完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第30回)

後ろ向きや過去は、刺激や気づきの宝庫です

後ろ歩行は神経も滅多に使わない筋肉も使います

 ヒトは二足歩行した時から、前に歩いたり走ったりすることを得意としています。ときたまびっくりした時や人にぶつかりそうな時に、後すざりすることはあっても後ろ向きの歩行はすることはありません。いつもその方向から見えている体や神経は、後ろのことは考えなくなってしまいます。

 人の視野も180度ではなく、もう少し狭い範囲しか見ることはできません。人と違ったことを考えたり面白いアイデアを練ったりするには、違った方法で体や神経を使い刺激することが大切だと考えています。

 前方方向以外に気を配るとか、一見見えないものにも心を配ることが、柔軟な考え方をするに必要なことだと考えます。そのためにも、時々後ろにも気を配ることをお勧めします。筆者がいつも実行しているのは、スイミングクラブのプールで後ろ歩行を中心に、左右の横歩きも加えて30~60分歩行するやり方です。

 1本のコースには、複数の方が歩いたり泳いだりしていますので、右側歩行はもちろんぶつからないように、周囲に神経を使いながら歩行します。体力を鍛える目的ではなく、非日常の時間と空間を体験するためにプールの後ろ歩行を活用しています。

 体力を鍛える点では、隣接しているジムでエアロビクスや筋トレをしています。毎回取り入れているプログラムは逆立ちです。これも非日常的な体勢ですが、普段は胃腸が下腹部に垂れ下がっている状態です。年とともに、お腹が出てくるのも自然現象です。逆立ちが簡単にできる器具があり、両肩で支え首はU字型の穴に入れます。

 逆立ちは30秒で胃腸に良い刺激をあたえるようですが、いつも5分間の模擬的な無重力状態を楽しんでいます。天橋立を景観する時に、股ぐら越しに覗(のぞ)く格好が有名ですが、その気分を逆立ちで味わいます。この見方は、普段見えないものを見ることが例えられ、妖怪をみるとか未来を見るともいわれます。

 逆立ちは頭に血が上るのではなく血が下がる状態ですが、胃腸は宙に浮いた感じになり、これで一気に活性化するそうです。要は一方向だけではなく、逆とか別な方向を見ながらバランスを取っていくことで、色々な見方が可能になると考えます。

 

たまには後ろに振り返ってみてはどうでしょうか?

 コンビニは最近出店が飽和状態になっているようですが、全国に約5万店舗もあります。約30坪の敷地に約2500アイテムの商品が陳列されおり、大抵の必要なものは代替可能で入手できる本当に便利なエリアです。この商品のうち7割の商品は、1年間の内に入れ替わると言われています。この期間内に自然淘汰されて入れ替わるなかで、いつも変わらない商品もいくつか存在しています。

 味の素(1951年にふたに穴の開いた容器発売)、チキンラーメン(1958年発売)、サインペン、日清焼そば(1963年)、オロナミンC(1965年)、ポッキー(1966年)、カップヌードル(1971年)といった誰でもご存じの商品があります。さらにボンカレー(1968年)は、当初のモデルだった松山容子さんの写真がそのままに、現在も沖縄県では販売されていますが発見した時はビックリしました。

 いつもは目先のことしか見ないで、たまには未来のことを考えてみましょうと思考の転換を図るために、コンサルの現場で檄(げき)を飛ばすこともあります。でもたまには、後ろである過去を振り返ってみることも大切です。それは現在の位置を再確認でき、さらに未来を考えるきっかけをつくるからです。

 つまり過去にも眼を向けたり、歴史を振り返ってみたりする眼を持つことです。いわばトレンドを見ていく魚の眼です。これらの商品から、現在もなお多くの消費者に支持され続けているヒントや学びを発見できると考えます。

 またその商品の誕生の経緯、開発当初の失敗事例、そしてそれらを見事に克服して乗り越えた数々の挑戦の記録などは、実話でもあり感動に溢れ勇気が湧いてきます。これらを知って商品を手に取った時に、そのストーリーに少しでも思い馳せてみると、心がグッと動くでしょう。

 

長寿命の商品は、気づきの良い事例です

 長年商品が愛され続けられているかに、時代の変化に対して商品の変化が確実にできる何かが読み取れます。変えてはいけない部分と変えても良い部分のコンセプトが、明確になっていると考えます。これを間違えると商品の寿命は尽きてしまいます。

 チキンラーメンの包装のデザインは、当初は中身が良く見えるように透明部分が多くありました。でも光が当たることを避けるため、少しずつその面積は小さくしています。また卵を入れるためのクボミを設けたりして、時代の要求を商品に反映しています。

 化学調味料の味の素の中ブタにある穴は、数が少なかったのを少しずつ増やして消費量を増やしていきました。さらに口径を大きくしたり、「サッサッサッ」の3回の掛け声で、容器を確実に振らせるという歌まで、さりげなくしかも細かく考えられています。

 ボンカレーは世界最初のレトルトカレーですが、そのパウチの材料選定から材料の加熱方法のすべてが試行錯誤の連続であり、そこで諦めなかった精神は見習うべきものです。その実験に使った釜は、まだ健在で時々実験用にも使われているそうです。何もなかったからこそ何でもゼロから実験せざるを得なく、逆に誰もやったことのないノウハウを積み重ねることができ、市場の変化にも対応できる力も鍛えられたと考えます。

 そして消費者のニーズやさらには、見えないシーズまで掘り下げる力を養われたと想像します。そして時代の変化に対応できる商品の長寿命化にも、つながっていると考えます。長い歴史のあるものからも、多くのヒントが隠されています。

図1 後ろ歩きや逆立ちすることで普段と違った視点が持てます

図2 長寿命の商品から時代の変化を知ることができます