完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第27回)

手のひらを反してみましょう

いつも見ているから見えないのです

 何気なく見ているあなたの腕時計ですが、文字盤や指針の形状や色を思い出すことができますか?「今何時ですか?教えてください」と時計を見て答えてもらいますが、「3時47分です」とはっきりと時間を告げてもらいます。そこで「有難うございます。さて、時計を背の方に向けて下さい」と指示します。「今3時47分でしたね。さて、時計の文字盤ですが、12時のところはどうなっていましたか?3時のところでもいいですよ。教えてください」と質問をします。

 「ええっ?うーん、思い出せないなあ。多分数字の12だと思います。いや、もしかして、ローマ字のXとⅡだったかなあ?」。「色は何色でしたか?」「ええっ?色ですか?確かシルバー、いや金色だったかも?」「長い針は、何色だったですか?」「ええっ?、長い針ですか?多分黒だったかと思いますが、いや真ん中に蛍光色の薄い緑色もあったような気がしますが?」とだんだんと自信のない答えに窮(きゅう)してしまいます。「では、時計を見て下さい!」、「ああ、12時のところは、単なる棒で色は黒、長い針はシルバーで、3時のところにはカレンダーになっていました!とほほ」といった残念な結果になります。

 「すべて間違っていましたね。ちなみに、その時計はいつから使っていますか?昨日買ったばかりですか?」「いえいえ、もう10年以上も身につけていますね!」ウソ?マジック見たいと思われるでしょうが、これは事実です。先ほど時間を確認してもらい、正確な時刻を自ら答えて戴きました。

 先ほど確かにご自分の時計を見て、時刻を認識されたはずなのです。身近にあるものほど、人は無関心になるといいますか、見えなくなってしまうようです。では実際に近くにいる人で試してみてください。8から9割の人は、正確に答えられません。

 腕時計は、1日およそ40から100回も何気なく見ているようです。最近は腕時計ではなく、スマホで時刻を確認することが多くなったようですが、スマホのアイコンの位置も思い出せますか?これも思い出すことは無理なようです。

 

さて次は手を見てみましょう

 手を見てみましょうと言いましたが、手の甲をまず見ましたか?それとも手を反して手のひらを見ましたか?あえて手を見てくださいというと、パッとひるがえして手のひらを見たかもしれません。不思議ですが、8割の人が手のひらを見てしまいます。

 普段はいつも手の甲を見ていますが、手のひらはほとんど見ることはありません。パソコンや作業をしている時は、いつも手の甲の側を見ています。見ているというより、眼に入っている状態です。手のひらを見る機会といえば、毎朝顔を洗う時くらいです。水をすくっているので直接手のひらを見ているのではなく、屈折した状態であり、しかも眼をふさいでしまうので、実は手のひらを見ることはありません。

 でも見ない代わりに、いつも物を触っているのは手のひらの方です。ちょっと触っただけでも、温度、表面の粗さ、質感など、様々な情報を得ることができます。手のひらは、手の甲と違ってつるつるとしています。しかも産毛などの体毛もありません

 手のひらを見るクイズを出しましょう。一緒にやってみてください。「左の手のひらを、10秒間見てください」、そしておもむろに「左手を握ってください」、さらに「右手でペンを持ってください」と続けます。「さて、問題を出します。手のひらを見てもらいましたが、大きく太いシワ(生命線、運命線、感情線、知能線など)が3から4本ありました。それを紙に描いてください。よーい、どん!」というと誰もが困った顔になってしまいます。

 毎日見ている自分の手のひらです。腕時計は時々付け替えることがありますが、自分の手は変えようがありません。しかも生まれてから、ずっとこの手を見てきました。描けなかったと思います。お手上げ状態だったと思いますが、大丈夫です。誰もきちんと描ける人はいないのです。じっくり見ながら、太いシワを描いてみてください。今度は手のシワを意識してみるのですから、こんな風になっていたのかと観察する力がまったく違ってくるものです。

 では、次の問題を出しましょう。今度は、人差し指を出して下さい。これも10秒間見てください。さあ10秒経ちましたら、指を畳んでください。ここで問題です。「人差し指を見てもらいましたが、今度は第一関節の指紋が描けますか?」これも描けませんね!なぜでしょうか?きっと関節のシワの数を、数えたのではありませんか?

 

手をひるがえし、問題を握って解決しましょう

  先入観とは恐ろしいもので、先に自分で問題を作ってしまったのです。なぜでしょうか?筆者は、すぐに答えを出そうとしている学校教育にあるのではと感じています。固定観念や先入観を持ちすぎると、見えるものも見えなくなるものです。

 両手を相手に差し出すようにすると、相撲のツッパリの形つまり「プッシュ」になります。会社のなかや組織間、部門間の問題もこのようにして、相手に押し付けた格好にしています。棚上げ状態の問題はどこにも引き取られませんので、問題は段々と腐りそのうち爆発してしまいます。また他責にしてしまうと、問題は一向に解決しません。

 手のひらを反して自分の方に向けて、つまり「プル」の形になりますが、その問題を握って自分に取り込みます。自責にして取り込むことで、問題の半分は解決したと考えても良いでしょう。逃げるから捕まえるという姿勢が、問題を小さくして解決しやすくするのです。心理的なことですが、ちょっとしたことで状況を一気に変えることができるのです。前向きに捉えるとは、手のひらを反すといったほんの少しのことなのです。

図1 手のひらのシワが描けますか?

図2 問題は、手のひらを反し自分が握ることで解決に向かいます