完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第45回)

~~しないで○○するという発想をしてみる

「~~はないが、○○はある」という平井鳥取県知事の逆転の発想

 鳥取県が、一躍有名になったキャッチフレーズがあります。それは、「鳥取にスタバはないですが、日本一のスナバがあります!」です。この時はお隣の島根県に初めての「スタバ」ができてしまい、とうとう「スタバ」のない県が鳥取県だけになった時の平井知事の見事な切り替えしのキャッチフレーズです。

 平井知事は、どんなニュースやネタもお得意のダジャレで切り返されます。同じことでもストレートに表現しても、相手の心に残らないものをダジャレという捻りを加えることで、思わずニコっとなってしまい心に残るものです。

 鳥取県はご存知の通り、人口は60万人もいない全国最小県です。でも小さい県ゆえに隅々まで目が届き、意思疎通もすぐにできるとメリットが出てきます。知事は、いつも「~~はないが、○○はある」という逆転の発想をしておられます。いつもそのように意識されているので、ダジャレも小気味よく出てくるものと考えます。県民もそれをいつも楽しみにしています。

 会社や工場で、「改善をしましょう」と提案しても、経営者からは「お金がない、時間がない」などとできない理由を口にされます。実はご本人の意思や勇気が欠けていることがほとんどです。今いる社員をもっと活用すれば、たいていのことは可能になります。

 そこで考え方を変えて、部下もっている力をさらに活かす考えに切り替えてはどうでしょうか。部下を踏み台にして仕事をするのではなく、自分以上の人間を何人育成したかを評価基準に変えて、部下たちから慕われて押し上げられる地位になっていくことが本来の姿かと思います。

 

運ばないで運ぶという「ずぼらな精神」で仕事の見直し

 以前数えないで数えるという発想で、江戸時代から使われていた銭枡(ぜにます)という治具を紹介しました。64枚の硬貨を数えるのはミスしやすいので、64の凹みを設けた羽子板のような治具に硬貨を入れて前後左右に振っていくものです。そうすると、すべての凹みに収まれば64枚=1両に換金できた治具です。数えなくとも数えることができる極めて優れた発想と仕掛けでした。

 このような発想で、「運ばないで運ぶ」という事例を考えてみましょう。意外にも生産現場にはあるものですが、このような発想をしたことがなかったので気づかなかっただけです。例えば、今では1個流しでコンベアは不要なU字ラインになってしまったようですが、以前はコンベアで流し生産をしていました。U字ラインや屋台ラインには、今度はコンベアに変わってラインの外から部品を供給するために、シューターが導入されるようになりました。段ボールを、折り曲げれば出来上がりです。紙ホコリが気になれば、プラスチック段ボールがあります。カッターとL字に固定する結束バンドがあれば、すぐに実施できます。

 さらには、人が介在しなくても無人搬送車(AGV)で運ぶ方法も多くの企業で導入されるようになりました。しかも自作することにより、ローコストを実現されています。もっとこの考え方を発展させると、オペレータが処理していたゴミ捨てもしなくても済み水すまし要員に任せられます。そうするとオペレータは、ラインから出なくても済みます。

 ピッキングした台車を移動する時に、樹脂製のキャスターでは振動してピッキングした部品を落下することもあり、ゴム製のタイヤを装着した運搬台車に載せた事例もあります。親亀の上に子亀が載るイメージです。それは工場の建屋間のマーシャリングカーであり、空港の事例を生産ラインにも応用して、最大8台まで連結して運搬をしています。

 この考え方の応用編として、「検査しないで検査する」考え方もあります。品質保証するには、全数検査が求められます。でも工数がかかるので、これも何とかしたい思いがあります。計測するのはなく、判定するやり方だと簡単にできます。例えばノギスで寸法を測るのではなく、GO-STOPゲージで代用する方法もあります。ノギスにあらかじめ寸法を入力して、OKならば緑のランプが点灯しNGから赤となり、読み取らなくても色の判別で簡単に判定ができるものもあります。

 ずぼらな精神は、アイデアを生み出すせこい方法ですが、誰もがもっている能力です。現状維持ではなく、発想をちょっとかえればもっと便利な方法が見つかるものです。他にも「探さないで探すな」と色々と考えられます。

 

心のサイドブレーキなんか、とっちゃえ!とっちゃえ!

 ないから何でもできるという発想は、岡山の友人の日高さんに気づかせてもらいました。日高さんは、岡山県井原市美星町にある「中世夢が原」という武家屋敷がある観光施設の管理をしておられた時に知り合いました。「松田さん、ここは何にもないけど逆に何でもできるんですよ」と本当にさりげなく教えてもらいました。当初は、誰も知った人がなく行事を紹介するポスターも、一軒一軒訪ねて貼ってもらうことから始めたそうです。

 アフリカから打楽器の演奏者を呼んでコンサートをしたり、武家屋敷で神楽を催したり、竹を切って竹とんぼをつくったりなど、実にたくさんの行事や催し物を企画されてきました。何もないからこそなんでもやっちぇ!という精神に度肝を抜かれ、その後は心の師匠となっています。

 資源やアイデアがないように見えますが、しばらく考えを張り巡らしていけば見つかるものです。それらはないということではなく、まだ見つかっていないと思えば見つかるものです。できないとか無理だというマイナスの発想は、心のサイドブレーキだと称して、こんなもんとっちゃえ!とっちゃえ!!と叫ぶと自然と顔もほころんできますよ。

図1 テコのようにちいさいけど大きく変化させます

図2 ダルマだって手をだしたくなります