完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第26回)

心にどんな鏡を持っていますか?

眼鏡も鏡という字が使われています。さて鏡とは?

  あなたは眼鏡をかけていますか?ご多聞に漏れず著者は、小学4年から近視対策として眼鏡のお世話になっています。かれこれ50年以上になります。メガネが顔の一部になってしまい、40年来黒縁の眼鏡がトレードマークになっています。アフリカのマサイ族のブッシュマンの6.0~8.0という視力が、羨ましく思えます。飛んでいるハエの足まで見えるというのですから、狩猟生活には視力の良さが求められることがわかります。鳥は人間の数倍の視力も持っており、高い空から獲物を探します。視力の良さが命に直結しています。

 眼鏡という字に「鏡」という字が使われていますが、この「鏡」は金偏に「竟」(キョウ)です。「竟」は、さかい目で明暗の境目を映し出すという意味があります。眼鏡のレンズの先は実物がありますが、レンズを通して目に入って映るのは、拡大もしくは縮小された映像になります。遠視ならば凸レンズ、近視ならば凹レンズにより、矯正されてピントの合った映像として認識できるようになります。

 鏡は、ガラス板に裏は銀や錫などの金属が貼り付けられています。金属の表面に鏡として、被写体が写って姿を見ることができます。でも左右逆転した映像です。考えてみれば毎朝鏡を見ていますが、いつも左右反対の自分しか見ていません。人間が鏡を認識できたのは、水たまりの水面に映った自分の顔でしょう。鏡が作られたのは、人間の歴史から言えばつい最近の出来事で、工業的に大量生産できるようになったのは、わずか19世紀になってからです。

 眼鏡の他に望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡がありますが、いずれも凸レンズと凹レンズの組合せで出てきています。望遠鏡が発明されたのは17世紀で、すぐにイタリアのガリレオがバージョンアップして天体観察に使っています。天体観察をして天動説から地動説を唱えていきます。彼は現地現物で、しかも自分で工夫し改造した望遠鏡を使って、自分の眼で事実を掴んでいますので、自信を持って地動説を主張したのです。

 ガリレオは、さらに顕微鏡を発明して、虫の複眼を拡大し観察しました。望遠鏡を応用して、遠くを見ることの全く逆の小さいものを拡大して観察するという逆の発想ができたのは、彼の素晴らしい行動力だと思います。鳥の眼、虫の眼の両方を持ち合わせたので、天文学から数学、哲学まで幅広い視野で物事が見られたのでしょう。

 

心の中に望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡、何がありますか?

 望遠鏡は遠いところを見たいという要求から作られ、顕微鏡は小さいものを見たいという要求から作られました。双眼鏡は、望遠鏡の仲間です。劇場、スポーツ観戦、自然や動物観察など、遠くを見る手段に使われます。倍率という言葉が使われますが、3倍から数倍です。3倍というのは、30m先のものが10m先に見えるように拡大されることを言います。双眼鏡というくらいですから、両眼にあてて見ます。

 望遠鏡は単眼で見ますが、映像が上下反対になって見えます。双眼鏡はそれでは使いづらいので、プリズムを通して反転させます。顕微鏡も両眼で、双眼鏡のようにプリズムを通して上下を逆にして見ています。

 さて心の中の鏡は何がありますか?遠く未来を見たいとか夢を見たいという望遠鏡をお持ちでしょうか?言い方を変えると、あるべき姿を見ることができます。またあるべき姿から、逆方向に現実を見る望遠鏡の両方の見方が必要です。こうすることで、あるべき姿と現実とのギャップが見えるようになり、問題として捉えられます。

 ギャップを問題として捉えたら、それを具体的に課題として見るために両眼で見る双眼鏡が必要になります。しかも確実に焦点を当てないと、ピントに合いません。間違ったことを見てしまうと、大きなロスやムダになってしまいます。

 双眼鏡は、結婚前のお見合いのようにしっかり眼を開けて、対象物を観察せよというものです。また対象物は1つだけではありません。原因が複雑になってきているので、その周囲も観察しておく必要があります。魚の眼で、周囲の流れやトレンドも観察しましょう。街中や駅などの広告や掲示物、人のファッションや持ち物など関心を色々と持つことで、お互いの関連が糸のようにつながってきます。

 そして、実際に焦点を当てたところには、さらに拡大して原因さらに真因を見ることができる顕微鏡が必要になります。拡大することにより、見えなかったものが良く見えるようになります。倍率を大きくすると、少し動かしただけでもまったく違ったものを見てしまうことになるので注意が必要です。つまり拡大する時は、神経を集中させることが大事になります。カメラのファインダーをのぞく時には、いつも息を止めますが、皆さんはいかがですか?これでブレなくなるのです。

 

あなたの鑑は、綺麗に磨かれていますか?

  鏡つまり鑑(かがみ)とは、人間の模範、規範を意味します。コンサルとして工場や職場に出向いた時には、まず床の状態を観察します。生産活動や5S活動の結果が、床に現れると考えています。その維持管理をしているのが、オペレータはもちろんですが、実は、そこにいる上司の普段からの行動や考え方の結果が、床に状態に現れるのです。

 床が綺麗であれば、清掃がしっかり行われて、いつも清潔になっていることがわかります。ゴミ、汚れ、ホコリが散乱していたり、ラインがずれていたり、剥がれていたり、ラインをまたいでものが置かれたりすると上司の規律の乱れをすぐに察知できます。

 会社は社長で、工場は工場長で、職場は職長というように、その人の人間力で決まると考えます。いつも自分の鏡を磨くごとく、常に心の鑑を磨いておきたいものです。

図1 50年以上も眼鏡を愛用し、黒縁がトレードマークになっています

図2 心の鑑は床に表れます