完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第10回)

人間は左回転で回るのが得意?

 スケートや陸上競技や野球などは左回転だった

 冬季オリンピックでは、テレビにクギ付けになった人が多かったと思います。特にフィギュアスケートの3回転半トリプルリッツとか4回転サルコーなど、スケート用語が何度も出てきて覚えてしまった人も多くあったことでしょう。よく見ると彼らがジャンプして回転する方向は、ほとんどが左回転でした。 

 つまり反時計方向でしたが、お気づきだったでしょうか?それより演技の方が気になってそれどころでなく着地が上手くいったのか、転倒しなければなどと、そっちの方に気が取られてしまったかもしれません。その他のスピードスケート競技もリンクも、いずれも左回転で滑走していました。

 その他の競技においても同様に、陸上競技のトラックを走る回転方向も、世界統一になっており左回転です。野球のグランドもホームベースから、一塁、二塁、三塁とこれも左回転に塁を進めながら走っていきます。これは右利きの人が多いから、ボールを投げる時に体を素直に回転させると左回転になり、自然な動きになります。右利きと左利きの人の比率は、8から9:1から2のようで、断然右利きが多いのです。野球が時計方向に塁を進めるとなると、多くの左利きの選手を集めなければ試合ができなくなります。幸い筆者は左利きなので不便は感じませんが、右利きの人は体を反転させての投球になるので苦痛になると想像できます。

 筆者が30年くらい前に、U字ラインを初めて作った時に左利きだったせいで、作業しやすかったのは右回転の時計方向でした。当時U字ラインの回る方向に関しては資料もなく、どっちでもよいと思っていました。作業確認してもらった上司も、たまたま左利きだったのでこれで良しということになり、またオペレータも初めてだったこともあって、そのまま作業をしていました。少し後に、U字ラインの歩行は反時計方向だと知ったのです。U字ラインは、反時計方向つまり左回転が作業しやすいのです。旋盤や機械設備のワークのセット方向は、左手でドアを開けて右からセットする流れになっています。これも多くの人は、利き腕が右だったということから自然にそうなったのでしょう。

 

移動しやすい回転する方向は左回転です

 自動車レースのコースや競艇のボートも左回りですが、スポーツ競技を見てみると、いずれも左回転をしているのはなぜかと考えたくなります。筆者が左利きだったということもあって、他の人とは少し違ったものの見方をしてきました。以前から不思議に人はなぜ右利きが多いのに、左回りで移動するのか疑問でした。

 最初に考えたのは、人の体には左に大切な臓器の心臓があるので、何か危険なことがあると心臓を守るために左側に身を引くため、左回転になると考えました。右側に心臓のある人の割合は、およそ1万人に1人というように非常に稀なのです。ある人は睾丸が左側の方が大きいので、つい左方向に回転するというのだととんでもない説を考えてくれましたが、女性にはまったく当てはまらないのでこの説は却下しました。

 最近はスケートの演技を何度も見たことにより、右足が蹴り出す足で左足が軸足になっているので、左回転になるという説が有力のように感じてきました。その裏付けとして、砂漠では何も目標がないが、自然に歩いていくと、人は段々と左の方向に歩いていくという実験の結果も知ることになり、やはりとこれだと思いました。眼に入ってくる映像の情報は、左側の視野は右脳に、そして右側の視野は左脳に送られて処理されます。右脳は直観や音楽、そして映像処理が得意です。逆に左脳は論理や言語分析、計算などの処理が得意です。つまり素早い動きをしようとすると、左側の方に視野を持って行った方が、脳の判断処理もしやすくなるということが考えられます。

 

方向を揃えることで、流れやリズムを作ろう

 鰯の大群が一つの大きな塊になって移動しながら、大きな魚から身を守っている映像を見ることがあります。大きな魚に食べられないように必死に逃げているので、そんな余裕はまったくないと思いますが、どの魚がリーダーなのか、どういう指示を一瞬の内にどのように伝えているのか知る由はありませんが、傍から見ると素晴らしい集団の動きに感心するばかりです。小さい魚ですが長い年月の間に生活の知恵として、大群となって威嚇をしたり、生き残りをかけた集団行動をとっています。

 工場内の人の動きや台車などの動きを、2階などの少し高い場所から15分でも観察(できればじっくりと60分)してみましょう。オペレータが、生産ラインから飛び出て素材や治工具を探すためにウロウロしている。他の人と立ち話をしている。他の人とぶつかりそうになっている等々。さらには水すましも、左回りや右回りは関係なく、バタバタ走り回っているように見える等々。といった一見秩序ある動きはどこに行ったのか、というほど乱れている様子が見えてきます。運搬や搬送といった作業には、実は付加価値はありません。モノが工程間を移動して加工が進まないことには、付加価値が生まれないから仕方なく行っている作業です。運搬や搬送は、極力削減したい作業です。

 このじっくり観察して、現状把握を自分自身で感じ取ることが大きな気づきになります。工場内の物流も方向を揃えると、流れが非常にスムースになります。この時間を作り出すこと、もっといえば時間をこじ開けてでも創り出していくことが大切です。これらの不具合を発見できたら、オペレータがラインアウトしないように水すましの作業を標準化して、作業しやすい左回転に統一して流れや一定のリズムをつくることでスムースな構内物流を作りたいものです。知っていること、分かっていること、そして事実を認識したことの違い、さらにはその違いを改善に変えていくことの違いを生むのは、ちょっとした意識と勇気の差です。しかもこれらはただです。いつやりますか?今日ですね!

図1 スポーツ競技は左回転が自然の流れ。

図2 鰯は大群でもぶつからない。