完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第23回)

時に厨房に入って、視点を変えましょう

私食べる人、奥様作る人になっていませんか?

  多くの読者の皆さんも「私食べる人、奥様が作る人」になっていると思います。筆者はたまたま十年ほど前に、半強制的に厨房に入らざる問えない状況になりました。そのために多少なりとも、食べられる料理ができるようになりました。当初は調理道具、調味料、保管している乾物などの具材がどこにあるのかわからないので、料理の前の段取り作業にかなりの時間を要していました。

 この時女性の片づけの構造と男性の片づけの構造が、まったく違うことが改めて分かりました。例えば、パソコンの画面を見ても女性の使っているアイコンは、貼り付けてあります。しかもランダムです。男性の場合は、できるだけシンプルにしてあります。そうでないと探すムダが発生するからです。厨房の調理道具なども同じで、一体何がどこにあるか全く意味不明に配置されています。これらの場所を移動すると、夫婦ケンカのネタになってしまいます。予め準備して欲しいといえば、奥様も機嫌を損なうことなく準備されるでしょう。女性脳は、バラバラに置いても記憶できるそうです。

 料理を本格的にやり始めると、思わぬ副産物に気づきました。献立作りは食べてくれる人のことを聞いてあれこれ考え、冷蔵庫の中身をチェックして足らないものや買い出しに必要なものをリストアップします。そして買い物に出掛け、どの店にいい物があり安いかも考えます。しかも何個入りか、余り多く買うと在庫になるので、その後の賞味期限も加味して買い物カゴに入れていきます。

 帰ってから手順書であるレシピを確認して、材料の外段取りを始めます。そのタイミングは、食べる時間に合わせて完成させなければなりませんので、着手時間の想定も必要になります。つまり製造リードタイムが何分掛かるかを計算して、下ごしらえをします。調理道具を準備して、それに合わせて調味料や香辛料なども用意します。具材を切ったり鍋を温めたりの外段取りをして、すぐに調理ができるようにしておきます。

 全ての材料が準備出来たら、いよいよ具材と調味料で料理をしていきます。つまり、生産開始です。途中に味見という品質確認をして、塩コショウなどで味を調えます。火が通りいい匂いがしてくれば、完成に近づきます。最後の品質確認をして、器に盛り付けしていきます。そして食卓つまり食べる人のところに運びます。

 そして五感を使って品質確認して、美味しく戴きます。食べ終わると後片付けをして、改めて料理をしてくれたことに感謝の言葉として、「ご馳走様」と言って敬意を払います。テーブルを拭き、食器も洗い元の場所にすべて戻し確認して作業完了です。

魚の眼で見ると、家庭の台所は、まるで工場における生産形態と同じ流れだと分かります。しかも家庭の料理は、たいてい奥様が、すべて一人で作業計画し、作業をして品質確認、さらに後片付けまで終始一貫して作業を行っていたのです。凄いなあ!

 

捨てていた野菜クズがお宝に変わります

 厨房の現場で作業をして虫の眼で見ていくと、とても良い気づきを得ました。今まで捨てていた野菜クズが、ある時からお宝になったのです。今まで捨てていた生ごみと称する野菜クズが、とても多いことに気づいたのです。人参やジャガイモの皮をピラーで取るとそのクズになる重量は、約10%になります。ヘタや根っこの先まで捨てればクズが、15%にもなることがあります。玉ネギ、ネギ、蓮根、キャベツなどもほぼ同じ割合でした。今までこれを「生ごみ」と称して捨てていたのです。ああもったいない!

 中世のドイツでは、飢饉の時に王様が、「人参やジャガイモの皮を剥くな!」と命令したそうです。実は、この野菜の捨てていた皮、ヘタ、種子やワタ、根には最も野菜として成長するエネルギーがある貴重な部位なのです。玉ネギの皮や根、ピーマンのヘタや種、ニンニクや生姜の皮、ネギの根、これらをファインケミカルと称するそうですが、知らない時はすべて捨てていたのです。知らないことは恐ろしいことです。しかも栄養素の最もある部位を捨てていたのです。当時の王様は偉かった!

 方法は、その部位を取っておいて、手一杯になったらそれらを鍋に入れて、臭い消しのために少量の酒を入れ、水1リットルを入れて弱火で20から30分煮込みます。冷めてからこせば完成です。約700㏄抽出でき、和洋中の何でも合う出汁が完成します。飲んでみると、優しい味の黄金色の出汁になっています。具材はできるだけ多くあれば、バランスの良い出汁になります。具材が足らない時は、昆布、干しエビ、リンゴの芯、煮干しなども加えればよいでしょう。お宝に変身させることができます。

 冷蔵庫に保管して1週間、冷凍すれば長期の保管が可能です。無料のしかも栄養素たっぷりの出汁の完成です。料理の現場に入ったからこそ、気づいたのです。この出汁を飲んでみると、美味しくしかも優しい味に感動しました。素材の旨味が実にまろやかに出ているのです。視点を変えることで、評価されなかったものが実は価値ある存在だったことが見えて来たのです。捨てられていた材料も最後に出汁になれば、本望だと思います。「野菜クズ様、いやファインケミカル様、最後までお役目ご苦労様」と言いたくなり、思わず両手を合わせてしまいました。

 

  環境を変えてみると相手のことがよく見えてきます

 男子厨房に入らずなんて言われていますが、あえて自分の立場や環境を変えることが、視点を変えて相手の身になって考える良い機会だと考えます。人は同じ環境にいると自分のことしか考えなくなり、さらに自分の都合しか考えなくなってくるものです。

 食べる立場から今度は作る側の立場になると、今までと違った次元での考えや行動が必要なります。実際にやってみますと、特に作り手の立場の苦労が身に染みて分かってきます。何気なしに作り手に、美味しい不味いといっていたことの愚かさに気づかされます。そういう意味でも、相手の立場になれる環境の変化をあえて行うことは、非常に意味があります。そして、思いやりもお互いに生まれてくるはずです。立場を変えて相手のことが分かってくると、感謝の気持ちが湧きてきます。時には買い物や後片付けは、率先してやりたいものです。生産現場も同じことですね。

図1 時には厨房に入って異次元の探検をしましょう

図2 野菜クズ、実は栄養たっぷりのお宝です