完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第29回)

ちょっと視点を変えてみましょう

同じ環境では、同じ発想しかできなくなるものです

 毎日のように新聞のネタに出てくる癒着や賄賂の事件がありますが、これらはいずれも同じ人が同じ部署に何年も居座っていたことに原因があるようです。しかもそれをチェック機能も馴れ合いになってしまい、機能しなくなって不祥事に至っています。

いつも同じやり方をしていると逆に思考能力が低下し、知らぬ間に惰性で仕事をしてしまい何も考えられなくなるものです。工場における作業も毎日同じことの繰り返しをしていると、何も考えないで作業をしてしまいがちになります。

 最近は情報のオープン化や内部告発などにより、隠し通せなくなってきています。お役所だけでなく警察や銀行なども外部との癒着が起こらないように、強制的に3年程度で職場をローテーションして職場や担当を変えています。因果応報という言葉がありますが、その報いのしっぺ返しが必ずあるものですから、悪いことはしないで良いことだけをした方が得策だと思います。

 この状態に陥らないために、いつも標準作業で指導や育成が行われ、それを基にして改善を定期的に繰り返すような仕組みが必要だと思います。3カ月ごとに標準作業を見直して、マンネリ化しないように改善のレベルアップを図りたいものです。

 強制的な見直しの仕組みがなければ、変化のない仕事や作業に陥ってしまいます。それは企業にとっては、生き残れなくなる死活問題なのです。何か定期的に刺激を与えるという仕掛けが、組み込んであると漏れも失敗も少なくなります。

 脳は余りにも多くの刺激があるとエネルギーの消費だけでなく、疲労もしてしまいます。このために正しい判断もできなくなり、生命の維持も難しくなっていきます。このためにいつものことは、スルーして考えなくても良い状況を作り対応しています。別な言い方をしますと、習慣化することで余分なエネルギーを使わない省エネ化にします。

 20数年前にテニスをしている最中にアキレス腱を断裂してしまい、それ以来リハビリとしてエアロバイクや優しいエアロビクスをしています。それに合わせプールで水中歩行にも取り組むようになりました。その際に普通に前に歩くのではなく、後ろ向きに歩くようにしています。それは普段まったく使わない後ろ歩行の筋肉、さらに後ろに対しての視線、つまりぶつからないようにと神経を使うことを狙っています。

 

葛飾北斎は環境などを変えて膨大な作品を描きました

  浮世絵で有名な葛飾北斎は、88歳までの生涯に引っ越しを90回したと言われています。実は引越しだけではなく、自分の画号である名前も30回も替えたようです。私たちが知っている葛飾北斎とは、ごく限られた時期の画号だったのです。

 彼は人気浮世絵師の勝川春章に弟子入りした時に、他の画法などを学んだことが発覚し、師匠から破門されてしまいそれ以来非常に貧乏続きになったそうです。貧乏が逆に引き金となり、何でも描いてお金にしないといけない切羽詰まった状態になり、多くの作品を描くことで世界中から認められる素晴らしい作品を残したのです。

 浮世絵のみならず描きたい絵だけではなく、挿絵、美人画、果てには漫画まで描くことになり、それが「北斎漫画」と評判になったというのですから、何が幸いするかわかなないものです。引っ越ししたり、画号を変えたりして、自分の生活環境を変えながら、自分を奮い立たせたと想像します。何が幸いするのかはわからないものですが、一心不乱に自分のレベルアップのために、描き続けたその意思の強さは見習うべきものがあります。

 時間がない、人が足りないなどとすぐに言い訳をしたいのは良くわかりますが、お客様からお金を戴いて製品やサービ、スを提供する側としては、プロフェッショナルの自覚を持ちたいものです。一流のホテルのコンシェルジェのように、お客様から無理難題を吹っ掛けられても、「はい、喜んでやります!」と言えるように心の準備や普段から想定外のことが予測や仮説を考えておくことが、自己成長の秘訣かと思います。社内における言い訳が、すぐに出るのは甘えだと考えます。

 

通勤経路など変えられるものは変えてみましょう

 さて環境を簡単に変える方法としては、身近なものが机周りの5Sが手っ取り早くしかも効果もすぐに現れます。机の上、引出の中、キャビネット、ロッカーなど、テーブルマットの下にある紙類の整理などは自分の責任範囲でできます。

 ファイルの入れ替え、タイトルの差し替え、インデックスの見直し、中身の入れ替えなどは、共有物ですからこれらは職場の仲間と一緒に一気にやってみましょう。5Sは、なかなか理屈ではわからないものですが、やってみることでわかるものなのです。物がなくなりすっきりするだけでも、目の前が開けてきます。そして、気分だけでなくものの見方まで変わってきます。

 さらに通勤の経路や出勤時間は、自分の都合で変えることができます。余裕を持って少し早目に出掛けるだけでも、今まで気づかなかった街の風景や季節の変化、服装の変化など少し視点を変えるだけで気づきが生まれます。1日気づき項目を5つ発見するという自分への課題として、観察するというきっかけで意識が変わってきます。

 そのことが職場の中にも自然に入っていけば、多くの気づきに出会うことができるようになります。気づいたことから、もっと良くするには?もっと楽にするには?もっと安全や安心できるには?とちょっと考えるだけでも見えなかったことが、見えてくるようになります。手も同じことで、いつもは手の甲を見ていますが、手のひらを180度反すことでまったく違うものが見えてきます。

図1 通勤手段や経路を変えると視点も変わります

図2 手の甲を180度返せば手のひらになります