完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第13回)

意識することで、見えないものが見えてくる

   部屋の中に赤いものはいくつありますか?

 セミナーなどの導入のきっかけとして、色当てクイズを使うことがあります。それを紹介してみましょう。「さて皆さんの眼が開いているかの確認のテストをしますよ。」と切り出して、「この部屋に赤い色のものがいくつあるか、今から10秒間差し上げますので数えてみてください。よーい始め!」と手を叩きスタートします。皆さんは一生懸命になって、部屋中を舐めるように赤いものを探していきます。時間になると再び手を叩き、「はい、時間になりました。皆さん、これから目を閉じてください。今からクイズを出します。いいですか?赤いものを数えてもらいましたが、これから出すクイズは、青いものはいくつあったかを思い出してください。5つ思い出したら黙って挙手をして下さい。はい、思い出してください。」と言ってまた手を叩きます。

 皆さんからは、それは反則だという声や諦めの溜息が聞こえてきますが、無視して続けます。クイズを出す時に、3つでも5つでも事前に確認しておくことが必要で、時には緑色のものが5つもあれば出題を緑に替えればよいのです。ほとんどの人は思い出せないので挙手ができません。20秒も経った頃に再び手を叩き、眼を見開いてもらいます。そして青色のものを確認して数えてもらいます。赤いものの隣にいくつもあっても赤しかカウントしないので、別の色が見えない状態になっていたのです。

 このようにあることに集中してしまうと、他のことが見えなくなります。実は見ているのですが、意識の中にはまったく入ってこなくなります。「歩きスマホ」が社会問題になっていますが、歩きながらスマホの画面に集中していると、視野が20分の1に狭くなるそうです。ですから衝突事故や転倒事故が発生することも納得できます。ある時女子高生が自転車に乗りながらスマホを操作して段差が分からず転倒してしまいましたが、メールを打ち終わるまで転倒したままの姿を目撃しました。手を貸そうと思いましたが、メール打ち続けていたので大丈夫と思い立ち去ったことがありました。自分の体のことと友達とのメールを天秤に掛けてでも、通信をしたいという気持ちは理解しがたいものを感じました。逆に彼女が、それだけ集中できることに羨ましく感じました。

 

いったんリセットして、意識することでもっと明確になる

 思い込みや先入観また固定観念が強いと、あるものしか見えなくなるという現象に陥ってしまうことがあります。勇気をもって一度リセットすることが大事です。逆に観察をする時に、何を発見するのかということを明確にしておけば、見えなかったものが見えるようになります。これから何かを始めようとする時に、皆さんで合意を取って見るべきものを見定めるようにすれば、発見する数が一気に増えます。

 虫眼鏡で太陽の光を一点集中させて紙を簡単に燃やすことができることは、既に子どもの頃から経験しています。新商品開発なども、最初の時に皆さんで集中して共有化をしておくとブレなくなり、良いものが開発できるようになるものです。昆虫の眼が単眼だけでなく複眼も両方持ち合わせているのは、獲物を探したり、敵をいち早く探したりという切羽詰まった環境から進化したものと考えられます。

 私たちの眼は単眼です。しかも肉食動物と同じように、顔の正面に左右に位置し、眼の大きさ:眼と眼の間隔:眼の大きさ=1:1.2:1の割合になるようですが、民族によってその違いが見えてきます。西洋人は狩猟民族だったことで、眼と眼の間隔が少し狭くなり小顔気味です。東洋人は農耕民族で主に草食だったこともあり、少し広くなっています。草食動物は、頭の真横に両目が配置しています。これは敵を発見しやすくする機能が進化したのでしょう。魚の眼や鳥の眼は、主に顔の左右に配置しています。昆虫は正面だったり左右にあったり、さらには単眼+複眼の複数も配置されたり、トンボのように顔眼全体が眼だったりと、多種多様化しています。

 顔の形の違いは話す言語の違いもあるようですが、主に何を発見したいかが大きな要因と考えられます。仮説ですが、何かに集中の度合いが強ければ、顔は小さくなり眼と眼の間隔も狭まります。大らかな人の顔は、左右だけでなく全体の雰囲気までみようとするので、大黒様のように大きな広い顔になります。どっちも良い点があるので、それらを上手く活用するにも、まず相手の顔を見て判断というのは意味がありそうです。「Face to Face」とは、的確な言葉だと思います。 

 また、眼が落ち着かなくキョロキョロしていることも、集中できてない信号として受け取ることができます。セミナーや講義をしている時には、聴衆の眼を見て理解しているかどうか、集中しているかどうかを都度確認しながら再確認ために、事例や例え話を出しながら話を進めています。眼は口ほどにものを言うのは本当で、焦点が合ってくるとぶれなくなります。少し意識させることで、気づかなかったことがまた発見できます。

 

文字だけでなく写真やイラストも活用してみる

 眼が開いているからものを見ているというのは錯覚だと考えた方が良いでしょう。脳が意識したものだけしか頭には残らず、見たという認識もなくなってしまいます。いわば眼を開いていてもボーっとして脳が寝ている状態は、一見外観からはわからないので困ったものですし、大きなムダにもなります。これから何を見るのかということを最初に説明し、目的を明確にして、そのための手段を一緒に検討することでぶれなくなり、見たいものが見えるようになるものです。ちょっとしたヒントで変わります。

 プレゼンも文字だけではなかなか伝わりにくいものです。それに写真やイラスト、さらに動画なども付け加えると見る意識が格段に活性化します。名刺にも文字だけでなく顔写真やイラストを加えると、すぐに思い出せて印象が随分と良くなりますね。

図1 〇が何個あるか聞くと、口は数えなくなるもの。

図2 文字に写真やイラストを加工して意識させる。