完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第16回)

トイレ掃除をしても臭いのはなぜ?

    A4の1枚の紙は四角形?実は立派な立方体です

  一枚のA4の紙は、四角形ですか?それとも何に見えますか?と問いかけると、ほぼ全員が四角形と答えます。本当ですか?と念を押すと、そう言われれば体積が存在するので、三角形とか四角形というものではなく、立体だとようやく気づき始めます。そうです、見かけは薄いですが、長方形の形状をして立派な立方体です。

 しかし、蟻(アリ)の眼から見ると厚さが約0.1mmの紙でも、大きな白板のように見えるかもしれません。蟻に専用の筆を持たせて、文字というより絵を描かせるといい商売になるかもしれません。人間は紙の側面に文字を書くことは難しいことですが、米粒(約縦5×横3mm)に文字を書いた「文字米粒(1文字が約1mm以下角の大きさ)」があり、これは市販もされています。これには、専用の非常に細い筆と技術と訓練と忍耐が必要でしょう。まるで虫の眼で大きく拡大しながら書いていくのでしょうが、一見できないことも諦めないで挑戦し続けていると可能になってきます。

 一部分を見るだけでは、何のものかはわかりません。人間にとっては角砂糖一粒でも、蟻にとってみれば家のように感じるものです。「木を見て森を見ず」、「灯台下暗し」という諺もあるほど、見慣れているとモノは段々と見えなくなっていきます。目的がいつの間にか、手段になってしまうこともよくあることです。そこでことあるごとに、視点を変えてみる必要があるのです。

 某自動車のCMで、「Zoom、Zoom」というフレーズがありますが、これはドイツの幼児が使う言葉です。日本語であれば、「ブー、ブー」という車の走る時の擬音を表したものです。Zoomにinとoutを付け加えると、Zoom inとZoom outになります。視点を虫の眼のように、Zoom inして、細かいものに焦点を合わせます。そして今度は、鳥の眼のようにして、Zoom outして、全体像を見る眼を持ちます。それを自在にあるいは定期的に繰り返すことで、気づかなかったことが気づくようになります。

 

トイレの部屋は六面体なので、床だけの掃除ではだめ

 トイレ掃除を生きがいにしている友人の社長がいますが、彼は朝3時半に起床して会社のトイレを素手で掃除をしていて、併せて自分の心まで磨いているといいます。便器や床も当然磨きますが、まだ少し臭いが残っていることに気づいたそうです。それは壁にも臭いが付着していることに気づいたそうで、周囲の壁も一緒に清掃をすることで、臭いの元を絶つことができたと話してくれました。

 便器に向かい、戦闘開始の準備をしてから爆弾を投下しても、すぐに水は流しません。すべて爆弾投下してから、「臭いヨシ!色ヨシ!量ヨシ!」と現物を指差し呼称して確認します。そして仕上げに白い落下傘を投下してから、おもむろに水で流してズボンをあげて一連の戦闘の終わりとします。でもその間に臭いの成分や特に男性の場合は、放水時の飛散があり、それらも空気中に漂って周囲に不時着しているはずです。

 微量かもしれませんが、毎日毎回繰り返されるので、それなりの効果を発揮してしまい、「無臭だ!」ということにはなりません。実はトイレは、狭い立方体の空間だったのです。対象となる便器と床だけを一生懸命に清掃するだけで、あとの周囲の壁に気づくことなく清掃の対象になっていなかったのです。

 そのために微量の臭いの成分が付着して、臭いの発生源になっていたのです。すぐに周囲の壁四面を掃除したところ、すっかり臭わなくなったと喜んでいました。天井を毎日清掃することは難しいのですが、一ヶ月に一回でも簡単に拭き取れば問題ないようです。そのことを教えてもらい、風呂も壁の清掃を心掛けるようになりました。かなりの水垢が付着しているものです。石鹸や洗剤の残りカスは、微生物にとっての美味しいご馳走なのでこの点も考えて、清掃してしっかり流してやることです。

 冷蔵庫で一番雑菌の多い個所は、なんとドアの取っ手らしいのです。そういえばいちいち手を洗ってドアを開閉しません。トイレ以外のドアノブにも多くの雑菌がウヨウヨいて、台所は典型的な雑菌の宝庫です。水洗いのスポンジ、排水口、蛇口といった個所です。つまり余り清掃していない、普段気づかない個所が雑菌の温床となっていたのです。清掃と合わせて、殺菌消毒を小まめにやりたいものです。工場ではチェックリストがありますが、家庭でも活用しても良いでしょう。

 

処置と対策の両面で攻めていく

 臭いがあればそれを打ち消す臭い(匂いは良いにおい、臭いは悪いににおいと区分されています)の芳香剤やそれを吸収してしまう脱臭剤があります。これらは、あくまでも処置の分野の対策です。放屁は、一度に万個単位の大腸菌まで大気中に放出するようです。放屁は下着だけでなく、大腸菌で大気汚染をしていたのです。へえ!!

 便器のフタをそのまま開けていると、大気中に飛散します。使用後は正しくフタをしたいものです。その心掛けが肝心です。使用後きちんとフタをしている人は、わずか1割です。さらにトイレットペーパーを三角折り(米国の消防署の職員がすぐに取り出せるように考案した:英語では、ファイヤーフォームと言います)をして、次の人のために準備する人もごくわずかです。筆者は両方を必ず実行しています。なぜか?家内がうるさいので習慣になりました。

 問題が発見でき、それを課題として取り組みますが、忙しいからと言って往々にして処置だけに留まってしまいがちです。処置はすぐに対応しなければなりませんが、それと同時並行的に根本対策も講じるようにします。少し時間を掛ける、少し考える、だけでも多くのヒントが生まれて根本対策になります。やり始めることです。やり続けることです。小さなことの積み重ねが、本質まで変えていくことになります。

 

 

図1 トイレは六面体だった。壁も清掃しよう。

図2 Zoom in Zoom Out を繰り返してみる。