完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第35回)

一眼レフカメラとデジカメの視点の違い

一眼レフのカメラは、片目で覗いて撮っていました

 50年ほど前に一眼レフのカメラを父親から買ってもらい、写真の撮影に夢中になりました。写真を撮るだけでなく、フィルム現像から印画紙現像、そして写真にしてコンテストに出して評価を得る一連の楽しみもありました。特に毎月の写真クラブの例会には、先輩方の喧々諤々の指摘を受けて落ち込んだり、逆に奮起したりして「次月はもっと褒めてもらい賞を取るぞ!」と意気込んで楽しく取り組んでいました。当時日本を代表する写真家の植田正治氏と塩谷定好氏が鳥取県におられて、その多くの仲間とともに写真活動がとても盛んな時代でした。

 当時はフィルムや印画紙など写真の部材は、とても高く簡単に撮影できる状況ではなく、一枚の写真のためにシャッターを1回押すにも勇気がいったものです。そのためにフィルムを入れないで撮影する「空シャッター切り」を何度もやりながら、フレームワークやシャッターチャンスを狙う訓練を重ねていたことを思い出します。

 実際に撮影する時には、慎重にシャッターを押していました。写真撮影や勉強会で先輩方から教えて戴いたのは、「何でも取り込むのではなく、被写体のなかから訴えたいものだけを撮れ!」というものでした。「カシャ!」という音は、被写体との真剣勝負の一瞬の引き算の計算が終わった瞬間でした。

 しかしこの訓練が、後になって非常に役立つことになりました。必要なものは何かという選択が一瞬でできるようになり、さらにシャッターを切ったその映像を頭に残すことができるようになったのです。訪問先の現場をパッと観た時に、「カシャ」「カシャ」と頭の中でシャッターを押すと同時に、記憶することができる訓練になっていたのです。

 一眼レフのカメラの撮影は、ファインダーという小窓を片目で覗き込み、フィルムに撮影される範囲を決めてシャッターを押します。普通右眼で覗き、左眼のまぶたを閉じます。それはファインダーの面積が小さいから仕方のないことでしたが、別の見方をすれば片目で集中して被写体を観ることにあったとも考えられます。

 この訓練のお陰で現場を30秒も観れば、いくらでも話ができるほど映像の情報が記憶できます。ただし、財布はどこ?携帯電話はどこ?といったモノ探しは多くなりましたが、トホホです。映像や図などを司るのは右脳であり、文字や言語を司るのは左脳と言われます。でもその情報の蓄積の比は、映像で記憶した方が文字の100万倍ともいわれるほど映像での記憶量があると言われており、もっと活用したいものです。

 

デジカメは、両目で画像を見ながら撮影します

 デジカメが本格的に市場に出回り始めて、筆者もフィルムから画像で記録する方法に切り替えたのが2004年頃からです。デジカメの良い点は、映像のプロバティをチェックすればいつ撮影したか、さらに枚数も瞬時に集計もしてくれます。デジカメに切り替えてから便利だったことは、軽いので持ち運びが楽、写真をいくらでも撮れる、その場で再生ができる、パソコンに入力することで画像処理ができ他の人にもすぐに提供できるなどです。

 デジカメに変えてから気づいたのは、撮影する時にカメラから顔を離して画面を見ながら撮影するスタイルに変わったことでした。被写体を狙うというとより、「みんなで一緒に撮りましょう!」というオープンな気持ちで気軽に撮影するようになったことです。また撮られる側も、気楽に被写体となってくれるようになりました。またフィルムと違って、ダメならその場で撮り直しができるようになったことも非常に便利さがあります。

 便利になると、逆なことも生じてきました。撮り直しやいくらでも撮影できるという気軽さから、その場面や瞬間切り取るという真剣さが少し低下してきたことです。改めて便利になったことに感謝しながらも、さらに真剣にその場面や瞬間を頭に焼き付けるようにシャッターを押したいと思います。

 改善事例の写真を撮り始めた2007年から、主な企業の写真の整理をしてみました。その枚数の集計をしてみますと、約1万枚にもなっていました。塵も積もれば山となることを実感したのです。何度も編集し直し取捨選択を繰り返し、またカテゴリー別に仕分け作業もしているお蔭で、ほとんどの事例が頭に入っています。コツコツとやっていくと、このような神様からのプレゼントがあるのかと思いました。

 

映像として頭に記憶させる訓練をしてみましょう

 初めてデジカメを使って撮影した時は、フロッピーディスクでした。確か8枚撮ったら容量が一杯になり、すぐにパソコンに移し替えてリセットして再度撮影した記憶があります。それでもすぐに、みんなで見ることができ感動していました。

 手元にある最も古いSDメモリーカードを探してみますと、記憶容量は32KBでした。現在使っている容量は、その千倍の32GBです。しかも値段は以前より相当安くもなっています。改めてムーアの法則(半導体の集約密度が、18から24か月で倍増する)を意識することができました。映像があれば、言葉で説明するよりも具体性が明確になり、相手にも伝わりやすくなります。

 しかし私たちの頭の記憶の仕組みは、残念ながら意識をしないことにはドンドン記憶が消されていくようになっています。そのためにも意識をしながら、映像を頭に叩き込むようにする必要があります。それを維持するためのキーワードの7つを、現場観察する時に意識するようにしています。その7つとは、安全、作業姿勢、品質、作業環境、ムダ、技術的問題、組織的問題です。これらを言葉にして発したり、メモに書き出したりしています。

 そうしてこの場面は「安全に問題がありケガをしやすいなあ」、また「これは作業姿勢が悪く疲れやすい作業になっているね」、「この場所には手直し部品が何個もあるぞ」と場面に少しでも自分なりの解説を入れてみます。そうすると、映画の場面と役者の台詞が一体になるように記憶しやすくなり、気づきをもたらします。

図1 一眼レフはまるで虫の眼だ

図2 デジカメは鳥の眼のようだ