完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第3回)

仕事は遊びで、遊びは仕事という表裏一体のもの

 人はなぜ遊ぶのでしょうか?そもそも遊び人だからです 

   私たち人間を別の言い方をすると、「ホモ・サピエンス」であることはよく知られています。これは、「人は知恵を持った類」とされる動物学的な分類です。もう一つ別の言い方があり、これは「ホモ・ルーデンス」と言われ、「人は遊ぶ存在」と言うものです(ホモとは、同じもの、似たものの意味)。人間が他の動物と違う点は、言語を使って会話をし、さらに知恵を持つことがあります。さらに、笑うことや遊ぶことも根本的な相違点があります。

 なぜ人は遊ぶのかという理由は、本来人間の持っているエネルギーが慢性的にあり余っているという説があります。そのエネルギーを溜めておくことはできないようで、噴火山のようにそれを発散しなければならず、そのハケ口として遊ぶというのです。それは脳が他の動物と違って、かなり発達していることが考えられます。また、ある思想家は遊びの特徴として6つのことがあり、その中でも2つが特徴的というのです。その一つが非生産的であること。もう一つが、生活上どうしてもそれがなければならないとは思われていないことに、エネルギーを注ぎ込むことと指摘しています。そのように仕組まれていたようです。遊び始めると夢中になり、面白くて止められなくなります。

 改善を進めていくと、アイデアが出なくなるという壁に誰もがぶつかると思います。この時の脱出方法の一つに、視点を変えてみることがあります。今までの考え方を全く反対の考え方をしてみると、抜け出せなかった迷路からいとも簡単に抜け出せることがあります。生産方法においても、プッシュ方式からプル方式に考え方を替えてみると、以前とはまるっきり反対のことをやるので、最初は戸惑うことがあります。しかし、考え方が分かってくると、何をすべきかが良く見えてきます。それで一層改善を実施することが楽しくなり、時間がいつの間にか経ってしまうことに気づかなくなることがあります。その状態は疲れるという感覚がなく、いつまでやってもエネルギーが湧いてくる感じです。 

 それが遊び自体であるがゆえに、奇想天外なアイデアが現実のものになっていきます。この状態になってきますと仕事とアイデアを考えること自体が趣味のようになり、四六時中そのことに没頭するようになります。それはアイデアのヒントにならないか、現場改善のネタにならないかを考えることの境界線がなくなっていきます。

 

ズームインとズームアウトを繰り返し、視点を変える

  「今までと同じ見方だけをやっていては、だんだんと現実が見えなくなるものです。日本では幼児語で車のことを「ぶー、ぶー」といいますが、ドイツでは「Zoom、Zoom(ズーム、ズーム)」といいます。どこかで聞いたようなCMですが、まさにそのものです。このズームで、2つの見方をしていきます。まず「ズームイン」は、そのことに焦点を当てることですが、まさに虫の眼で事細かく見ていくものです。まるで地面を舐めるように!です。刑事も現場百回と、現場に何度も足を運び、調査して証拠を探し出し、犯人を見つけていきます。調査したことは、自分の感情を入れることなく虫の眼で見ますと、「あり(蟻)のままに、あますところなく、ありあり(蟻蟻)と」客観的にまとめて誰でも見てわかるようにします。

 次は「ズームアウト」ですが、今度は地面から一気に空高く舞い上がり、鳥になって全体や周辺の状況も見て事実を確認していきます。自工程で発生する不良の半分は対策ができますが、あとの半分は前工程に原因があるので対策を自ら取ることはできません。それは、前工程からくる材料や半完成品に不良があることと、設計自体に問題があるからです。工場において、入り口から出口までの流れをすべて知っている人はいません。また製品の製造工程において、部品の受入から加工、組立、検査、梱包、完成品倉庫、出荷までの流れの全体像を知らない人も実に多くいます。一部の工程のみを知っているだけでは、良い問題解決にはなりません。その工程だけを見ていても本当の原因は掴めません。入り口から出口まですべてを見渡すことで、異常がどこにあるのかが、見えるようになります。仕事はお互いの関連を知ることで、弱み強みが感じ取れるようになっていきます。

 このようにズームインとズームアウトをいつでも繰り返すことで、問題そして原因、真因がだんだんと見えるようになり、さらに双方の情報も集まり、打ち手が的確になっていきます。つまり繰り返すことで、バラバラだったそれらが一体となり流れも見えてきます。この流れは、魚の眼で見ていきます。正しい事実を見つけると、問題の8割は解決したようなものです。

 

仕事の中に遊び心をいつも持ちたいものです

 アイデアが出やすくなるのは、脳がリラックスしている時です。ただし、その前に必要な情報を一杯左脳と右脳にインプットしておくことです。多くのアイデアを出すには、できるだけ広範な情報を収集することが重要です。そのコツとしては、雑学が非常に良いというのが経験則です。まったく関係ない情報ほど、とんでもなく面白いアイデアが閃きます。時間があればいつでも、ハゼのように何でも食らいつく魚のように情報を頭にインプットしておきます。できれば文字情報より映像やイラストにすると、覚えやすく思い出しやすいものです。仕事を労働と感じていては、義務にしか感じられません。そこにはノルマを果たすだけになり、人間ではなく、まるでロボットに陥ってしまいます。それでは、アイデアも改善も出てきません。

 仕事を遊び感覚で楽しむようになるには、心のスイッチをON(遊び)にするかどうかです。それは自分自身の心の持ちようです。心に決めればよいだけなのです。決断することです。人生は長いようで短く、しかも1回きりの片道切符なのですから大いに楽しみたいものです。余裕がないと思っても、まだまだあると少し意識を変えるだけで変わることができるのです。そのためにもどんな時でも遊び心を持つことです。そのためには、いつも笑顔で笑っているようにしたいものです。仕事と遊びは、表裏一体の関係です。両方を楽しむという考えになると、楽に取り組めるものです。

 

 

図1 仕事と遊びは、実は表裏一体です。

図2 ズームインとズームアウトを繰り返し視点を変えてみる。