完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第48回)

高速で走ると視野が狭くなりますが、止まると視野が広がります

車の速度が速くなると、視野が狭くなってしまいます

 一般道路の時速60km制限のところを、スピード感をあまり感じることはないかと思います。それでも高速道路入っていくと時速100kmの世界と比較すると、はやり高速道路は緊張感が増します。そして速度が約2倍になりますので、運転中の視野は一気に狭くなります。そのために高速道路のカーブの曲率半径は、ゆったりと設計されています。速度が速すぎると道路を飛び出してしまうからです。ただ車の性能が格段に良くなって、速度メーターは時速180kmまで目盛ってあるのに時速100kmしか出せないもどかしさがあります。

 ドイツではご存知の「アウトバーン」が国中に張り巡らされています。直訳しますと「車の道」ですが、速度無制限の高速道路です。最近はレンタカーを借りて移動することが多くなり、ポイントが貯まる仕組みになっていてグレードアップもできます。いつもは1500㏄クラスのディーゼルの小型車ですが、もっと排気量の多いBMW、アウディ、ベンツ、ポルシェにも運よく乗ることができる楽しみがあります。

 ほとんどのメーカーの車種に乗りましたが、いずれも楽に時速200kmは出せます。ただ時速220km以上でも安定しているのは、やはり日本でも人気のある銘柄の車種です。ドイツの車は普通260kmまで目盛りがあり、高級車は300kmまで表示があります。追い越し車線は普通時速150から200kmで走行し、トラックや低速の車は右端にて時速100kmで走っています。

 そのどの車でも速度が出る秘密は、道路が幅広くしかもあまり高低差もなくカーブもゆったりしているからです。またドイツ人の運転マナーの良さもあり、安心して運転ができるからだと思います。後ろから追い越す車があれば、すぐに隣の車線に移動しますが、それも実にスムーズにやっています。ですからドライバーは常にバックミラーで後方車を確認しています。常時ヘッドライトを点灯させています。

 それでも時速180km以上になると、運転をしている通訳の顔が変わってきます。やはり事故したら大変ごとですから、緊張してくるのは理解できます。助手席に乗っている著者は、窓の上にあるアシストグリップを両手で持ちます。当然会話もなくなりますが、緊張すると視野も思考も狭くなるようです。

 視野という点でカメラのレンズを見てみますと、一眼レフのレンズの広角レンズは100~60度の画角があります。標準レンズは50~25度、望遠レンズは15~10度とだんだん狭くなります。超望遠レンズのうち5度のものは、500㎜の長いレンズになります。

 

ゆっくりと歩けば、見えなかったものまで見えてきます

 若かりし頃に残業や休日出勤などがむしゃらに仕事をしていましたが、突然倒れたことがありました。すぐに入院しましたが、2週間は起き上がることができず寝たままでした。今まで非常にアクティブに動いていたのに、起き上がることもできず急に生活様式が変わりました。

 ベッドの上で点滴を受けるという安静状態になり、時間が完全に止まった気がしたものです。することもないので、500㏄入りの点滴が1分間に落ちる時間を数えたり、般若心経を唱えたりしたものです。ちなみに1㏄は平均17滴です。

 ベッドから見える風景は、入院患者さんや医者や看護師さんの姿でした。ある時、杖を突いて歩いておられる高齢者の方を見た時に気づきを得ました。ゆっくりですが歩いておられるのです。動けなくなったことで、見えなかったものが見えてきたのです。それまで馬車馬のように働いていた時は、他の人がまるで止まっているかのように感じていたのです。何でももっと早く仕事ができないのか、なんでそんなに仕事が遅いのかと他人に愚痴ばかり言っていたのです。

 入院して今まで自己中心になっていたことが、動けなくなったことでようやくわかったのです。残念ですが人は痛い目に合わないと、なかなか理解や納得ができないものです。病気になったことで、その後の人生観ががらりと変わりました。若い時に気づきを得て、逆にこの入院がとても貴重な体験になりました。万事塞翁が馬という諺もストンと腹に落ちました。

 回り道を歩くことは何かを示唆しているのではないかと、せっかくならありがたく体験させてもらう前向きな姿勢に変えました。「生きている」というおこがましい考えから、「生かされている」という考え方に変わることができました。それ以降は、奉仕や貢献などという裏方の方に回るようになりました。

 

動かないで止まって観察すると、さらに細かく動きが見えてきます

 現場改善を行うようになってから、動かないで立ち止まって被観察者をじっくり観察することで、見えなかったムダがよく見えるようになったのです。さらに被観察者の動きを導線で描きながら1時間も追っていくと、今まで気づかなかったことがどんどん見えるようになってきたのです。

 早く動いていると、それ以上に遅い動きは見ることは難しくなり、気づきも少なくなります。なぜならば自分のことに精一杯になるので、他を見る余裕もなくなるからです。大野耐一氏が、ムダが見えないから「そこに丸を描いて立っておれ!」と指示されたことの意味がよくわかるようになりました。

 仕事が忙しいといって、立ち止まって観察する時間を取らないというか放棄している上司はいませんか?ムダやロスが見えないので、放置しているからこそ逆にその繰り返しになってますます時間の余裕がなくなってきます。ここで腰を据えて15分でも時間を取って立ち止まる勇気と時間を取ることで、ムダやロスを発見し廃除していきましょう。そうすることで、少しでも余裕ができて改善が少しずつできるようになるのです。

 

図1 点滴の数は寝ているから数える機会に恵まれました

図2 丸を描いてそこからでないで観察してみましょう