2.一番お客様に近いのは現場(その1)

 コンサルタントは最初に何を要求するか?

 

 

 

  コンサルタントが初めて工場に訪問するときには、2つのスタイルがあるといわれています。その1つは、「まず、経営数値をみせてください」というもので、もう1つは、「さあ、現場に行ってみましょうか」というものだそうです。私のスタイルは後者の方ですが、このように「早速ですが、まず現場に行きましょう」と切り出しますと、経営者の皆さんは「他のコンサルタントは、まず経営数値を見せてくれというが、お前は違うのか?」と良くいわれましたが、最近はこんなことが少なくなり、随分とこのスタイルが浸透してきたものと思います。

 

 現場には、全ての結果が集約された状態で見ることができますので、まず現場に行って状況を見ればその工場が今まで活動してきた経過が手に取るように分るものです。経営数値は、情報を加工したデータであり、工場の全てを物語っているものではありません。情報からデータに変換する時に、その加工方法や処理の仕方、さらにはその加工する人の主観でも大きく内容を異なったものに表す恐れもあります。つまり、経営数値は意図的に操作が可能なものですので、そのまま鵜呑みにすることは危険です。ですから、本当の実態を我が目で確認しないことには、その工場の的確な診断をすることができません。また、その処方箋も良いものを出すこともできなくなります。データではなく、実際の現場の状況をしっかり把握しないことには、間違った診断を出したり、処方箋を書いてしまったりします。

 

 工場診断をするときには、最終工程である出荷場から順に追って、前工程である上流に遡って行きます。しかし、初めて訪問する工場では案内をしてくれる人も非常に困るようです。いつもは工場見学では、先頭工程から順に後工程の出荷場にいくのが、恒例になっていますので、今日は反対方向の出荷場からといっても戸惑うようです。物の流れとは反対なので、毎日働いていても逆に歩くことはほとんどなく、しかも後工程から説明をしながら、遡っていくのは、やはり難しいようです。

 

 

 

先頭工程から最終工程まで2回見る

 

 その案内人に、何故仕掛りがこんなにあるのか?この停滞は何故か?など矢継ぎ早に質問をしていっても案内人は、シドロモドロになって戸惑うばかりです。そこに付け込んで、コンサルタント側が主導権を握っていくのも1つの手段ですが、私のスタイルはそうではなく、まず案内しやすい先頭工程から最終工程まで見させてもらいます。その時には、質問はほとんどしないで、気の付いた点をメモに取るだけにしています。

 

 

 そして、最終工程である出荷場に行ってから、「はい、有難うございます。これから今見せて頂いた工程を逆に戻って先頭工程に行きます。色々質問をしていきますよ」といって、再び歩き始めます。元に戻りますと、一往復になりますので、2回同じ工程を見ますので、先ほどメモったことを見ながら質問していきます。案内に同行している人たちも、2回も見ることになりますので、かなり気付きを発見できます。データとは違い、現場の状態量は格段に多くのものがあります。データや文章さらに写真では、気付かないことが満ち溢れています。

   

 

 

従業員で一番お客様に近いのは現場、しかも一番人が多くいる

 

 

  会社の組織による指示、命令などの流れは、水の流れのように上から下に向かっています。しかし、物の加工、組立、検査、出荷の業務に実際に携わっているのは、現場なのです。指示、命令、指導、教育などを受けて、実際にものづくりをする現場で結果を出したものとして、製品が出荷されます。その最終的に製品を呈している現場の一人ひとりがどんな意識で、ものづくりに取り組んでいるかは非常に重要なことです。後工程から診断して行くというのは、これらの結果が最終工程に集約されているからです。このことは、現場の教育の重要性を示唆していると考えます。

 

 設備投資に熱心な経営者であっても、人材(あえて言うと人財)教育への投資は、形に見えなく、結果もすぐには出ない代物ですから、おいそれとは投資する気にはなれなかったと思います。しかし、従業員の中で一番お客様に近いのは、現場の人なのです。しかも一番人員の多いのも現場の人なのですね。彼らを全員教育して、戦力にしていけば、競争力も相当身に付けることができるはずです。

 

 小集団活動、QCサークル活動のような職場の改善活動が、組織されている工場が多くあります。実態は、手法やツールの部分の勉強が中心であり、本当に必要なのは何故この改善活動を行うのかという背景や目的が明確になっていることです。以前、6月号で紹介しました4つのフレームワークの「手法、ツール」の他に「システム」、「マネジメント」、「思想」がありますが、これらをしっかり理解し、納得して行動してもらうことが大切です。

 

 工場はライバルとの競争に勝つには、競争力を高めることが必要です。しかし、経営者やマネージャーの方は、この従業員で一番多い現場の人たちをもっと教育して、戦力組織にしていくことを余り意識されていることがない様に感じることがあります。近くにいたり、毎日見たりしているものは気付かないものなのですね。一番多く工場にいるのですから、フルに活用することは当然でしょう。一番現場を知っている人たちですから、やる気になれば凄いものになるはずです。

 

 その対応は、やはり教育が求められます。見えるものには投資は簡単ですが、この見えないものには戸惑いがあるかもしれませんが、これからはこの見えないものにいかに力を注いでいくかが、不確実性の時代には不可欠であると考えます。欧米のように4半期という非常に短期に物事を判断するのではなく、もっと中長期のスパンで見たいものです。時間は掛かりますが、それなりの成果は期待できます。