具合箇所をすぐにカッターや両面テープ、結束バンド、マジックテープ、ガムテープなどを使って簡単にその場ですぐに修正や改造ができます。最初からいきなり鉄板を加工したり、曲げたりする修正・改造には非常に手間が掛かります。失敗して元に戻らないと廃棄せざるを得ないこともあります。安心して修正や改造に挑戦できません。でも段ボールだと失敗してもコストは掛かりませんので、思い切ったことができ、ビックリするようなアイデアも出てきます。頭の中で考えていてもよいアイデアは出ないもので、手を動かしながら、あれやこれやと試行錯誤する中でアイデアは出るものです。

 

 

 

人の手はどこにでもある改善の優秀な道具だ

 

 

 

  人の手は、一番フレキシブルなシミュレーションの道具で、しかも誰もが持っています。これを有効活用しない手はありません。もう少し前に、もう少し高く、もう少し傾けてなどの微妙な要求にもすぐに対応できる魔法のような道具です。手は道具のレベルを超えた武器のレベルだと確信しています。喉から手を出さなくても、孫の手や猫の手も借りなくても、ご自分の手を思い出してください。実に身近にあるもので、1本ではなく2本もあります。足らない場合には誰かを呼んでくればよいのです。それでオペレーターと一緒に治工具や部品を置けばよいかなどのシミュレーションをしていきます。

 

 これが有効なものが組立系の改善です。U字ラインの製作では、外側から部品を供給したり、治工具を差し出したりして、オペレーターと一緒に組みやすい位置を模索していきます。機械系の改善では、段取り替え改善に活用できます。設備の段取り換えに必要な治工具・材料の供給と回収を手助けしてあげます。

 

 要はもののベストポイントを素早く探すことです。やりながら何度も繰り返しながら微調整をして当たりを見つけるようなことです。ある程度決まれば先の段ボールなど形になるものに置き換えていけばよいのです。このアイデアになるまでの過程が極めて大切です。すぐにあれやこれや、ああでもない、こうでもないという試行錯誤の過程が、実際にやってみたのとそうでないことに大きな差が出てきます。手は第二の脳といわれています。動かすことで脳も活性化してくるのです。この相乗効果をもっと使いたいものです。ちなみに足は第二の心臓といわれます。机に向かって検討するのではなく、現場に出て現地現物で検討していけば早く答えが見つかります。刑事でも現場100回ともいい、靴底が擦り切れるまで現場に出向いて真犯人を見つけていきます。

   

 

 

目処が付けば正式に作り直せばよい

 

 

 

 中には設備そのものを段ボールですべて製作してしまい、まるで自社で設備をつくったかのようにしてシミュレーションをしている工場もあります。設備自体が数百万円以上と非常に高価なものであり、自社で本当に必要な機能は何かを徹底的に探っていくために活用して、大幅なコストダウンをした設備を発注するようにしています。電気や機械で動くところも段ボールを加工してしまい、それなりの姿にしてシミュレーションができるように仕立て上げます。実際には動きませんが、作業時間や動作時間は別な人が時計を持ちながら時間の指示をして次の工程に移動させます。このように時間観測もしながら実際の動きに近づけてシミュレーションを繰り返します。傍から見るとこっけいに見えますが、その効果は絶大なものがあります。気づきもビックリするほど出てきます。段ボールを使うことになぜか抵抗があるのは少々見栄があるからでしょう。子供みたいなことをして、ちょっと馬鹿らしいという潜在意識があるようです。遊び心だと思ってまずやってみることです。やり始めると本当に色々なアイデアが間違いなく出てきます。

 

 段ボールや人の手足はあくまでも試作の領域です。いつまでも暫定策でなく構想が決まればすぐに正式に使用に耐えられるものに作り変えていきます。試作の状態の不安定なままですと、壊れて事故に結びつく恐れがありますので、早々に安全で確実なものに仕上げるようにしましょう。形が決まれば段ボールを広げて展開図から加工図面に書き上げます。段ボールを広げてそのまま現物合わせしても構いません。訪問先で現場改善が始まる時には、「段ボールを恐れるな!」といって大いに使うように喚起しています。ただし怪我のないように手袋をすることを忘れないようにしましょう。