10.お客様に一番近いのは現場(その2)

お客様に一番近いがそれに気づいていない現場

 

 

 

  最近のお客様からの受注の変化として、品種が多くなってきた、発注の数量が大ロットから小ロットになってきた、納期がだんだんと短納期になってきた、これらの注文書による変化はお客様の生の情報です。製造現場で生産した製品はそのままお客様に届けられます。いちいちマネジャーやトップが製造現場や出荷場に来て確認をしていませんね。製造現場はお客様に一番近い存在であり、現場の人たちは肌でその変化を感じているはずですが、毎日のことなのでその変化には気づかないというのが本音だと思います。この手の指摘はいわれて見ないと気づかないものなのです。しかしその気づきを知ればすぐに見えてくるものなのです。でも直接お客様とは顔を逢わせることがないので実感がわかないものなのです。

 

 社長や営業マンが直接お客様と逢っているからお客様のことが分かるかといえばそうといえません。実際にお客様からの変化している注文書の品種、数量、納期は細かくは分かりません。お客様の注文される日々の変化は、それを取り扱っている現場自身が本当はよく分かるのです。それを現場の人たちは単なる作業の流れの中で、1枚の伝票という作業の1つに見てしまうと見えなくなりますが、それが貴重な情報だと捉えると途端に見え始めるのです。つまり意識することで見え始めるのです。何を感じ取るかで見え始めるのです。それらをどう捉えるかでお客様からの多品種小ロット化、短納期化、高品質化の傾向が見えてきます。その情報を基に、現場でモノと設備、治工具、工具、作業方法などを駆使してモノづくりをしています。現場の人は、現場での作業のしやすさ、やりにくさも知っていますが、慢性化してしまいそれを表現できないでいます。それを気づかせるのが上司やトップの役目です。

 

 

 

逆ピラミッドの先にお客様がいる

 

 

 会社組織は一般的に描かれるのが正三角形のピラミッド型です。この考え方は大量生産方式が確立された頃に考えられたものです。当初は組織という考え方がなく、このピラミッドの考え方は非常に納得の行く図形でした。しかもマネジメントスタイルは、上から下に指示命令形で流れることもこの図形にマッチしていました。でもこの実際の人口ピラミッドは、机の上に画鋲を置いた感じで、ごくわずかのトップと少ないマネジャー、そして多くの従業員の構成であり、非常にいびつな形です。この考え方は市場にモノが不足している時代には有効でしたが、今の市場には合わなくなってしまったのです。市場の変化が非常に激しくなってきたからです。

 

 

 モノ余り現象は今から20年くらい前の情報革命が起源になります。BRICSと呼ばれる新興国で非常に安くしかも大量に工業製品が生産されるようになり、一気にグローバル化が進みました。その結果としてモノを買う市場や消費者が俄然強くなり、品質・納期・コストさらにサービスまでも市場が決めるようになってしまったのです。モノづくりの立場からすると180度違う考え方であり、企業内のモノづくりの考え方も変えていく必要に迫られているのです。今までの組織の考え方も変えることが求められるようになります。つまり一番大切なのは利益をもたらすお客様という考え方です。これを図形に直せば逆ピラミッドになります。一番上はお客様、そして現場の従業員、その下にマネジャーや幹部、一番下が経営者・トップというものです。

 

 企業存続のためにはお客様が必要とする要求を満足させ、さらに感動まで提供することが求められます。そのために組織内の動きも変えていく必要があります。指示命令形から双方向のやり取りにして、正確に素早く情報交換ができるようにします。「えっ、そんなことはできない」といわれるトップもおられるはずですが、企業の付加価値を生んでいる部署はどこかといえば、勿論生産現場そのものと理解できるはずです。お客様に直接モノを提供している現場の人たちの意識を変えて行動を変えることがお客様の満足度を上げていくのです。従業員の満足があって、お客様の満足をつくるものだと思います。今さらトップが部下に頭を下げるというのではありません。彼らに敬意を払い、彼らの持っている潜在能力や才能を活かすことなのです。人は認めてもらいたいものなのです。

 

 逆ピラミッドをよく見ると扇子に見立てることができます。扇子には根元に要(かなめ)があります。その要そのものがトップです。扇子を大きく拡げるとその先端は大きく拡がり、仰ぐと爽やかな風を仰ぎだします。扇子の要の下には全体の扇部分(扇面)の反対部分がありますが、これが利益・ご利益に相当すると考えます。扇子を大きく開くとこの扇面部分は天と呼ばれる部分が拡がります。従業員やお客様を大切にすることで、要といわれるトップ(経営者)はおまけとして要の下にあるご利益が得られるものと考えます。利益を上げようとするには、お客様や従業員の満足度の向上や感動を提供していけば、見えなかった部分にしっかり貯まってくるものだと思います。

   

 

 

部下に権限も責任も任せることはドンドン任せていく

 

 

  この逆ピラミッドの上にさらに小さな山(たくさんのお客様)を描いて見ると、何かに似て来ませんか?ダイヤモンドですね。考え方を変えて、組織を変え社員全員でお客様の期待したことを叶えてあげることで、企業とお客様が一体化していきます。そうすると薄汚かった原石がだんだんと磨かれて非常に価値ある石つまりダイヤモンドに変身するのです。ちょっと考えすぎかもしれませんが、そのくらい人や組織は変わるものなのです。しかも基本的にはお金は掛かりません。寝かせておくのはムダです。

 

 トップやマネジャーが現場に出て、もっと部下に自分たちが抱えていた権限や責任を少しずつ下に委譲していくことが大切になります。人は任されると俄然やる気が出てくるものです。最初は心配かもしれませんが、彼らの持っている潜在能力や才能を引き出し、活用することこそこの扇子の扇面を大きくすることになります。従来からのままだと進歩は衰え、むしろ後退かもしれません。いつまでも上司がサイドブレーキを引いていては、激動といわれる今の時代についていくことができません。企業の財産であるヒトを活用していくことが、生き残り勝ち続ける重要な取り組みになります。