完全版「虫の眼・魚の眼・鳥の眼」(第49回)

制約条件があるからこそ、見えてくるものがあります

サッカーはなぜ手を使わないで、競技するのでしょうか?

  英国が発祥の地とされたといわれるスポーツがたくさんあります。ゴルフ、クリケット、テニス、サッカー、ラグビー、意外にも野球も起源は英国とされています。このように英国がスポーツの発祥の地にされているのは、いくつかの訳があると思えます。

 1つ目には、英国が世界中を植民地にしてきて、各地域で行われていたスポーツや遊びを上手く取りまとめたこと。2つ目には、今までルールが不明確であったものを自分たちでやりやすく修正し直して、多くの人が楽しめるようにしたこと。3つ目には、それらを賭け事の材料にして、さらに楽しめるようにしたことなどが考えられます。

 この中で代表的なスポーツとして、世界中の国で盛んにおこなわれているのがサッカーです。使用する用具がとても少なくボール1個でもよいこと、ルールが簡単なこと、試合時間も合計90分と事前にわかっていることなどがあります。これと野球を比較してみますと、グラブ、ベース、バットとボールと帽子、捕手用のプロテクターの各種用具、めちゃくちゃ難しいルール、9回最低2時間、延長になると4時間、5時間もなる試合時間など、どこでも誰でもできるというわけにいかないスポーツです。

 そのサッカーのルールとして、19世紀の終わりに決まったことの代表的なことが2つあります。1つは、ゴールキーパー以外はボールをもたないいこと。2つ目は、ハッキング(相手のすねを蹴る行為)はダメというものです。外国でも弁慶の泣き所は同じだったようです。このハッキングをした場合、笛を吹いて黄色か赤いカードを審判が出して警告するようにしたのです。このように試合する時のルールはとても簡単で、使う用具はボールと笛と2枚のカードだけです。このために、誰でもどこでも簡単にできるスポーツとして世界中に広まったと考えます。

 ボールを蹴り合う競技を、総称してフットボールと呼ばれています。サッカーから波及したとされるラグビーは、楕円形のボールを手にもって走ることができます。しかも相手にタックルして、押し倒すこともできる競技内容です。決定的に違うルールは、このボールをもって走ることができる点です。方やボールをもってはいかん!という考えといやボールをもって走っても良いのだ!という双方が対立して、サッカーとラグビーに分かれたというのです。どこにもへそ曲がりの考えや突飛な行動を起こす人はいるものですが、その人たちが革命や改革を行う人になっていきます。

 

制約条件があるからこそ、困ることになり知恵が出始める

 手を使わないで足だけでボールをパスしながら、相手のゴールに1回だけでも多く入れることで勝つことができるというシンプルなルールゆえに、世界中に広まったと思います。手も使ってボールを抱えて走るとなると、ボールの制御が簡単になります。足で蹴ってパスをすることで、思いのほかにボールが飛んでしまいボールの制御が一気に難しくなり、そこに面白さが生まれると考えます。またボールが1つという点にも試合に集中できるメリットがあります。ボールが2つや3つとあれば、観る方もやる方もまったく集中できません。ボールは1個で十分です。しかもどの国でやっても相手選手が変わっても、サッカーやスポーツのルールはまったく同じです。

 さて生産現場はどうでしょうか?標準手持ちは1個で十分なはずですが、2個、3個になっていませんか。異常があった時に、すぐに笛を吹いて黄色や赤いカードを出してラインをすぐに止めていますか?お金がないから、人がいないから、時間がないからと、あれこれ言い訳をして日々の改善を怠っていませんか。

 異常があってもアンドンやブザーなどで知らせても、班長やリーダーの反応なしではオペレータもやがて異常を知らせなくなります。しかも異常を隠すようになると、やがて不具合品が市場に出てクレームになってしまいます。職場内の信頼関係も崩れていきます。これらの制約条件があるからこそ、眠っている潜在能力を引き出す良い機会に変えていきましょう。

 嫌なことや困ったことがあった時は、発想を変えて「これは私の出番だ、困難を待っていました!」と喜びたいものです。これらが発生した時に、すぐに「今気が付いたぞ、ラッキー!」と叫んでみましょう。知恵を出すには、あえて心にスイッチをオンにすることです。

 

自ら制約条件を作って自分を追い込むと、アイデアが出てきます

 設計開発をしていた時期に、これはヒットだと思う実用新案を提出したことがあります。やがて公開されるとライバルメーカーの集中攻勢に遭い、周囲のパテントを完全に抑えられてしまい、結局使うことができなくなったことがありました。とても悔しい思いをしました。

 それから新商品や新構造を考案したときは、特許や実用新案を1件ではなく周囲を完全に抑えるために、アイデアを10件出すことを自分に課せました。2件、3件は割と簡単に考えることができますが、5件も周辺を考えることはかなり辛いものでした。当時は能力や発想も乏しく、頭も随分汗をかいたものです。

 でも一度10件を考えて周辺を抑えて書き上げたら、次からは自信ができて必ず達成できるようになったのです。苦にならずに逆に快感を覚えるようになったのです。上司からいわれてやったのではなく、自ら制約条件を課したのが良かったと思います。一度自分の殻を自ら破ることが、いかに自分を成長させるかを教えてくれた体験でした。お金がない、時間がない、人がいないなどという制約条件に遭遇したら、「これらの制約条件に感謝、ラッキー!」これで頭を使うことができるぞと叫んでみましょう。

 

図1 困るから心のスイッチをオンにしよう

図2 マイナス×マイナスはプラスです。プラス発想に考えましょう