完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第12回)

ネジの付加価値は、最後の1巻き

 金魚の醤油さしは、キャップを何回回していますか?

 お弁当についている金魚の形をした醤油さしがあります。皆さんはどのようにしてその金魚から醤油を出していますか?という質問をしてみますと、①数えたことはないが、赤いキャップを外して、中身の醤油を具材にかけて、再びキャップを丁寧に閉めて食べ始めるという返事が8割もあります。②目的は、金魚の醤油さし(正式には、ランチャームと言う)から醤油を出すことなので、赤いキャップを外して具材に醤油をかけて、キャップはそのまま放置して食べるという返事が2割です。見事にパレートの法則のような数値になっています。でも問いかけている「何回キャップを回していますか?」という問いには誰も数えたことがないから、わからないと言われます。

 そこで現物を取り出して、キャップを回転させて取り外す作業を分析してみますと、4回転すると完全に赤いキャップを取り外せます。その1回転を捻る時間は約1秒くらいです。①の返事があった人たちは、外すために4回転、外したキャップを元に戻して閉めるのにも4回転、つまり8回転していることになり、時間的には約8秒かけていることになります。この時間を1秒で出来ないかという質問に切り替えて、どうすれば1秒で金魚の醤油さしから醤油を出すことができるでしょうか?ハサミやカッターなどの工具は使わないことが条件です。(5回転のものもあります)

 手首も合わせて捻ると、2秒くらいになりそうですが、乱暴に取り扱うので醤油が周囲に掛かってしまうことも考えられます。もっとスマートに、しかも楽に出来る方法を考えても、なかなか答えが出てきません。赤いキャップのネジ(厳密にはナットの部位)を完全に外さなければ、中身の液体の醤油が出てこないのだ!と固定観念を持っているので、新たな発想が出来ないのです。やはり、色々な視点を持ちたいものです。

 そこで皆さんには現地現物で、③の答えのお披露目をします。徐に赤いキャップを1回転だけ捻って、金魚の胴体を軽く押えると、キャップの隙間からポタポタと醤油がこぼれ出します。胴体を少し緩めると、空気が入り込み、胴体をさらに押し込むと醤油が再び出てきます。醤油はたったの1 回赤いキャップを捻るだけで目的を達成することができます。①のキャップを外し、再び締め直していた時間=8秒、②のキャップを外すだけの時間=4秒、③1回転回すだけ=1秒となり、ちょっとしたやり方でも何分の1の時間で目的を達成できます。原理原則をもう一度確認したいものです。

 

やらなくても良い作業は身の回りにたくさんあります

 ネジの付加価値を生むのは、ナットとネジの締付が出来るこの最後の1回転であるということです。長いネジに何回もナットをクルクルと回しても意味はないのです。部材のネジ穴もネジの有効長さの寸法指定がバラバラだったり、座繰りの処理が不明確だったりすると、生産現場では刃具の選定や加工のプログラムを変えたりと余分な作業が発生してきます。ネジ長さや太さ、座繰りの統一化や標準化が進めば、大幅な時間短縮やコストダウンが可能になっていきます。

 乗り物のプリペイドカードが、全国的に統一されました。関東と関西のICカードがバラバラでしたが、統一され、1枚のカードで済むようになり、とても便利になりました。これなら行き先を確認しながら、切符を買うという煩わしさから解放された気分になります。あとは料金不足にならないように補充をしておくだけです。このICカードで、駅近くのコンビニや商店での買い物もできる店も一気に増えて便利になり、お釣りの小銭入れもあまり使わなくて済むようになって煩わしさが少なくなってきています。財布もスマートになり、カードを探すというムダもなくしていくことに有効な取り組みと歓迎しています。自宅に居ながら、銀行とのやり取りが出来るインターネットバンキングは夜中でもいつでもよく、場所の移動も不要になってきます。

 最近感動した便利な商品が、辛子やタレが一体となってゼリー状になっている納豆です。従来の納豆の形態では、フタを開けると辛子やタレの袋があり、さらに納豆と分離するフィルムもあり、それらを取る、切り口を裂く、取り出す、汚れないように置いておく、それらを混ぜる、食べる、後片付けをするという一連の作業になります。袋から中身を出す時に飛び散って汚れるという厄介なことがありました。

 新商品は、それらの介在物が一切なく、ゼリーを納豆のところに移動して混ぜるだけという便利さが感動でした。さらにフタの裏側にタレのツユが収納されており、フタを開けてパキンと二つに折れば中身が出る仕掛けになりました。まったく手が汚れない工夫です。しかもこのタレが非常に今までにない味で、美味しいという付加価値も大好きです。このメーカーは納豆では後発だったので、革新的な取り組みを得意のタレに託し、1000種類以上の実験や研究をしたそうです。 

 

便利の中にも、遊び心を見つけて楽しみましょう

 近年の車は、リモコンでドアの開閉を行っており、いちいちドアの鍵穴に鍵を差し込む行為をしなくても済みます。またエンジンをかける時も、押しボタンを押すだけにもなってきています。筆者の乗っている車は1981年製で非常に古く、ドアの開閉は鍵でしか使えません。しかもフロントの窓は三角窓で、手動で調整しなければなりません。サイドブレーキは、ハンドルの下にあるT字型のレバーを思い切り手前に引くようになっています。さらに音楽はCDプレーヤーではなく、カセットテープですので音質もあまりよくありません。余りに便利な世の中には逆行しているようですが、便利さの中にも手間を意識的にかけるという遊び心を持ちながら人生を楽しんでいます。逆の視点で見ることができ、仕事や生活の中に改善のヒントが生まれると思います。

 

 

図1 一回捻るだけで、醤油は出せる。

図2 納豆のタレはゼリー状で、混ぜるだけで手が汚れない。