完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第39回)

長所を見る眼と短所を見る眼

人は本来弱い動物なので、危険を察知する能力があった

 動物の歴史を探ってみますと、霊長類の頂点に立っている人類の歴史は諸説ありますが、約500万年しか経っていなく他の動物からすると短いものです。他の動物を比べて体毛は少なく、牙や鋭い爪ありません。おまけに尻尾もありません。

 ヒトは、サルとも違い二足歩行で両手が使えるようになり、火や道具を使いこなし、さらに言葉を使って意思の疎通も図るようになってきました。さらに集団での行動や作戦も練ることで、大きな獲物も捕獲することもできるようになりました。

 また他の動物と違って脳の占める割合が大きく、その分手足が非常に弱くなっています。他の動物は、生まれてすぐに立ち上がり歩くこともお乳を自ら飲むこともします。でも人間は、よちよち歩きが1年も経たないとできなく、走ることはさらに時間もかかります。牙や爪などの攻撃する武器の鋭さや走ったりジャンプしたりする身体能力は、動物に比べ劣っていています。野生の生活においては、人間は非常に生き残っていくにはまことに辛い立場にあったと想像できます。

 なぜこのように強い武器がないのに生き延びてこられたかといえば、危険を察知する能力が高かったことが考えられます。危険を察知しさらにそれを学び、知識化して頭に残し、後世にも伝える言葉や文字、さらには絵画など共有化する手段を持っていたことが、今日まで生き延びることができたと考えます。

 現代社会でもその能力が発揮されている事例として、初めて会った人の顔を見た瞬間に、この人は仲良くなれそうとか、この人とは合わないぞ!とパッと判断してしまうことがあります。この直感は、人類としてかなり鍛えられてきています。

 メラビアンの法則で知られるように、見た目、表情、視線など視覚情報が、55%というくらい目に飛び込んでくる視覚情報で判断するのです。あと聴覚情報が35%であり、言語情報はたったの7%です。筆者の仕事は海外がほとんどで、彼らの言語はまったく理解できません。でも説明を聞いている人たちがどこまで理解し納得しているかは、視線や態度でも8割くらいは直観でわかります。

 

他人の欠点は指摘しやすいが、長所は見づらいもの

 天国と地獄の話があります。ある人が天国と地獄を見に出かけたそうです。そして両方を見てきて報告を聞いたら、意外な答えが返ってきたのです。それは、天国も地獄も同じ風景だったというのです。さらに訊ねると、天国も地獄も同じように大きな釜にうどんが煮え立っていたそうで、天国では皆さんが笑顔でうどんを食べていたが、地獄では悲壮な状態で全員が顔から血が吹き出ていたと言うのです。

 天国では、釜のうどんと長い箸で向かいの人にお互いに食べ合っていたのです。しかし、地獄では、長い箸で自分のうどんを取られないようにと、相手の眼を目掛けて長い箸を相手の眼に刺し合って、うどんは食べてはいなかったということでした。他人や相手の悪い点や欠点はすぐに指摘したり、けなしたりすることがとても好きなのが人の常です。逆に良い点や長所を褒めたり讃えたりするのは、あまり上手ではありません。特に日本人は、恥ずかしいとか遠慮しがちの気持ちがあるのでしょう。

 仕事や人間関係と良くしようとすれば、まず自分にして欲しいことがあれば、最初に相手が喜ぶようにしてあげると、自然に相手はしてもらったお礼を自分にお返ししてくれるというものです。その連鎖がつながっていくと、非常にスムースな流れになっていくものです。自分のことだけで考えるのではなく、常に相手のことを考えることで、何をすれば良いかが見えてきます。お互い持ちつ持たれつのお陰様の心です。

 どんなことをすれば作業はやり易くなるかといえば、あなたがオペレータになったつもりになり、こうなったら楽になるだろうと考えたことをすればよいのです。これを考えることで、さらに見えなかったことややりたいことが見えてきます。あとは繰り返してやることで、上手になります。何事も正しい考え方と訓練が大切です。

 自分の工程で作ったものを、受け入れてもらえる後工程がお客様です。お客様には、必要なものを必要な時に必要なだけ提供できるようにしておくことが求められます。しかも喜んでもらえることが、非常に大切です。作ったものの品質は良いことはもちろんであり、さらにもっと見やすい置き方、取出しやすい入れ方など、いつも後工程のお客様が喜ぶことを考えてもっと喜ばれることをやっていきます。自分つくったものを引取ってもらわないことには、次ぎの仕事ができなくなります。

 

他人の長所を見つける眼を訓練しましょう

 相手を褒める具体的な方法として、感謝したいことやありがとうの気持ちを見える形にしたものに、「サンクスカード」などがあります。まず毎日1件を目標に他人の長所を発見するツールをもとに数値化したり、ある特定の人だけに偏って褒めたりしていないかもマトリクスにしてみるとすぐにわかります。これは他人の長所を、見つける良い訓練になっています。継続していくと、会社の雰囲気がとてもよくなってきます。

 また出した件数ともらった件数もグラフに表して比較してみると、褒めた分だけ相手から返ってきて来たこともわかります。褒められるには、他人を褒めたらその分だけエコーのように返ってくることが分かります。つまり、まわりまわって自分の長所も短所も発見しやすくなるものです。

 短所はなかなか克服できるものではありません。短所のことを考えるだけでも、マイナス思考になりがちです。短所のことを考えるよりも、長所をもっと伸ばすことに専念し、合わせて他人の長所も見つける眼も訓練したいものです。

図1 危険を察知するためにパッと見たら即判断するようになった

図2 長所をもっと伸ばしましょう