完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第20回)

王冠のヒダの数はいくつあるでしょうか?

 王冠にヒダの数はもう130年前から変わっていません 

  今では缶ビールやペットボトルに置き換わって、ガラス瓶の容器が少なくなっています。まだまだリサイクルという点では、ガラス瓶は健在です。特にビール瓶の栓を栓抜きで勢いよくポン!と王冠を開ける音は食欲をそそりますが、実に心地よい音です。この瓶のフタになっている王冠は、中の液体の保存として非常に確実な密閉性能を持っています。そのために手の力では開けることはできないので、テコの原理を使った栓抜きを用いて抜栓します。

 栓抜きがない場合の開け方は色々あります。若い頃には自分の歯で開けることもありましたが、今では歯が欠ける恐れもあってやめています。ライターをテコにして開ける原理は、ナイフ、スプーンといった金属の板があれば抜栓できます。これらがない場合には、テーブルにあるナプキンを折りたたんで固くすれば、栓抜き代わりになります。原理原則を知っていれば、応用して抜栓ができます。

 さてこの王冠のヒダの数がいくらあるでしょうかと問いただしますと、皆さんが正しい答えを出したことはありません。この問いを数千人に投げかけましたが、1回で答えた人はいませんでした。中には52もあるという人もいましたが、誰も普段見ているのに数えたことがない事例の1つです。関心がないから数えたことがないというのが本音でしょうが、ならばこの王冠のヒダの目的は何か?という問いから考えてみましょう。

 瓶の中身が漏れないように密封するのが目的です。そして飲みたい時に栓抜きなどの工具を用いて、抜栓して中身を飲むことで王冠の役目は終了します。瓶の口の形は、円形の筒のような形状に浮き袋がついた形状になっています。さて話を戻しますが、円形のものを確実に固定するには、4点ではなく3点支持です。これはカメラの三脚、旋盤やボール盤のチャックの数も3点です。ですから3の倍数になることが想定できます。ではいくらでしょうか?実際に王冠の数を数えてみると円周なので、スタート場所に印をつけておかないと分からなくなるほどです。答えは21です。18であれば確実な密封ができなくなり本来の機能が損なわれます。逆に24であれば、ヒダが小さくなって栓抜きとのヒカカリしろが少なくなって、栓抜きが滑ってしまいます。

 この瓶の王冠のアイデアは、今から130年ほど前に考案されたものです。朝ドラの「マッサン」でワインの瓶に王冠を取り付けるカシメ作業がありましたが、これは1個1個カシメる手動式(これもテコの応用)のもので、懐かしく見ることができました。

 

瓶の口径は世界標準だった

 瓶の口径は、ビールでもコーラでもみんな直径は27mmになっており、これは世界標準になっています。ですから栓抜き1つあれば、世界中の瓶の王冠は抜栓できるのです。普段気づかないものですが、標準化されたものになっています。王冠をカシメた時の高さは、JIS規格で、5.97mmと決まっています。

著者が子どもの頃は、この王冠の裏蓋がコルク板でした。これを丁寧には剥し、シャツに王冠を付けて、その裏からこのコルク板をはめ込んでバッチにして遊んでいました。1985年頃からは、その材料もポチエチレンの樹脂に変わっていますが、サイズはまったく変わっていません。

 瓶は1500度で溶かしたガラスの材料(団子状になっており、ゴブと呼ばれる)を瓶の金型に流し込み、高圧空気を2回吹き込んで瓶の形に成型します。その後金型を開いて瓶を取出して、あとはゆっくり冷やして完成品にします。成形時間はわずか数秒ですが、瓶はリサイクルされるのがペットボトルや缶とは大きく違います。耐用年数が約8年で、年間に3回程度回収されて20回前後再利用されます。欧州ではこの瓶の使用が多かったのですが、さすがに近年はペットボトルの便利さに負けてミネラルウォーターやジュース類のガラス瓶は減ってきました。

 ドイツでは、瓶だけでなくペットボトルのリサイクルが盛んにおこなわれています。買う時に飲み物の値段に回収した時に払い戻される料金が上乗せになっており、スーパーなどに持ち込むとその料金が現金で戻ってきます。25セントですから、130円/ユーロですと約30円もします。ですから滅多に街中にはペットボトルは転がっていません。それを回収して、換金してビールを買う年金生活者のよいアルバイトになっています。因みにビール瓶は、10セント(約13円)です。日本は一升瓶が、5円であり安いと思います。日本もペットボトルなどに回収金制度を設けて、もっと街中が綺麗になれば、評判が良くなり外国からの観光客もさらに増えるのではと考えてしまいます。

 中にはへそ曲がりの会社もあるもので、フランスのアルザス地方で見つけた王冠は、なんと24のものがあり、未だに大切に保管しています。でも口径は少し大きく、栓抜きがない時でも手で力を入れて回すと抜栓できるスクリュー機能も付いていた王冠でした。ベルギーには22の王冠もあるそうですが、ベルギーのビール会社はメーカーごとにビールに合わせた個性あるグラスも作っており、グラスが欲しいといったらビールと同じ値段で売ってくれます。持って帰るのは大変でしたが、1つお土産にしました。

 

  物の大きさには使いやすいことが関係しています

  手瓶の口径は、コップに注ぎやすい大きさ、あるいは人の口に合わせた大きさと考えられます。軽自動車、普通自動車、大型自動車、バスやトラックは見たからに大きさがまったく違いますが、でもエンジンキーはどれもほぼ同じ大きさになっています。車種によって大きさが比例していますと、トラックだとバカデカイ鍵になってしまい、持ち運びだけでなく、運転席も狭くなり運転しづらくなってしまうでしょう。

 物の大きさには使いやすさが関係しているものであり、後工程のお客様がどのように使うのかを実際に現地現物で確認し、使い勝手を聴き出して良い商品づくりに反映させたいものです。変えるべきことと変えてはいけないことを見極め、良い製品づくりに反映させたいものです。

 

 

図1 王冠のヒダの数は120年前から21で変わっていません

図2 車の大きさは違ってもエンジンキーはどれもほぼ同じ